銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す

#01

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 星帥皇テルーザへの拝謁を翌日に控えた今日も、ノヴァルナは朝から多忙だ。まずは三年前から皇都に派遣している、前『ホロウシュ』筆頭のトゥ・シェイ=マーディンとの再会である。

 表向きは、ノヴァルナに対する命令違反による出奔となっているマーディンは、実際にはノヴァルナの命を受け、ガルワニーシャ重工キヨウ出張所で勤務する社員を装い、皇都キヨウで二つの任務を遂行していた。
 一つは皇都の詳しい現況の報告。これは今回の、ノヴァルナ自身がキヨウを訪れる時が来た場合に備えてのものだ。
 そしてマーディンのもう一つの任務は、惑星開拓企業『ラグネリス・ニューワールド社』の極秘調査である。この企業は、ノヴァルナとノアが『超空間ネゲントロピーコイル』によって飛ばされた皇国暦1589年のムツルー宙域で、コイルの一基が設置された未開惑星パグナック・ムシュに存在していた、アッシナ家の悪代官でマフィアのボス、オーク=オーガーの麻薬草農園を造園した企業だった。
 コイルが置かれた惑星に麻薬草農園を造ったのなら、何らかの関わりがあるに違いないと判断した事であるが、『超空間ネゲントロピーコイル』を建設した勢力が全くの謎の存在のため、極秘調査としていたのだ。

 ノヴァルナとマーディンの再会は、ガルワニーシャ重工キヨウ出張所の一室で行われた。ノヴァルナとササーラとランはビジネスマンに変装し、商取引を装って出張所を訪れている。
 厳つい顔のガロム星人であるササーラのスーツ姿は、実年齢より年かさに見え、課長と自己紹介しても通用しそうであった。対するランは普段からキリッとした美人であり、スーツ姿も良く似合っている。そしてノヴァルナは、ちょっと態度の大きな新入社員的な雰囲気を醸し出していた。

 ガルワニーシャ重工はウォーダ家にBSIユニットをはじめとする、数々の装備品を収めている企業であり、両者の間は密接に結びついていた。したがって出張所内に入ってしまえば、そこは万全の情報対策が施された、ウォーダ家の基地のようなものである。

「よう、マーディン。久しぶり!」

 応接室に案内されたノヴァルナは、待っていたマーディンが椅子から立ち上がるのを制しながら、笑顔で声を掛けた。最も信頼する家臣の一人であるマーディンであったが、与えた極秘調査という任務の性格上、この三年間一度も会う事が無かったため、嬉しさもひとしおのようだ。ノヴァルナに従うササーラとランも、懐かしそうに目を細めた。深く頭を下げ挨拶を返すマーディン。

「お久しゅうございます。ノヴァルナ様」
 
「まずは、元気そうで何よりだぜ!」

 そう言いながらまるで自分の部屋のように、勝手にマーディンの向かい側へ座るノヴァルナ。変わっておられないなぁ…と笑みをこぼして、マーディンは席に着いた。ただ「ノア姫様はご息災ですか?」と尋ねると、途端に視線を泳がせ、「お…おう。ま、まあな…」と口ごもり、マーディンは訝しげな顔になる。
 その様子にノヴァルナの下座に座ったササーラが、「ごほん、ぶわほん…」とわざとらしく咳払いをした。この辺りの阿吽の呼吸は昔のままで、マーディンは今ノア姫の話をするのは不味いのだと感じ取る。

 そこでマーディンは話題を今のオ・ワーリ宙域の状況に変え、少し話をした後で本題に移った。自分が三年前に派遣されて以来の皇都の動きについてである。

 ヤヴァルト宙域がミョルジ家と、それに与する周辺宙域の星大名連合に侵攻を受けたのは、マーディンがキヨウへ派遣されてしばらく経っての事だ。
 およそ百年前の『オーニン・ノーラ戦役』の時のような、皇都惑星キヨウが戦場になる事を避けるため、星帥皇室は関白宰相ハル・モートン=ホルソミカと共にキヨウを脱出。中立宙域からロッガ家の支配するオウ・ルミル宙域へ向かったが、貴族と防衛部隊の一部が、キヨウの衛星軌道上に展開して抵抗したため、その排除行動による流れ弾で、結局はキヨウの地表にも砲火が及んだのだった。

 そしてキヨウを占領下に置いたミョルジ軍は、自分達に抵抗した貴族達を弾圧。全ての財産と荘園星系を没収すると、中央行政府『ゴーショ・ウルム』のあるゴーショ行政区と、事前に自分達に協力を申し出た貴族の直轄区域を除く各行政区で、略奪を始めたのである。

 出されたコーヒーに口を付けながら、ノヴァルナは疑問を口にする。

「占領地の治安回復と維持は、占領軍が最初にやるべき事だぞ。それをミョルジ家の連中は略奪側に回ったって事か?…当主のナーグ・ヨッグはそれを知っても、何もしなかったってのか?」

「残念ながら…」

 重々しく応じるマーディンに、ノヴァルナは「どういう事だ?」と尋ねた。それに対しマーディンは、少し間を置いて心苦しそうに答える。

「実はこれにはノヴァルナ様…いえ、我々も関係しているのです」

 思わぬマーディンの返答に、ノヴァルナは鳶色の双眸を見開いて「はぁ!?」と、頓狂な声をあげる他に手立てはなかった………




▶#02につづく
 
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