324 / 508
第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す
#01
しおりを挟む星帥皇テルーザへの拝謁を翌日に控えた今日も、ノヴァルナは朝から多忙だ。まずは三年前から皇都に派遣している、前『ホロウシュ』筆頭のトゥ・シェイ=マーディンとの再会である。
表向きは、ノヴァルナに対する命令違反による出奔となっているマーディンは、実際にはノヴァルナの命を受け、ガルワニーシャ重工キヨウ出張所で勤務する社員を装い、皇都キヨウで二つの任務を遂行していた。
一つは皇都の詳しい現況の報告。これは今回の、ノヴァルナ自身がキヨウを訪れる時が来た場合に備えてのものだ。
そしてマーディンのもう一つの任務は、惑星開拓企業『ラグネリス・ニューワールド社』の極秘調査である。この企業は、ノヴァルナとノアが『超空間ネゲントロピーコイル』によって飛ばされた皇国暦1589年のムツルー宙域で、コイルの一基が設置された未開惑星パグナック・ムシュに存在していた、アッシナ家の悪代官でマフィアのボス、オーク=オーガーの麻薬草農園を造園した企業だった。
コイルが置かれた惑星に麻薬草農園を造ったのなら、何らかの関わりがあるに違いないと判断した事であるが、『超空間ネゲントロピーコイル』を建設した勢力が全くの謎の存在のため、極秘調査としていたのだ。
ノヴァルナとマーディンの再会は、ガルワニーシャ重工キヨウ出張所の一室で行われた。ノヴァルナとササーラとランはビジネスマンに変装し、商取引を装って出張所を訪れている。
厳つい顔のガロム星人であるササーラのスーツ姿は、実年齢より年かさに見え、課長と自己紹介しても通用しそうであった。対するランは普段からキリッとした美人であり、スーツ姿も良く似合っている。そしてノヴァルナは、ちょっと態度の大きな新入社員的な雰囲気を醸し出していた。
ガルワニーシャ重工はウォーダ家にBSIユニットをはじめとする、数々の装備品を収めている企業であり、両者の間は密接に結びついていた。したがって出張所内に入ってしまえば、そこは万全の情報対策が施された、ウォーダ家の基地のようなものである。
「よう、マーディン。久しぶり!」
応接室に案内されたノヴァルナは、待っていたマーディンが椅子から立ち上がるのを制しながら、笑顔で声を掛けた。最も信頼する家臣の一人であるマーディンであったが、与えた極秘調査という任務の性格上、この三年間一度も会う事が無かったため、嬉しさもひとしおのようだ。ノヴァルナに従うササーラとランも、懐かしそうに目を細めた。深く頭を下げ挨拶を返すマーディン。
「お久しゅうございます。ノヴァルナ様」
「まずは、元気そうで何よりだぜ!」
そう言いながらまるで自分の部屋のように、勝手にマーディンの向かい側へ座るノヴァルナ。変わっておられないなぁ…と笑みをこぼして、マーディンは席に着いた。ただ「ノア姫様はご息災ですか?」と尋ねると、途端に視線を泳がせ、「お…おう。ま、まあな…」と口ごもり、マーディンは訝しげな顔になる。
その様子にノヴァルナの下座に座ったササーラが、「ごほん、ぶわほん…」とわざとらしく咳払いをした。この辺りの阿吽の呼吸は昔のままで、マーディンは今ノア姫の話をするのは不味いのだと感じ取る。
そこでマーディンは話題を今のオ・ワーリ宙域の状況に変え、少し話をした後で本題に移った。自分が三年前に派遣されて以来の皇都の動きについてである。
ヤヴァルト宙域がミョルジ家と、それに与する周辺宙域の星大名連合に侵攻を受けたのは、マーディンがキヨウへ派遣されてしばらく経っての事だ。
およそ百年前の『オーニン・ノーラ戦役』の時のような、皇都惑星キヨウが戦場になる事を避けるため、星帥皇室は関白宰相ハル・モートン=ホルソミカと共にキヨウを脱出。中立宙域からロッガ家の支配するオウ・ルミル宙域へ向かったが、貴族と防衛部隊の一部が、キヨウの衛星軌道上に展開して抵抗したため、その排除行動による流れ弾で、結局はキヨウの地表にも砲火が及んだのだった。
そしてキヨウを占領下に置いたミョルジ軍は、自分達に抵抗した貴族達を弾圧。全ての財産と荘園星系を没収すると、中央行政府『ゴーショ・ウルム』のあるゴーショ行政区と、事前に自分達に協力を申し出た貴族の直轄区域を除く各行政区で、略奪を始めたのである。
出されたコーヒーに口を付けながら、ノヴァルナは疑問を口にする。
「占領地の治安回復と維持は、占領軍が最初にやるべき事だぞ。それをミョルジ家の連中は略奪側に回ったって事か?…当主のナーグ・ヨッグはそれを知っても、何もしなかったってのか?」
「残念ながら…」
重々しく応じるマーディンに、ノヴァルナは「どういう事だ?」と尋ねた。それに対しマーディンは、少し間を置いて心苦しそうに答える。
「実はこれにはノヴァルナ様…いえ、我々も関係しているのです」
思わぬマーディンの返答に、ノヴァルナは鳶色の双眸を見開いて「はぁ!?」と、頓狂な声をあげる他に手立てはなかった………
▶#02につづく
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる