287 / 508
第14話:死線を超える風雲児
#10
しおりを挟むラフ・ザスは無論、駆逐艦五隻が無人である事は知らない。そのため艦列に紛れ込んだキノッサのシャトルが、第四惑星ザーランダへ向けて暗号通信を送り始めたのを、ここまで待機し続けていた駆逐艦五隻が、行動を開始したものと判断した。
そしてそれに合わせるかのように、キノッサは実際に五隻の駆逐艦を動かし始める。シャトルのキャビンに設置されている五つのモジュールが、それぞれの駆逐艦を遠隔操作装置となっており、操縦席のキノッサによる簡単な操艦入力を、五体のアンドロイドがサポートする仕組みとなっていた。
「出力、70…80…そろそろ行くッスよ」
五隻の駆逐艦は傾斜陣を組んだまま、艦尾の重力子ノズルを黄色く輝かせて、速度を上げ、針路を変更してゆく。遠隔操作なら『クォルガルード』からでも可能なのだが、長距離の遠隔操作信号を『ヴァンドルデン・フォース』側に傍受されて、五隻が戦えない無人艦だと見抜かれる恐れがあるからだ。当然その針路変更は、ラフ・ザスの旗艦『ゴルワン』でも察知される。
「敵の駆逐艦別動隊が、位置を変え始めました」
オペレーターの報告に、ラフ・ザスの参謀の一人が「針路は?」と問う。
「針路…032マイナス02」とオペレーター。
「032?…遠ざかるコースか?」
そう反応するラフ・ザスの声に感情は窺えないが、内心ではこの駆逐艦部隊に対する疑念がさらに深まっていた。惑星ザーランダ方向への暗号通信に次いで、戦場から遠ざかるコースを取りだしたからだ。
これが接近して来るコースを取るなら、意図も読める。宙雷戦隊同士の戦いへの増援か、戦艦部隊への突撃である。ところが実際に取ったコースは、まるで戦場から逃げ出すようなものだ。
ラフ・ザスと同様の疑念を抱いたらしい、参謀同士が意見を交わす。
「どういう事だ? あれは」
「わからん。だがあの進行方向に、何かの理由があるのではないか?」
「まだ伏兵がいて、それと合流…」
「それこそ必要性がない。それにあの別動隊が暗号通信を送ったのは、方位ゼロゼロ…ザーランダの方向だ。向かっている先と違う」
その言葉を聞いてラフ・ザスは新たな可能性を見出した。開戦劈頭から懸念しているキオ・スー=ウォーダ軍本隊が、後方からの挟撃を企図しているのではなく、惑星ザーランダで待ち受けているのではないか?…という可能性である。無論これは可能性であって、確認された事実ではないが、警戒すべき案件である事に変わりはない。推理というジグソーパズルに、間違った形で次々とピースが嵌り始めたラフ・ザスは、参謀達に指示を出した。
「惑星ザーランダへの進軍速度を落とす。前方警戒を厳とせよ」
戦術状況ホログラムに表示されていた、『ヴァンドルデン・フォース』の三隻の戦艦が進撃速度を落としたのを見て、キノッサは呆れたような声を出した。
「こりゃ驚いた。連中、ほんとに速力を落としたッス!」
隣の副操縦士席に座るネイミアも、「ホントだ…」と声を漏らす。キノッサ自身はずっと半信半疑だった、ノヴァルナの“理由は敵が考える作戦”が、図に当たった形だ。
キノッサは再び、ノヴァルナからこの策を授けられた時の事を回想する―――
「いいか。こいつぁ本来の作戦が滞って、俺が動けない状態になったと、マグナーが判断した時に使う手だ」
「はあ…」
ノヴァルナの前置きに気のない返事をするキノッサ。
「てめーがシャトルを操縦して、駆逐艦のところへ行き、シャトルから駆逐艦をリモコン操作しろ」
「ぅえッ!?」
座ったまま、ソファーの上で小さく跳ね上がったキノッサは、途端に焦った表情になって、ノヴァルナに問い質した。
「それって、マジ危ないんじゃ?」
「おう。死ぬかもな」
「ちょちょちょっと、んな簡単に…」
「どこにいたって、死ぬ時ゃ死ぬさ。こまけー事は気にすんな!」
「細かくないッスて!」
困惑するキノッサにノヴァルナは、適当な物言いを引っ込め、口調を真面目なものに変えて告げる。
「だいたい今回の一件は、てめーが持ち込んだ話じゃねーか。この戦いで死ぬヤツも出るんだぜ。それが『クーギス党』の連中だった場合、てめーが後方でコソコソしてて、モルタナのねーさんに顔向け出来んのかよ?」
そう言われてしまうと、キノッサの胸中も穏やかではない。
「べ!…別にあたしゃ、コソコソなんてしてないッスよ!」
「だったら根性出して、やってみせろって話さ。惑星ガヌーバで、ネイミアをチンピラから守った時のようにな」
ノヴァルナの言葉で、同席していたネイミアが少し俯いて、頬を赤く染める。自分がいま一番気になっている女性の目の前で、その名前を出されて説かれるると、キノッサもその気になったらしい。
「わかりましたよ。やってやろーじゃ、ないッスか!」
それを聞いてまた人の悪い笑顔をするノヴァルナ。
「ヘヘヘ。そうこなきゃなぁ…」
口車に乗せられた感のあるキノッサは、やや捨て鉢気味に尋ねる。
「で?…あたしに、駆逐艦をどうしろってんです?」
「…そうだなぁ、取り合えず惑星ザーランダへ適当に暗号通信送って、あとは逃げ回っとけや」
「はぁ!?…それに、なんの意味があるんスかぁ!?」
「だから意味は相手が考えんだよ。何かの罠だと勝手に解釈して、動きを鈍らせでもしたら儲けもんじゃねーか!」
―――戦術状況ホログラムの中で、『ヴァンドルデン・フォース』の三隻の戦艦が速度を落とし、陣形を進軍用の単縦陣から、警戒用の鶴翼陣へ移行していく。その光景にノヴァルナの人の悪い笑顔が重なり、キノッサは口元を引き攣らせた………
▶#11につづく
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる