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第14話:死線を超える風雲児
#09
しおりを挟む五隻の無人駆逐艦は、ノヴァルナ側から見て右翼に陣を置くように配置され、少数ながらも傾斜陣を組んで航行していた。その距離は約4千万キロ。光の速度でおよそ2分半である。五隻は距離を保ったまま、戦場の移動に随伴している。
じつはこの五隻の存在がラフ・ザスにとって、ノヴァルナ側の戦術の不確定要素として、引っ掛かっていたのだ。
約4千万キロとは、ビーム兵器の射撃でも着弾まで2分強はかかり、砲戦向きの距離ではない。事実五隻は一度も砲撃を行っていなかった。そしてそれ以上に不可解なのは、戦力的に劣勢のノヴァルナ側であるのに、戦闘そのものに参加していない事だ。戦艦に対する駆逐艦最大の攻撃兵器は、宇宙魚雷に他ならない。それを活かすために駆逐艦部隊は、戦場を駆け回っているのがセオリーなのだが、相対位置を維持する以外の動きは見せていない。
それにラフ・ザスのもう一つの疑念は、ノヴァルナのキオ・スー=ウォーダ家の艦隊が、本当にどこにも潜んでいないのか?…という事だった。
現在の戦況は緒戦の先手を取られた状態から逆転し、ノヴァルナ側に不利となっている。もし本隊が別にいて挟撃を目論んでいたのであれば、その出現のタイミングをすでに、逸してしまっていると言っていい。BSI部隊戦で、ベグン=ドフがノヴァルナに対して優勢に戦っているからだ。ノヴァルナが戦死すれば、内情が不安定だと言われているキオ・スー=ウォーダ家は、こちらに関わっている場合ではなくなるだろう。
そう考えるとやはり、あの駆逐艦五隻に何らかの意味があるように、ラフ・ザスには思えて来る。
解析によれば、駆逐艦は五隻ともJW-098772星系の予備艦泊地から、ノヴァルナ側が奪った艦だった。つまりあれもキオ・スー=ウォーダの艦ではなく、敵の編成はノヴァルナ当人が乗艦していた、あの軽巡と軽空母が混ざり合ったような奇妙な艦(クォルガルード)以外は、『クーギス党』の艦に、こちらから奪った軽巡と駆逐艦ばかりなのだ。
“分からん…ノヴァルナ殿は、何を狙っておられる?”
八方破れの戦い方をする、と噂されるノヴァルナ・ダン=ウォーダに、まだ隠し玉があるような気がしてならず、ラフ・ザスは有利な戦いの中でも、考える眼をしたままだった。
するとそこに通信科のオペレーターが、気になる情報をもたらす。
「敵の別動駆逐艦部隊が、指向性暗号通信を開始。方向は第四惑星です」
それを聞いてラフ・ザスは眉をひそめた。
「第四惑星…ザーランダの方向だと?」
“まったく…ほんとに上手く、運ぶんスかねぇ………”
胸の内でそう呟いたのは、五隻の駆逐艦の間に紛れ込んだシャトルを操縦する、トゥ・キーツ=キノッサである。ラフ・ザスの座乗する『ゴルワン』が傍受した第四惑星ザーランダへ向けての暗号通信は、駆逐艦ではなく、キノッサのシャトルが発していたのだ。
それもそのはずで、駆逐艦は五隻とも無人であるから、通信など送れはしない。自動航行プログラムと遠隔操作で、ノヴァルナ達について来ただけのものだった。それを戦場の外れに、さも意味ありげに配置したのは、ノヴァルナお得意の“悪ふざけ”に近いものだ。
キノッサは眼前にホログラムで浮かび上がった、五隻の駆逐艦の遠隔操作パネルをチェックしながら、ノヴァルナから五隻の駆逐艦の意味と、この作戦を授けられた時の事を思い出していた。
「は? 意味はない?…とりあえず置いとく?…なんスか、それ?」
ノヴァルナの執務室で、ネイミアが用意してくれた紅茶と、茶菓子を相伴にあずかりながら、キノッサは頓狂な声を上げた。
ソファーの上に行儀悪く胡坐をかいたノヴァルナは、ティーカップの紅茶をひと口啜ってから、あっけらかんと応じる。
「いや、戦闘域ギリギリのところにいるようにしときゃ、あとはその理由を、連中が勝手に考えるだろうってな」
「そんなんで、いいんスかぁ?」
「駆逐艦が五隻だけでも、キッチリ陣形を組んでりゃあ、ジッとしてるだけで、なんかありそうに見えっだろ。あのヴァンドルデンってヤツ、用心深そうだからな。あーゆーヤツは、一つ一つの物事に存在理由を求めるもんさ」
「しかしッスねぇ…」
半信半疑な視線を返すキノッサ。
「だから戦いは数だって言ってっだろ? どうせ無人で戦闘には使えねーし、戦場へ持ち込んでもすぐ撃破されるだけなら、ダメモトで動かない五隻って数を、利用すりゃいーんだって話だ」
と言っておいてノヴァルナは、ネイミアが焼いた茶菓子のクッキーを口に放り込み、その味に満足してネイミアに親指を立ててみせると、不敵な笑みをキノッサに向けた。
「ただな、場合によっちゃあ…意味が出て来る」
「意味が出て来るんスか?」
「おう。そんでもって、そん時はてめーの出番だ。キノッサ」
ノヴァルナの言葉に首をかしげるキノッサ。するとノヴァルナはティーカップを飲み干し、カチャリと音をさせて受け皿の上に置く。そして不敵な笑みを、人の悪い笑顔に入れ替えて問い質した。
「おまえ、どうせヒマだろ?」
▶#10につづく
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