銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第14話:死線を超える風雲児

#10

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 ラフ・ザスは無論、駆逐艦五隻が無人である事は知らない。そのため艦列に紛れ込んだキノッサのシャトルが、第四惑星ザーランダへ向けて暗号通信を送り始めたのを、ここまで待機し続けていた駆逐艦五隻が、行動を開始したものと判断した。

 そしてそれに合わせるかのように、キノッサは実際に五隻の駆逐艦を動かし始める。シャトルのキャビンに設置されている五つのモジュールが、それぞれの駆逐艦を遠隔操作装置となっており、操縦席のキノッサによる簡単な操艦入力を、五体のアンドロイドがサポートする仕組みとなっていた。

「出力、70…80…そろそろ行くッスよ」

 五隻の駆逐艦は傾斜陣を組んだまま、艦尾の重力子ノズルを黄色く輝かせて、速度を上げ、針路を変更してゆく。遠隔操作なら『クォルガルード』からでも可能なのだが、長距離の遠隔操作信号を『ヴァンドルデン・フォース』側に傍受されて、五隻が戦えない無人艦だと見抜かれる恐れがあるからだ。当然その針路変更は、ラフ・ザスの旗艦『ゴルワン』でも察知される。

「敵の駆逐艦別動隊が、位置を変え始めました」

 オペレーターの報告に、ラフ・ザスの参謀の一人が「針路は?」と問う。

「針路…032マイナス02」とオペレーター。

「032?…遠ざかるコースか?」

 そう反応するラフ・ザスの声に感情は窺えないが、内心ではこの駆逐艦部隊に対する疑念がさらに深まっていた。惑星ザーランダ方向への暗号通信に次いで、戦場から遠ざかるコースを取りだしたからだ。
 これが接近して来るコースを取るなら、意図も読める。宙雷戦隊同士の戦いへの増援か、戦艦部隊への突撃である。ところが実際に取ったコースは、まるで戦場から逃げ出すようなものだ。

 ラフ・ザスと同様の疑念を抱いたらしい、参謀同士が意見を交わす。

「どういう事だ? あれは」

「わからん。だがあの進行方向に、何かの理由があるのではないか?」

「まだ伏兵がいて、それと合流…」

「それこそ必要性がない。それにあの別動隊が暗号通信を送ったのは、方位ゼロゼロ…ザーランダの方向だ。向かっている先と違う」

 その言葉を聞いてラフ・ザスは新たな可能性を見出した。開戦劈頭から懸念しているキオ・スー=ウォーダ軍本隊が、後方からの挟撃を企図しているのではなく、惑星ザーランダで待ち受けているのではないか?…という可能性である。無論これは可能性であって、確認された事実ではないが、警戒すべき案件である事に変わりはない。推理というジグソーパズルに、間違った形で次々とピースが嵌り始めたラフ・ザスは、参謀達に指示を出した。

「惑星ザーランダへの進軍速度を落とす。前方警戒を厳とせよ」

 戦術状況ホログラムに表示されていた、『ヴァンドルデン・フォース』の三隻の戦艦が進撃速度を落としたのを見て、キノッサは呆れたような声を出した。

「こりゃ驚いた。連中、ほんとに速力を落としたッス!」

 隣の副操縦士席に座るネイミアも、「ホントだ…」と声を漏らす。キノッサ自身はずっと半信半疑だった、ノヴァルナの“理由は敵が考える作戦”が、図に当たった形だ。

キノッサは再び、ノヴァルナからこの策を授けられた時の事を回想する―――



「いいか。こいつぁ本来の作戦が滞って、俺が動けない状態になったと、マグナーが判断した時に使う手だ」

「はあ…」

 ノヴァルナの前置きに気のない返事をするキノッサ。

「てめーがシャトルを操縦して、駆逐艦のところへ行き、シャトルから駆逐艦をリモコン操作しろ」

「ぅえッ!?」

 座ったまま、ソファーの上で小さく跳ね上がったキノッサは、途端に焦った表情になって、ノヴァルナに問い質した。

「それって、マジ危ないんじゃ?」

「おう。死ぬかもな」

「ちょちょちょっと、んな簡単に…」

「どこにいたって、死ぬ時ゃ死ぬさ。こまけー事は気にすんな!」

「細かくないッスて!」

 困惑するキノッサにノヴァルナは、適当な物言いを引っ込め、口調を真面目なものに変えて告げる。

「だいたい今回の一件は、てめーが持ち込んだ話じゃねーか。この戦いで死ぬヤツも出るんだぜ。それが『クーギス党』の連中だった場合、てめーが後方でコソコソしてて、モルタナのねーさんに顔向け出来んのかよ?」

 そう言われてしまうと、キノッサの胸中も穏やかではない。

「べ!…別にあたしゃ、コソコソなんてしてないッスよ!」

「だったら根性出して、やってみせろって話さ。惑星ガヌーバで、ネイミアをチンピラから守った時のようにな」

 ノヴァルナの言葉で、同席していたネイミアが少し俯いて、頬を赤く染める。自分がいま一番気になっている女性の目の前で、その名前を出されて説かれるると、キノッサもその気になったらしい。

「わかりましたよ。やってやろーじゃ、ないッスか!」

 それを聞いてまた人の悪い笑顔をするノヴァルナ。

「ヘヘヘ。そうこなきゃなぁ…」

 口車に乗せられた感のあるキノッサは、やや捨て鉢気味に尋ねる。

「で?…あたしに、駆逐艦をどうしろってんです?」

「…そうだなぁ、取り合えず惑星ザーランダへ適当に暗号通信送って、あとは逃げ回っとけや」

「はぁ!?…それに、なんの意味があるんスかぁ!?」

「だから意味は相手が考えんだよ。何かの罠だと勝手に解釈して、動きを鈍らせでもしたら儲けもんじゃねーか!」



―――戦術状況ホログラムの中で、『ヴァンドルデン・フォース』の三隻の戦艦が速度を落とし、陣形を進軍用の単縦陣から、警戒用の鶴翼陣へ移行していく。その光景にノヴァルナの人の悪い笑顔が重なり、キノッサは口元を引き攣らせた………




▶#11につづく
 
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