銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第15話:風雲児VS星帥皇

#15

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 ノヴァルナとテルーザが戦っている間に、略奪集団の部隊はノヴァルナの『ホロウシュ』と、戦闘輸送艦『クォルガルード』の攻勢に大損害を出し、ほうほうの体で逃げ去っていた。

「手応え無き盗賊どもを相手にするよりは、ずんと楽しませてもらったぞ。ウォーダのノヴァルナ」

 そう言って『ライオウXX』に、『センクウNX』を解放させたテルーザは、若者らしい笑みを浮かべた。その表情には怒りや非難と言った表情はない。良き敵と逢って愉悦を感じるあたり、やはりテルーザという若者は、根本的に武人気質なのだろう。
 宇宙に解き放たれたノヴァルナは、機体を『ライオウXX』に向き直らせる。するとその背後に『ホロウシュ』の乗る四機の『シデンSC』が一列に並んだ。

「ご無礼の段、平にご容赦を」

 ノヴァルナが謝罪の言葉を述べ、『センクウNX』にお辞儀をさせると、四機の『シデンSC』もそれに倣う。コクピットの中で鷹揚に頷いたテルーザは、落ち着き払って応じた。

「よい。ナクナゴンから聞いた通りの、面白き者よ。気に入った」

 その言葉を聞いてテルーザとノヴァルナ以外の、この場にいる全員が安堵した。特にハッチら四人の『ホロウシュ』は、ノヴァルナが成敗された場合、主君の親衛隊として仇を討つため、銀河皇国星帥皇と戦うべきか否かの判断を、この場で迫られたであろうからだ。
 対するテルーザは以前、ノヴァルナと親交のある貴族の、ゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナからノヴァルナという若者について、オ・ワーリの若き星大名の奇妙な人柄を聞かされていた。とにかく相手の本質を見極めるためには、命懸けの悪ふざけを仕掛けて来るという―――



「それで相手が怒りに任せて殺そうとしたら、どうするのだ?」

 その時のテルーザの、ゲイラへの問いである。

「なんでもその時は、自分の見込み違いだったと、殺されてゆくと…」

「黙って殺されるというのか。どういう事だ?」

「自分が悪ふざけを仕掛ける意味を考えようともせず、その場の怒りに任せてしまう程度の器量でしかない相手であったなら、それはそんな相手を信じた自分の過ちであるから、仕方のなき事だそうで」

「むぅ…では手加減すればよいのだな?」

「いえ、それこそノヴァルナ殿にとっては、失望…」

「ひねくれの極みではないか!…ではどうしろと!?」

 途中からゲイラの言葉が、自分がノヴァルナと会う日の事を言っているのだ…と気付いたテルーザは、煩わしそうに尋ねた。ところがゲイラの答えは「御身にままに…」と雲を掴むようなもの。無言で顔をしかめたテルーザにしかし、ゲイラは最後にこう付け加えたのである。


「ただ申し上げられます事は、ノヴァルナ殿は陛下にとって、真のご友人となる事ができる方にございます………」


 そんなゲイラの言葉を思い起こしたテルーザは、僅かに口元を緩める。
 
「ナクナゴンから皇都を訪れるとは聞いていたが、まさかこのような謁見になるとは、思ってもみなかったぞ」

 テルーザがそう言うと、ノヴァルナは淡々として口調で告げた。

「この方が、私がどのような者か知らせるに、手っ取り早いと思いまして」

「ほう」

 なるほど、ゲイラ・ナクナゴン=ヤーシナの言った通りの、変わった男だ…とテルーザは思った。だが確かに嫌いではない。

「そうまでして、余に話したい事があるか」

「腹蔵無く」

 間髪入れずに応えるノヴァルナに、テルーザは笑顔を浮かべる。すでに命懸けの得物の打ち合いを行った相手であるから、その資格は充分ある。テルーザも間を置かずに「よかろう」と頷いた。

「話は通しておく。三日後、ゴーショ=ウルムの余の所に参れ」

 ノヴァルナは「御意」と言葉を返し、さらに些か不遜ではあったが、付け加えて尋ねる。銀河皇国の頂点に立つ者と正式に拝謁するには、何日も待たねばならないのではないか…と思っていたのだ。なにぶんキヨウへ来るまで道草だらけで、いつ到着できるかも分からない状況になったため、先行した外務担当家老のテシウス=ラームも、アポイントメントの取りようが無かったからである。

「三日とは、ずいぶん早いですな」

 すると不意にテルーザは皮肉めいた表情になって、乾いた笑いと共に告げた。

「はは…どうせヒマだからな」



 こうして無事、テルーザとの繋ぎを取ったノヴァルナだったが、正直なところ、自分自身は不満であった。理由は単純、テルーザに負けた事だ。“トランサー”を発動させてまで戦いながら、ノーマル状態のテルーザと互角に戦ったのが精一杯。テルーザが“トランサー”を発動させると、手も足も出なかったのである。前回の『ヴァンドルデン・フォース』のベグン=ドフにも苦戦し、今回は惨敗。さすがに自尊心も傷つこうというものだ。

 そしてさらに面白くないのが、ホテルに帰っても、またノアが居ない事だった。行き先は言うまでも無く、キヨウ皇国大学の研究室である。戦いの前には意識の片隅にしまい込んだ葛藤も、また頭をもたげて来る。とは言え、さしものノヴァルナも、今日は迎えに行く気にもならない…が、そうなるとまた、あのスレイトンとかいう男の存在が気になり始めていた。

“人が命懸けで戦ってるってのに―――”

 戦いの汗を流してシャワールームから出て来たノヴァルナだが、それが自分の一方的で理不尽な思いだと分かってはいても、晴れぬもやもやとした気持ちに、バスタオルで濡れた髪を手荒に掻き撫で、それをソファーの背もたれへ、力任せに叩きつけたのだった………





▶#16につづく
 
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