325 / 508
第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す
#02
しおりを挟むノヴァルナと当時のナグヤ=ウォーダ家が、ミョルジ家のキヨウ侵攻に関わった事実―――マーディンがキヨウで得た情報から判断すると、以下の通りである。
それは三年前の皇国暦1555年。ノヴァルナが当時のナグヤ=ウォーダ家と敵対する、同じウォーダ一族の宗家である、イル・ワークラン=ウォーダ家の内情を探るため、中立宙域の惑星サフローを経由し、その勢力圏へ入ろうとした時の事であった。
ヨッズダルガとモルタナ率いる宇宙海賊『クーギス党』との遭遇を通じ、ノヴァルナは、彼等『クーギス党』のかつての領地である、イーセ宙域シズマ恒星群の海洋惑星に住む水棲ラペジラル人が星大名キルバルター家に捕らえられ、イル・ワークラン=ウォーダ家を介して労働奴隷として、オウ・ルミル宙域星大名ロッガ家へ人身売買されている事実を知る。
その売買目的はオウ・ルミル宙域星大名ロッガ家が、買い取った水棲ラペジラル人を、宇宙艦やBSIユニットの重力子ジェネレーターに使用する特殊鉱石、『アクアダイト』の極秘採掘に従事させるためであった。
ロッガ家はキルバルター家とともに星帥皇室の強力な支援勢力の一つであり、極秘裏に採掘した『アクアダイト』で、宇宙艦やBSIユニットを建造し、それらを皇国軍に供与。ミョルジ家に察知される事無く、戦力の増強を進めていたのだ。
だがナグヤ=ウォーダ家と敵対するイル・ワークラン=ウォーダ家の暗躍と、水棲ラペジラル人の人身売買に怒りを覚えたノヴァルナは、この人身売買ルートをぶち壊す事を決意。『クーギス党』と協力してロッガ家の艦隊を撃破し、ルートの分断に成功する。
この一件は表向きには、当時のイル・ワークラン=ウォーダ家の嫡男カダール=ウォーダが、ロッガ家の名を騙って中立宙域を荒らし回っていた、宇宙海賊の船団を討伐した事になっていた。
だがロッガ家が関わっている時点で、ミョルジ家の情報部は詳細に情報を収集・分析し、ロッガ家の建造・整備した戦力が皇国軍に供与されて、対ミョルジ戦用の戦力が増強されようとしている事実を突き止めたのである。
これに驚いたミョルジ家当主ナーグ・ヨッグは、ヤヴァルト宙域侵攻の次期を急遽繰り上げる旨を命じた。そして増強された皇国軍に対抗するため、規律の取れた正規軍並みの装備と練度を持つ最上級部隊から、略奪行為すら行うならず者同然の最下級部隊まで、大量に招かれたのが『アクレイド傭兵団』だったのだ。
水棲ラペジラル人を助けるためノヴァルナ達のとった行動が、巡り巡って、皇都キヨウを占領する部隊の中に、ならず者同然の最下級『アクレイド傭兵団』を加える結果となったのである。
マーディンの説明を聞いたノヴァルナは、苦虫を嚙み潰したような顔になる。
「俺達とモルタナ姐さんのした事が、『アクレイド傭兵団』の奴等を皇都に呼び込んだってのか?…あん時は、そんな先の事まで分かるワケ無かったからな。しょうがねぇだろ」
「無論です」
ノヴァルナの主張にマーディンは即答した。オ・ワーリ宙域の統治を巡って争っている状況で、当時の皇国中央で起きつつあった事まで見通すなど、予知能力でもない限りは無理筋な話だ。ただ伝えておくべき事は伝えなければならない。
「…しかしながらミョルジ家も、それだけの数の『アクレイド傭兵団』を全て雇うほどの財力は、持ち合わせてはおりませんでした。そこで雇用条件として、下級の傭兵達については―――」
マーディンがそこまで言うと、ノヴァルナはその先を察して口を挟んだ。
「キヨウに対する略奪行為を、容認した…ってワケか?」
「そういう事です。このゴーショ行政区や、ミョルジ家側についた貴族の直轄地区には、手出ししないという条件はついていますが」
「なるほど…」
ため息交じりに応じたノヴァルナは、椅子の背もたれに上体を預けて、コーヒーをひと口啜った。
キヨウの表面が焼け焦げた箇所と、異常の無さそうな箇所でモザイク模様のようになっていたのは、そういう理由だったのだ。それに到着した当日、略奪集団の一つを叩いて、捕らえた連中を警察機構に引き渡したが、引き渡された警察機構の担当者が有難迷惑な表情をしていたのは、自分達では処理出来ない案件だったからに違いない。
それを告げると、頷いたマーディンは「おそらく今頃は、釈放されていると思われます」と淡々と返し、ノヴァルナの顔をしかめさせた。
「そんでもって…誰も何も動かないから、星帥皇陛下が直々に、お戦いあそばしていらっしゃる、ってワケか?」
回りくどく敬語を使ったノヴァルナ。無論、それだけが星帥皇テルーザの直接戦う理由ではない事は知っている。しかしそんな中でも疑問に思う事はあった。
「略奪集団がミョルジ家と裏で繋がってんなら、なんでミョルジ家はテルーザ陛下に戦わせてんだ?…ミョルジ家も陛下は必要なんだろ? 確かに陛下はべらぼうに強ぇえが、万が一って事もあるぜ」
ノヴァルナがテルーザとBSHOで対決した際、テルーザと交戦していた略奪集団との通信を傍受したノヴァルナは、略奪集団のリーダーが“テルーザを葬れば星大名の座も含めて報酬は思いのまま”と、言っているのを聞いていた。そうであるならミョルジ家だけに、そんな力があるとも思えない。
しかしこの件については、マーディンも詳しくは分からないらしい。ビジネスマンとして皇都に潜入しているのであるから、そういった話は探るのが難しい部分なのだろう。それにマーディンには別の情報を探らせている。植民星開拓業者の『ラグネリス・ニューワールド社』についてである。ノヴァルナはマーディンの眼を見据えて、報告を求めた。
▶#03につづく
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる