283 / 508
第14話:死線を超える風雲児
#06
しおりを挟むノヴァルナからの通信にドフが応答している間に、護衛の量産型『ミツルギ』四機が『センクウNX』に銃口を向けようとする。だが『センクウNX』に従うランとササーラの、親衛隊仕様『シデンSC』が素早く突出し、先に超電磁ライフルを放った。
「ラン、ササーラ。ヤツの取り巻きは任せた!」
「おまえらは、ノヴァルナ殿の護衛をやれ!」
ノヴァルナとドフは同じ内容の命令を発すると、互いの機体を一気に詰める。ランとササーラは、それぞれ二機ずつの敵機を相手取って、ドッグファイトへ持ち込んだ。その間に距離を詰めたノヴァルナとドフは、ほぼ同時に超電磁ライフルを撃ち放つ。チキンレース同様の状況で放たれた銃弾は、両機の機体の僅か1メートルほどのところを掠めた。だがノヴァルナもドフも、怯みはしない。
「面白れぇ!」
「バッハハハハ!」
二機のBSHOは互いに腰のクァンタムブレードを抜き、宇宙空間で切り結ぶ。青白いプラズマが飛び散り、その光芒が全周囲モニターを通して、コクピット内のノヴァルナとドフの瞳を光らせる。
直後に両機は、バックパックに重力子の光のリングを眩く輝かせた。ノヴァルナの『センクウNX』は黄色。ドフの『リュウガDC』はオレンジ色だ。推進力を上げた二機は、重ねたブレードをギリギリと激しく押し合う。
すると次の瞬間、ノヴァルナはブレードを滑らせて、『センクウNX』で膝蹴りを放った。『リュウガDC』の機体が猛烈に揺れる。だがドフは蛮勇ともとれる勇猛さを見せ、膝蹴りの振動をものともせずに、ブレードを振り抜いて来た。『センクウNX』の、右のショルダーアーマーが切り裂かれる。
「んなもん!」
どうってことない!…とばかりに、ノヴァルナもブレードを振るった。だがこちらも『リュウガDC』の、右大腿部の装甲を抉り取っただけであった。ドフは自分が斬撃を放った次の刹那、機体を後方へ引いて間合いを取っていたのである。つまりノヴァルナの反撃も、織り込み済みだったというわけだ。
「バッハハハ! 思った以上に鋭く深い踏み込み。あやうく右脚を失うとこでありました! なかなかおやりになる!」
一旦、機体を離脱させながら、ドフは笑い声を交えて、ノヴァルナの技量に賛辞を贈った。一方のノヴァルナは「まあな」とだけ応じ、唇を真一文字にして胸の内で呟く。
“コイツ、マジでつえーぞ!”
技量の高い者同士であれば、最初の一合で相手の強弱が分かるものである。二十歳とまだ若いノヴァルナだが、数々の戦場で直接命のやり取りをして来ており、今の一連の手合わせで、ベグン=ドフという男が人格はともかく、パイロットとしては一流だと見抜いたのだった。
「バッハハハハ! だがノヴァルナ殿、その程度の腕ではこのベグン=ドフ、斃す事など出来ませんぞ!」
自信ありげに言い放ったドフは、『リュウガDC』を旋回させながら、超電磁ライフルを連射して来る。初手合わせの相手であるから、まだオーソドックスな銃弾の散布パターンだが、照準は的確だった。
この散布パターンというのは、“銃弾の散らし方”である。敵機を攻撃する際、機体のメインコンピューターが敵機の回避コースを予想、瞬時に何万通りものコースの中から、確率の高いものを選択して、パイロットにサイバーリンクで伝達するものであり、パイロットはその情報を自分の“意識の一部”として認識しつつ、回避行動に入った敵機のコースに銃弾が先回りするよう、銃身の角度を変えながら連続射撃を行うのだ。
そしてこの散布パターンはの結果は、コンピューターにフィードバックされ、次回の射撃情報へ加えられる。つまりコンピューターが学習し、敵の回避の癖を覚えて、次第により正確な射撃を行うようになる。
ただこういう時に力を発揮するのが、ノヴァルナの無軌道ぶりであった。皇国歴1589年のムツルー宙域で模擬戦を行った、ダンティス家の若き当主のマーシャルをして、「なんだこいつは!?」と嘆かせた思いもよらぬ回避パターンに、ドフの放った銃弾は的確な散布パターンだったにもかかわらず、あてずっぽうに撃ったのか?…と見えるほど、見当違いの宇宙空間を空しく貫いた。
その一方で『センクウNX』は、光る電球に寄って来た夜の羽虫の如く、背後に見えるユジェンダルバ星系の恒星の周りを飛び回りながら、反撃の銃弾を送り込んで来る。
「むぉ、おっと!」
逆に直撃を喰らいそうになって、ドフは咄嗟に機体を翻した。だが直後にこの男が発したのは、ノヴァルナに早くも照準点を得られて先手を取られた、焦りの言葉ではなく愉悦の笑い声だ。
「バッハハハ!…バッハハハハハ!!」
ドフは操縦桿をへし折りそうなほど強く引き、『リュウガDC』を急上昇させて行く。太った腹が機体の振動でブルブル揺れる。
「こりゃあいい! 久々に、本気で殺し合いの出来そうな相手だぜぇ!!」
ドフの戦闘状況を、旗艦『ゴルワン』艦橋内の別モニターで観察していたラフ・ザスは、鉄面皮に微かな笑みを浮かべて呟いた。
「ドフめ、戦闘狂の心に、火が付いたか…」
しかしこれもラフ・ザスには計算の内だったらしい。すぐに笑いを消したラフ・ザスは参謀達へ命じた。
「ドフがノヴァルナ殿を引き付けている。これで戦場が落ち着くはずだ。戦艦部隊の砲撃で立て直す。宙雷戦隊は敵宙雷艇部隊の迎撃に専念せよ」
▶#07につづく
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる