銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第14話:死線を超える風雲児

#06

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 ノヴァルナからの通信にドフが応答している間に、護衛の量産型『ミツルギ』四機が『センクウNX』に銃口を向けようとする。だが『センクウNX』に従うランとササーラの、親衛隊仕様『シデンSC』が素早く突出し、先に超電磁ライフルを放った。

「ラン、ササーラ。ヤツの取り巻きは任せた!」

「おまえらは、ノヴァルナ殿の護衛をやれ!」

 ノヴァルナとドフは同じ内容の命令を発すると、互いの機体を一気に詰める。ランとササーラは、それぞれ二機ずつの敵機を相手取って、ドッグファイトへ持ち込んだ。その間に距離を詰めたノヴァルナとドフは、ほぼ同時に超電磁ライフルを撃ち放つ。チキンレース同様の状況で放たれた銃弾は、両機の機体の僅か1メートルほどのところを掠めた。だがノヴァルナもドフも、怯みはしない。

「面白れぇ!」

「バッハハハハ!」

 二機のBSHOは互いに腰のクァンタムブレードを抜き、宇宙空間で切り結ぶ。青白いプラズマが飛び散り、その光芒が全周囲モニターを通して、コクピット内のノヴァルナとドフの瞳を光らせる。
 直後に両機は、バックパックに重力子の光のリングを眩く輝かせた。ノヴァルナの『センクウNX』は黄色。ドフの『リュウガDC』はオレンジ色だ。推進力を上げた二機は、重ねたブレードをギリギリと激しく押し合う。
 すると次の瞬間、ノヴァルナはブレードを滑らせて、『センクウNX』で膝蹴りを放った。『リュウガDC』の機体が猛烈に揺れる。だがドフは蛮勇ともとれる勇猛さを見せ、膝蹴りの振動をものともせずに、ブレードを振り抜いて来た。『センクウNX』の、右のショルダーアーマーが切り裂かれる。

「んなもん!」

 どうってことない!…とばかりに、ノヴァルナもブレードを振るった。だがこちらも『リュウガDC』の、右大腿部の装甲を抉り取っただけであった。ドフは自分が斬撃を放った次の刹那、機体を後方へ引いて間合いを取っていたのである。つまりノヴァルナの反撃も、織り込み済みだったというわけだ。

「バッハハハ! 思った以上に鋭く深い踏み込み。あやうく右脚を失うとこでありました! なかなかおやりになる!」

 一旦、機体を離脱させながら、ドフは笑い声を交えて、ノヴァルナの技量に賛辞を贈った。一方のノヴァルナは「まあな」とだけ応じ、唇を真一文字にして胸の内で呟く。

“コイツ、マジでつえーぞ!”

 技量の高い者同士であれば、最初の一合で相手の強弱が分かるものである。二十歳とまだ若いノヴァルナだが、数々の戦場で直接命のやり取りをして来ており、今の一連の手合わせで、ベグン=ドフという男が人格はともかく、パイロットとしては一流だと見抜いたのだった。

「バッハハハハ! だがノヴァルナ殿、その程度の腕ではこのベグン=ドフ、斃す事など出来ませんぞ!」

 自信ありげに言い放ったドフは、『リュウガDC』を旋回させながら、超電磁ライフルを連射して来る。初手合わせの相手であるから、まだオーソドックスな銃弾の散布パターンだが、照準は的確だった。

 この散布パターンというのは、“銃弾の散らし方”である。敵機を攻撃する際、機体のメインコンピューターが敵機の回避コースを予想、瞬時に何万通りものコースの中から、確率の高いものを選択して、パイロットにサイバーリンクで伝達するものであり、パイロットはその情報を自分の“意識の一部”として認識しつつ、回避行動に入った敵機のコースに銃弾が先回りするよう、銃身の角度を変えながら連続射撃を行うのだ。
 そしてこの散布パターンはの結果は、コンピューターにフィードバックされ、次回の射撃情報へ加えられる。つまりコンピューターが学習し、敵の回避の癖を覚えて、次第により正確な射撃を行うようになる。

 ただこういう時に力を発揮するのが、ノヴァルナの無軌道ぶりであった。皇国歴1589年のムツルー宙域で模擬戦を行った、ダンティス家の若き当主のマーシャルをして、「なんだこいつは!?」と嘆かせた思いもよらぬ回避パターンに、ドフの放った銃弾は的確な散布パターンだったにもかかわらず、あてずっぽうに撃ったのか?…と見えるほど、見当違いの宇宙空間を空しく貫いた。

 その一方で『センクウNX』は、光る電球に寄って来た夜の羽虫の如く、背後に見えるユジェンダルバ星系の恒星の周りを飛び回りながら、反撃の銃弾を送り込んで来る。

「むぉ、おっと!」

 逆に直撃を喰らいそうになって、ドフは咄嗟に機体を翻した。だが直後にこの男が発したのは、ノヴァルナに早くも照準点を得られて先手を取られた、焦りの言葉ではなく愉悦の笑い声だ。

「バッハハハ!…バッハハハハハ!!」

 ドフは操縦桿をへし折りそうなほど強く引き、『リュウガDC』を急上昇させて行く。太った腹が機体の振動でブルブル揺れる。

「こりゃあいい! 久々に、本気で殺し合いの出来そうな相手だぜぇ!!」

 ドフの戦闘状況を、旗艦『ゴルワン』艦橋内の別モニターで観察していたラフ・ザスは、鉄面皮に微かな笑みを浮かべて呟いた。

「ドフめ、戦闘狂バーサーカーの心に、火が付いたか…」

 しかしこれもラフ・ザスには計算の内だったらしい。すぐに笑いを消したラフ・ザスは参謀達へ命じた。

「ドフがノヴァルナ殿を引き付けている。これで戦場が落ち着くはずだ。戦艦部隊の砲撃で立て直す。宙雷戦隊は敵宙雷艇部隊の迎撃に専念せよ」




▶#07につづく
 
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