銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第15話:風雲児VS星帥皇

#14

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「ほう。ウォーダのノヴァルナ…余の命を狙うと申すか?」

 ノヴァルナの“お命頂戴”の言葉に、テルーザは表情も変えずに問うた。

「なぜか?」

 それに対しノヴァルナは、言葉は丁寧であっても不遜な口調で言い放つ。

「役に立たぬお飾りなど、今の窮した皇国には不要…と、考えまするゆえ」

 あからさまなノヴァルナの物言い。“役に立たぬお飾り”とは誰あろう、星帥皇テルーザに他ならない事は明白だった。ミョルジ家に皇国の実権を握られ、彼等からの“進言”があった場合にのみ、NNLにリンクして行政指令を入力するだけの“お飾り”であるのは、テルーザ自身も常日頃から自覚している。ただそれを初対面の相手から、いきなり口にされるのは面白くない。

「挑発か?」とテルーザ。

「事実にございます」

 ノヴァルナがさらりと言うと、テルーザは苛立ちを覚えてギリッ!…と、奥歯を噛み鳴らした。次の瞬間、『ライオウXX』がツインランスで、『センクウNX』に向けて斬撃を放つ。だがノヴァルナもそれは読んでおり、素早く繰り出したポジトロンパイクがそれを打ち防いだ。対峙する二機のBSHOの間で刃と刃が激突して、火花が飛び散る。さらにその一瞬後には、二機の姿はそこに無い。各々が逆方向へ急加速すると、ほぼ同時に超電磁ライフルを放つ。しかし両機は相手の銃弾を紙一重で回避した。

「演習用の模擬弾は積んでいない。命の保証はないぞ!」

 テルーザはこれが模擬戦闘だと見抜いて、ノヴァルナに告げる。本当に命を狙うのであれば、このような対面など行わず、略奪集団との戦いに紛れて狙って来るのが、道理だからである。

「それはこちらの台詞にて!」

 機体を捻らせ、次弾を発射しながらノヴァルナは応じた。半ば模擬戦闘、半ば本気の殺し合い…命懸けのギリギリの状態でなければ、武人意識の高いこのテルーザという男とは分かり合えないと、感じ取ったからだ。

「面白い。略奪者どもを駆逐する役目を、余から奪った償い。その方の命で支払ってもらうとしよう!」

 テルーザはそう言うとライフルを三連射。的確な銃弾散布に、あやうく自分から当たりに行きそうになったノヴァルナだが、咄嗟のランダム機動で踏みとどまる。そこへ背後に感じる殺気。回避の一瞬を狙って、『ライオウXX』が背後に回り込んで来ている。近接警戒警報がアラーム音を鳴らした時には、ノヴァルナは機体を翻していた。次の刹那、『センクウNX』がいた空間を、『ライオウXX』のツインランスが死神の鎌の如く切り裂く。アラームが鳴った後の回避では、間に合わないほどの『ライオウXX』の素早さだ。

 だがそれを察知して回避した事が、ノヴァルナの感覚を引き上げた。NNLとのサイバーリンク深度がトランス領域に達する。“トランサー”の発動である。
 
 サイバーリンクの深度を深めたノヴァルナの意識の中に、戦場の情報が流れ込んで来る。視覚に頼らなくとも、360度全てが見渡せるような感覚だ。聴覚も音が伝わらないはずの、宇宙の“音”を聞き取り始める。
 自分の左後方に神経を集中すれば、『ホロウシュ』と『クォルガルード』が略奪集団部隊を圧倒していく状況が、手に取るようだ。

 煌く星々が流れる高速移動中の『センクウNX』のコクピット。ノヴァルナの双眸が猛禽類のような眼光とともに、『ライオウXX』を見据える。“トランサー”を自在に発動できるテルーザを相手取る以上、ノヴァルナも“トランサー”を発動させる必要があった。そのためもあっての挑発であり、自分自身を死線へ追い込む賭けだったのだ。

 二機の速度が上がる。超電磁ライフルが唸りを上げる。ノヴァルナの意識の中に相手の機体の、銃口の動きが映像となって浮かぶ。操縦桿を一気に倒して九十度のダイブ。機体を半回転させて二度、三度と反撃のトリガーを引く。直後にさらに左ターン。相手が放った銃弾も、こちらが放った銃弾も命中しない。

 だがそれも想定内だった。

 素早くスロットルを絞り、鋭角ターンをかけ、またフルスロットル。重力子ダンパーの限界を超え、背中を突き飛ばされるようなGが掛かるが、機体のレスポンスは良好だ。回避した相手からの二発の銃弾が、右脇腹を掠めた距離は2メートルもない。必殺の一撃だったのだろう。

“へぇ。マジで殺しに来てやがる…”

 “トランサー”が発動していなければ死んでいたであろう銃撃に、ノヴァルナは肌がヒリヒリとする感覚を感じ、不敵な笑みを大きくした。テルーザが“命の保証はない”と言ったのは、単なる脅し文句ではないようだ。

 だがノヴァルナの反撃も素早い。上下左右に機体を揺らせると一瞬、分身したように見えた『センクウNX』がライフルを撃つ。リング状に放たれた銃弾に逃げ場がないと悟った『ライオウXX』は、真っ直ぐ『センクウNX』へ向かって来た。
 ノヴァルナもポジトロンパイクを手にして突進。互いはライフルを放ちながら、そして相手の銃撃を躱しながら間合いを詰めてゆく。斬撃距離に入る直前に銃撃と共にツインランスを振って、“ビームスラッシャー”を放つ『ライオウXX』。ノヴァルナは銃撃を回避し、振るったポジトロンパイクで“ビームスラッシャー”を弾き飛ばすと、両機はすれ違いざまに斬撃を浴びせた。直線状に尾を引いた二本の火花が飛び散る。ターンして向き直った両機は、それぞれ機体の右の大腿部に、裂傷を負っていた。双方ともパイロットの想定以上の速度で、すれ違った結果だ。
 
 NNLが意識の中に被弾情報を送って来ると、テルーザはモニターで自分の機体のダメージを確認し、微かに口角を上げた。そして興味を抱いた口調で呟く。

「ほぉ…この『ライオウ』に、一対一で傷を付けたか」

 それに対するノヴァルナは、精神を集中させながら思った。『ヴァンドルデン・フォース』のベグン=ドフとの戦いでは、ドフの、自分の意思で“トランサー”を発動させる事が出来る能力に不意を突かれ、後れを取ったが、そういう能力があると知った以上、対処のしようもある。

“これなら、なんとか…やれるか”

 ところが次の瞬間、感覚が増幅しているはずのノヴァルナの前で、瞬時に『ライオウXX』の姿が消えた。

「!!」

 ばかな!―――そう思った刹那、それまで以上の速度を出した『ライオウXX』が、『センクウNX』のコクピットを包む全周囲モニターの、前面一杯に出現。直後に機体に膝蹴りを喰らって、ノヴァルナは激しい衝撃に襲われる。

「ぐあッ!!!!」

 機体のバランスを崩しながらも、ポジトロンパイクを真横に薙ぎ払って反撃するノヴァルナ。発動した“トランサー”の感覚が機体のセンサーと一体化し、視覚で追わずとも『ライオウXX』の位置は分かる。
 だがそのはずの位置に、『ライオウXX』の姿は無い。斬撃を繰り出している一瞬の間に超感覚が、『ライオウXX』がすでに別の位置―――正面から右横へ回り込んでいる事を知らせて来る。一瞬先をも読み取る“トランサー”の超感覚をもってしても、『ライオウXX』の動きが補足できていない。

「どういう事だ!?――うあッッ!!!!」

 回避と斬撃を同時に放つノヴァルナだったが、先に『ライオウXX』が放ったポジトロンツインランスが、『センクウNX』の右肩口から袈裟懸けに切り裂いた。ただ、咄嗟に回避行動を加えたおかげか致命傷には至らず、腹部のコクピットも無事である。

「浅かったか…いや、かわされた?」

 ノヴァルナのヘルメットのスピーカーに、テルーザの声が響く。

“クソッ! 間合いが取れねぇなら―――”

 懐に呼び込むしかないと判断したノヴァルナは、超電磁ライフルとポジトロンパイクを放り出し、腰のクァンタムブレードを掴み取ろうとした。しかしその直後、『センクウNX』の左の脇腹に背後から不意にツインランスが突き出され、ノヴァルナのいるコクピットの横に、青白い光を帯びた刃がピタリと押し当てられた。

「勝負あった」

 テルーザはノヴァルナにそう告げると、さらに驚くべきことを口にする。

「余に“トランサー”の力を使わせたのは、その方が久々であった。楽しかったぞ、ノヴァルナ・ダン=ウォーダ」

 それを聞いて、ノヴァルナの背筋に冷たいものが流れた。自分が“トランサー”を発動させてようやく互角に戦えたテルーザは、途中で圧倒されるまで、“ノーマル状態”のままだったのだ。銀河皇国の若き星帥皇は、まさに真の天才パイロットであった………





▶#15につづく
 
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