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第14話:死線を超える風雲児
#14
しおりを挟む“チィッ!…コイツ、“トランサー”とかいう力を、自分でコントロール出来るのかよ!”
止まればやられると感じ、機体の回避行動を連続させるノヴァルナ。あとを追って突きを繰り出す『リュウガDC』。すると『リュウガDC』は、再び瞬時に姿が消える。だが今度はノヴァルナも読んでいた。こちらも瞬時に停止すると同時に、ノールックでポジトロンパイクを真横に一閃する。ガツン!…という強い衝撃。横から『センクウNX』を殴打しようと振り回して来た、『リュウガDC』のポジトロンランスの柄を打ち防いだのだ。
あとは双方の、これまで以上に激しい得物の打ち合いだ。刃と刃が激突し、無数の火花が漆黒の闇に舞う。すでに傷だらけとなっている機体の装甲板が、さらに刻まれて複数個所で内部機構まで露わになる。
「バッハハハハハ!! ありがとうございます、ノヴァルナ様。このベグン=ドフ、我が全力を発揮出来る相手を、久しく待っておりましたのであります!―――」
『ヴァンドルデン・フォース』の狂戦士ベグン=ドフが、これまでどのような戦いに勝利しても不満だったのは、三年前の星帥皇室の皇都脱出戦以来、この“トランサー”の力を使うまでもない敵ばかりだったからである。
「―――しかァし! ご貴殿はまだその力を、存分に使いこなせていないご様子…いや、残念ですなぁ!!」
そう言うドフは打撃の勢いのギアを上げた。ドフが言うように“トランサー”のサイバーリンク状態が、相手のNNLにまで及ぶのであれば、双方に“トランサー”が発動した今、当然互いに相手の照準…狙いを感じ取る事が出来る。つまり、振り出しに戻った状況と言うわけだ。しかしドフは自分の意志で“トランサー”の力を発動させたように、その使い方で一日の長があった。再びノヴァルナは次第に押され気味となる。
「これで如何でありましょう!!??」
そう叫んだドフは『リュウガDC』でコンボ技を繰り出した。鑓の刺突、蹴り、蹴り、鑓の打撃、蹴り、鑓の刺突、そして鑓の打撃。六度までは防いだノヴァルナだったが、七度目の鑓の柄による打撃が、『センクウNX』の左肩を強く打ち据える。思わず叫ぶノヴァルナ。
「うあっ!!!!」
しかもこの第七撃は、ノヴァルナの機体に深刻なダメージをもたらした。先に腋部分をドフの高威力の銃弾で抉り取られていた肩の関節駆動部が、“トランサー”の発動も加わったここまでの酷使で限界に達していたところに、今の上からの衝撃で完全に動かなくなってしまったのである。
「バハッハ!!」
手応えを感じたドフは、素早く『センクウNX』の左側へ回り込み、『センクウNX』のコクピットをポジトロンランスで刺し貫こうとした。これでとどめだ…とばかりに目を輝かせるドフ。しかしそこへロックオン警報が鳴る。即座に機体を翻した『リュウガDC』の寸前を、超電磁ライフルの銃弾が掠め飛んだ。主君の危機に駆けつけて来たのは、自分が相手をしていた三機の敵機を撃破した、ランの『シデンSC』だった。
「ノヴァルナ様!」
「ラン。コイツはヤバい、気をつけろ!」
呼び掛けて来るランに、ノヴァルナは『リュウガDC』と距離を取りながら警告する。ランは『リュウガDC』に接近しつつ、超電磁ライフルを続けて連射した。しかし“トランサー”を発動したドフには、ランの精度の高い射撃も、全く持って掠りもしない。
「く…」
それならば…とポジトロンパイクを起動させ、格闘戦を挑もうとするラン。機動性に重点を置いてカスタマイズされたランの機体は、機動格闘戦であれば将官用のBSHOにも引けを取らない。しかし今回は相手が悪い、神速で背後をとったランの『シデンSC』だったが、それはドフの誘い込みだった。
「ダメだ、ラン!」
ノヴァルナに言われるまでもなく、ランもドフの反応の鈍さが誘い込みだと、途中で気付いていた。だがすでに手遅れだとも分かっている。振り向きざまにランへ繰り出して来る、ドフのポジトロンランス。それなら相討ち覚悟と、主君のためなら死をも恐れぬランは、左手にポジトロンパイクを握り、右手で腰に装備したクァンタムブレードを起動しようとした。どうせ機体を刺し貫かれるなら、そのまま進んで、『リュウガDC』のコクピットがある腹部を、切り裂こうというのだ。
だがドフは瞬時にランの意図を見抜くと、ランの機体に鑓による刺突ではなく、『リュウガDC』で体当たりを喰らわせた。“トランサー”が発動したドフの機体の機動性は、ランの機動性特化型『シデンSC』をも遥かに上回る。
「!!」
不意を突かれた激しい衝撃に、バランスを崩すランの『シデンSC』。ここで一撃を受けると万事休すだ。ところがドフは素早く機体を翻して離脱する。すると次の刹那、『リュウガDC』がいた位置を、ノヴァルナが放った援護射撃の銃弾が通過した。離脱を図る『リュウガDC』に、すかさず『シデンSC』がQブレードを振るうが、間に合わない。
そこへ一足遅れて駆け付けて来る、ササーラの『シデンSC』。こちらもランに後れを取ったが、ドフの護衛機三機を片付けて来たのだ。これで三対一、数で言えばノヴァルナが有利となった。
「ノヴァルナ様!」
呼びかけて来るササーラだが、ノヴァルナは逸れには応じず、即座に命じる。
「奴を取り囲め!」
素早く展開したノヴァルナと二人の『ホロウシュ』は、『リュウガDC』を包囲しつつ、超電磁ライフルを放つ。しかし『リュウガDC』は、恐ろしいまでの回避運動を見せてこれを躱す。新たに復帰したササーラは、「こいつ、バケモノか!?」と呻くように言うと、ドフは「バッハハハハハ!!」と大笑して言い放った。
「いや愉快、愉快! 今日は人生最良の日でありますな!!!!」
▶#15につづく
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