銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第14話:死線を超える風雲児

#21

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「よっしゃ、俺も行くか!」

 『ヴァンドルデン・フォース』の軽巡と駆逐艦が、海賊船の魚雷とBSI部隊の対艦弾を喰らって、次々に火球となるのを見たノヴァルナは呟いた。現在の『センクウNX』の兵装は弾を全て対艦徹甲弾にした超電磁ライフルが二挺。そしてこれも対艦誘導弾を六発装填した、対艦ロケットランチャー。それにクァンタムブレードという、完全な対艦仕様だ。

「敵のBSHO、接近!」

 『ゴルワン』の艦橋に響くオペレーターの声に、『ヴァンドルデン・フォース』の参謀達の顔が強張る。BSI部隊総監でエースだったベグン=ドフを失った今、彼を斃したノヴァルナのBSHOを撃破するのは、至難の業だと理解しているからに他ならない。

 しかしそんな中でも、ラフ・ザスはホログラム画面に映る『センクウNX』を見て目を細めていた。“良き敵ござんなれ”…とはこの事か、とラフ・ザスは思っていたのである。
 ひたむきに生きるのが若者の特権だと、ラフ・ザスは思う。そういった点ではノヴァルナは一点の曇りもないように感じるのだ。それはつまり星大名として…武人としての矜持が、揺るぎないものである事を示すものだ…三年前、自分が失ったものが………

“ならば、いよいよ…ノヴァルナ殿を斃さねばならん!”

 ラフ・ザスにとってノヴァルナのような心を持った存在は、今の自分には否定すべきのもだった。自分から闇に堕ちる事を選んだ以上、己の信念に生きる者を認めるわけにはいかないのだ。そこでラフ・ザスは驚くべき命令を発した。

「魚雷の迎撃はもういい。迎撃はノヴァルナ殿の機体にのみ集中せよ。後続の戦艦にもそう伝えるのだ」

 宇宙魚雷の命中で受ける自分達の損害には目をつむり、敵の司令官であるノヴァルナただ一人を狙う非情の作戦。しかし『ヴァンドルデン・フォース』の戦艦部隊の将兵は皆、納得づくの表情になる。三隻の戦艦の迎撃火器が全て、接近中の『センクウNX』を指向した。
 その直後、三隻の戦艦に残存していた、五本の魚雷が襲い掛かる。一本がラフ・ザスの旗艦『ゴルワン』に、あとの二本ずつが随伴する二隻の戦艦に命中。先に魚雷一本を喰らっていた一隻の戦艦は、これで完全に行動不能となる。『ゴルワン』が魚雷一本でしのいだのは、二隻の戦艦が自分の身を盾にして、守ってくれたからである。だがそれでも迎撃砲火は止まず、回避しながら『ゴルワン』への接近中であった『センクウNX』は、再び機体に損傷を受ける。

 しかしノヴァルナは止まらない。『ゴルワン』の真上を通過しながら。『センクウNX』は超電磁ライフルを一連射した。ドカ、ドカ、ドカと、『ゴルワン』の上部へ一列に爆発が発生する。
 
 立て続けに起きる震動。『ゴルワン』のオペレーターの報告。

「艦上部に被弾3。損害は軽微!」

 大型戦艦にとってはBSIユニットの対艦徹甲弾など、数発喰らってもさほどの事は無い。すると一旦航過しようした『センクウNX』の直前に、『ゴルワン』に随伴していた戦艦が飛び出して来た。CIWSの猛烈な砲火が『センクウNX』に襲い掛かる。咄嗟に機体を翻すノヴァルナ。だが敵戦艦は迎撃砲火を浴びせるだけでなく、巨体を横滑りさせ、艦そのもので『センクウNX』を押し潰そうとした。正確に言うと、艦を包んでいるエネルギーシールドでダメージを与えるつもりだ。

「チッ!」

 舌打ち一つ、ノヴァルナは機体をほぼ九十度にコース変更させる。転回点で黄色く輝く二つ重ねの重力子のリング。激突狙いの敵戦艦から距離を取る事には成功したが、ヘルメットのスピーカーに障害発生警報音が鳴りだした。今は重大な障害の場合以外の警報は遮断しているから、今の急激な機動によって、何か余程の事が起きたのだ。するとすぐにNNLを通じて、バックパックに三本挿入されていた、対消反応炉に反物質燃料の液化反転水素を送る、コアシリンダーの接続基部の一つに亀裂が入った事を知る。接続は自動的に切られるが、反応炉の出力は三十パーセント低下する。

 ノヴァルナは即座に残り二本のコアシリンダーからの、反転水素供給の量を増やして調整した。機体の稼働時間は短くなるが、機動力が必要なこの局面で動きが鈍くなる方が致命的だ。

 その時、至近で閃光が起きる。『ヴァンドルデン・フォース』で一隻だけ残っていた、重巡航艦が爆発を起こしたのだ。その光に紛れてノヴァルナは再び、ラフ・ザスの旗艦『ゴルワン』へ吶喊をかける。ただ今度は位置的に、さっきの戦艦が進路を塞いでいた。そしてもう一隻の随伴戦艦も『ゴルワン』との距離を詰め、三隻は対BSI戦用の密集陣形に入る。三隻の間隔は二十キロほどもあるが、秒速単位の高機動戦闘を行うBSIユニットには危険な間隔だ。

 しかしそのような対抗陣形に怯むノヴァルナではない。超電磁ライフルを放ちながら、ここが正念場と配下に呼びかける。

「対艦攻撃能力を残しているBSIは来い!」

 敵の戦艦三隻が密集陣形を組むのを、ノヴァルナはむしろ待っていたのだ。この命令を聞いて駆けつけてきたのは、『ホロウシュ』のハッチとモ・リーラ、そして『クーギス党』のASGULが四機だ。さらにノヴァルナは、ここまで戦場の端にいて、戦闘には加わらなかったキノッサにも命令を発した。

「てめーも出番だ、キノッサ!!」




▶#22につづく
 
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