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第14話:死線を超える風雲児
#08
しおりを挟むノヴァルナとドフが、壮絶な一騎打ちを繰り広げている一方、ラフ・ザス率いる『ヴァンドルデン・フォース』艦隊は、優位な火力を生かして、次第に戦況を巻き返し始めていた。やはり旗艦『ゴルワン』を含む、戦艦三隻の存在が大きい。
「艦列を乱すな。このまま第四惑星ザーランダへ直進する」
ラフ・ザス麾下の三隻の戦艦は単縦陣を組み、戦場から離れようとしている。目的は惑星ザーランダへの艦砲射撃。『ヴァンドルデン・フォース』としては、これが勝利への近道だからである。
彼等にとって今回の勝利は、『クーギス党』のモルタナを捕らえる事でも、星大名ノヴァルナ・ダン=ウォーダを討ち取る事でもない。彼等の討伐をノヴァルナに願い出た、惑星ザーランダを焦土と化し、叛逆者たる住民達を皆殺しにして、中立宙域支配の見せしめとする事だからである。
それにザーランダを目指す事によって、戦況をリードするのも可能だ。ノヴァルナと『クーギス党』艦隊は、戦艦三隻の阻止を戦闘の目的とせねばならず、戦術の選択肢が少なくなるからだ。
事実、戦場自体が戦艦三隻の動きにつられて、ザーランダ方向へ動いて行っている。しかも宙雷戦隊とBSI部隊は、双方がつばぜり合いを演じており、戦艦三隻を相手に出来るのは、ノヴァルナ配下の『クォルガルード』と、『クーギス党』の二隻の軽巡航艦しかおらず、戦力的に不可能と言っていい。
そもそも戦艦三隻は、ノヴァルナとランとササーラの三機で航行不能に陥れ、軽巡の魚雷の集中攻撃でとどめを刺す計画だったのだ。それがベグン=ドフの早々の出撃で狂ってしまった。
モルタナ狙いだったドフを引き離すため、戦いを挑まざるを得なくなった事で、『ヴァンドルデン・フォース』に、戦力の立て直しの機会を与えてしまったのだ。そういった面で、ラフ・ザスのドフ投入の早期判断は間違いではなく、この男が艦隊司令官として有能である事を示していた。
その三隻の戦艦が左舷に向けた主砲を一斉に発射する。散開して回避行動に入る『クォルガルード』と『クーギス党』の軽巡。こちらも主砲の速射攻撃で反撃するが、隊列を立て直した戦艦三隻は、合計十八枚のアクティブシールドをずらりと並べ、エネルギーフィールドの相互干渉状態にして、悉くを弾き飛ばす。
「マグナー大佐。このままじゃ埒があきませんぜ!」
「なにか手を考えねぇと…」
二隻の『クーギス党』軽巡航艦の艦長を務める海賊が、対戦艦部隊戦の指揮を任されている、『クォルガルード』の艦長マグナーのもとへ通信を入れて来る。マグナーは『クーギス党』軽巡の艦長に対し、今しばらく遠距離砲戦を続けるように指示を出した。これを消極策ととった二人の艦長は、マグナーに疑念を表す。
「しかし砲撃戦で、俺らに勝ち目はありませんぜ」
「奴等がザーランダへ着く前に、何とかしねぇと!」
その言葉にマグナーは目を細めて告げた。
「それについては…ノヴァルナ様から策を授かっている」
マグナー艦長の命で、戦闘輸送艦『クォルガルード』の艦載機格納庫に、ノヴァルナの出撃に次いで、二度目の艦載機発艦命令が下る。
重力子ジェネレーターの甲高い金属音が響く格納庫。最終チェックに余念がない整備兵達。ただその格納庫にあるのは、キオ・スー=ウォーダ家の機体ではなく、『クーギス党』のASGUL六機である。そしてこの中の二機には、セゾとヴェールのイーテス兄弟が搭乗していた。二人はこの旅に急に参加させられたため、専用の機体を積み込んでいなかったのだ。
さらにBSI格納庫の後方に設けられた、シャトルのドッキングベイでも動きがある。今の状況でなぜか、シャトルが発進準備を進めていたのである。しかもこれに乗っているのは、ノヴァルナの側近、いや雑用係のキノッサだった。
「エンジン、操舵、探知機…オールグリーン。シャトル01、発進準備完了」
発進に関する最終チェックを終え、キノッサは操縦席から後ろを振り返った。そこには仮設の操作モジュールに向き合って座る、五人のアンドロイドがいる。一見すると意味不明なシャトル。だがこれこそがノヴァルナが用意していた、次善の策だったのだ。
「シャトル01。先に護衛のASGUL隊が出る。発進待て」
管制室からの指示にキノッサは「了解」と応じる。座席で身じろぎしたキノッサは、操縦桿を握っていた指をせかせかと動かして、緊張を解きほぐそうとする。とその時、まだ閉じられていなかったシャトルのハッチから、機内へ駈け込んで来た者があった。ネイミアだ。
「キーツ!」
「ネイミア?」
ハッチから飛び込んで来たネイミアに、目を丸くするキノッサ。そんなキノッサにネイミアは、息を切らせながらもきっぱりと告げた。
「や…やっぱり、あ…あたしも一緒に行く!!」
「なっ!…なに言ってるッスか!! 危ないって言ってるじゃ―――」
翻意を促すキノッサだが、ネイミアは取り合わずに、自分の意見を通した。
「みんながザーランダのために、命懸けで戦ってくれてるのに、あたしだけが安全なとこにいちゃいけないの。お願い、キーツ!!」
「しかしッスねぇ…」
ネイミアの心からの訴えにも、迷いを見せるキノッサ。ただその間にも彼を護衛するASGUL隊の発艦は進み、すぐに管制室からシャトルへ発進指示が出る。
「シャトル01、発艦せよ」
発進位置へ進むため、隔壁が開いてシャトル専用格納庫から空気が抜ける。こうなるとネイミアを帰そうにも、宇宙服を着せねばならず、そしてもはやそんな時間はない。仕方ない、とばかりにキノッサはネイミアに言った。
「副操縦士席に…隣に座るッス!」
その言葉にネイミアは表情を明るくし、「うん!」と言って副操縦士席に飛び込む。操作パネルに指を滑らせながら、キノッサは苦笑いを浮かべた。ネイミアの豪胆さに、性格こそ違うが、ノア姫と通じるものを感じたからだ。
キノッサのパネル操作で、副操縦士席に座ったネイミアの前に、シャトルの接敵警戒センサーのホログラムスクリーンが浮かび上がった。
「じゃあ、俺っちは操縦に専念するッスから、それを見てて欲しいッス。赤く点滅する光が現れたりしたら、教えてくださいッス!」
仕事を与えられて、ネイミアは嬉しそうに「わかった!」と答える。無論、警戒センサーは主操縦士席でもモニターに表示されており、何か反応があればアラーム音で分かるのだが、この辺りの気配りはいかにもなキノッサだ。そして発進位置まで固定台ごとスライドしたシャトルに管制官が告げる。
「シャトル01、クリヤード・フォー・テイクオフ」
「ラジャーッス!」
そう応じたキノッサは、シャトルを『クォルガルード』の格納庫から、宇宙空間へ発進させる。すると直後に眼前を、青白く輝く曳光粒子を纏った太いビームが通過する。
「ひえぇっ!!」
驚いてシャトルを急降下させるキノッサ。「きゃあっ!」と叫ぶネイミア。敵戦艦からの砲撃だ。『クォルガルード』は、『ヴァンドルデン・フォース』の戦艦群と遠距離砲戦中であるから、主砲のビームが飛んで来るのも当然だった。しかしそれでもキノッサとしては、文句の一つも言いたくなる。
「どこがクリアなんスかぁ~!!」
機体をスクロールさせて姿勢を立て直したシャトルに、先に発艦していた六機のASGUL『アヴァロン』が、護衛として左右につく。
「何やってんだ、キノッサ。しっかりしろ!」
喝を入れて来る『アヴァロン』のセゾ=イーテスに、キノッサは自分のヘルメットを片手で一つ、ポンと叩いて気合を入れ直す。
「わかってるッスよ!!」
そう応じるキノッサが操縦するシャトルが向かって行ったのは、ノヴァルナ達が『ヴァンドルデン・フォース』から奪ったものの、兵員不足のため戦闘へ参加せずに戦場の外れを自動航行していた、五隻の無人駆逐艦であった………
▶#09につづく
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