銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す

#03

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「『ラグネリス・ニューワールド社』についてですが―――」とマーディン。

「開業は今から三十六年前の皇国暦1522年。植民惑星開拓業者としては、業界五番手、六番手を争っている新規参入企業でして、本社はセッツー宙域のオ・ザーカ星系に置かれていますが、主に『惑星開発公団』の中請けの他、辺境宙域の惑星開拓を行っているようです」

「あの業界は今、『惑星開拓公団』の一人勝ちみたいなもんだからな」

 ササーラがそう言う隣で、ノヴァルナは「オ・ザーカか…」と呟く。オ・ザーカ星系第四惑星ガルシナには、新興宗教イーゴン教の総本山イシャー・ホーガンが存在している。そこにノヴァルナはきな臭さを感じたのだった。もっともキヨウではなく、オ・ザーカ星系や自治星系ザーカ・イーに本社を置く企業はここ最近増えており、両者の間に関係性があると、一概には言い切れないのだが。

 一方でランがマーディンに尋ねる。

「辺境宙域の惑星開拓なら、ムツルー宙域も?」

「ああ。それに、辺境宙域での事業については、あまり良くない噂も聞く」

 それを聞いたランは、狐のそれと似たフォクシア星人の耳をピクリと震わせ、さらに問い掛けた。

「というと?」

「今の混乱した皇国中央に乗じて、監視の目の届き難い辺境では、違法な惑星開拓にも手を出しているという噂だ」

「違法な惑星開拓? つまり、麻薬草の農園とか…か?」

 マーディンの言葉にノヴァルナも反応する。それに対しマーディンは軽く頷き、「証拠は無いのですが…」と付け加えた。ただノヴァルナも、それは当然だろう…と思っている。そしてそれ以上に重要な案件を口にした。

「だろうな…しかし問題は、同じ星にあった巨大コイルだぜ。俺とノアが飛ばされたのは31年後のムツルー宙域だが、今現在も『超空間ネゲントロピーコイル』は存在してるはずだ。それをそんな業界五、六番手の企業に、建造する技術があんのかって話さ」

 ノヴァルナとノアが未開惑星パグナック・ムシュで発見した、『超空間ネゲントロピーコイル』は、六つの恒星系のそれぞれに存在する惑星の中の一つに、直径およそ三十キロにも及ぶ地上構造物と、その地下深くに惑星の自転エネルギーを動力源とした、その十倍以上の大きさの本隊構造物を建造するという、通常の植民惑星の開拓とは遠くかけ離れた事業を、遂行する能力が求められるのだ。ノヴァルナが疑問に思ったのは、『ラグネリス・ニューワールド社』が、果たしてそのような技術力を有しているのか?…という事である。
 
 ノヴァルナの問いに、マーディンは難しい顔になった。

「正直なところ、『ラグネリス・ニューワールド社』にそれだけの技術と、動員力は無いと思われます。コイルの建造に関する技術体系は、惑星開拓技術とは全くの別物です。企業規模からそういった別部門を、設けるのは不可能なはずです」

 そして少し間を置いて続ける。

「何か、裏の顔がなければ…という話ですが」

「何か裏の顔?…」とササーラ。

「何かあるの?」とラン。

 二人の問いに対し、マーディンはノヴァルナに向けて返答した。

「実は…これは現在調査中の案件なのですが、『クラン・ザレス宙運』という恒星間運輸会社がありまして、これがどうやら『ラグネリス・ニューワールド社』を隠れ蓑に、ムツルー宙域で何かを行っているようなのです」

「なに…?」

 ノヴァルナは『クラン・ザレス宙運』という企業名を聞き、眉をひそめる。その名にどこかで覚えがあったからだ。ただ何処で見聞きしたかは思い出せない。それでもこの状況で思い出したのであるから、『超空間ネゲントロピーコイル』の一件に関わるものだろう。

“もしかしたら、ノアの奴なら知ってるかも―――”

 反射的にそう考えたノヴァルナだったが、すぐに気まずさで渋面となった。本来はこの場にノアも同席している予定であり、ここまでのマーディンの話も含め、この場で一緒に話を聞き、すぐにノアの意見を聞く事が出来たはずなのだ。バリバリバリ…と手指で頭髪を掻くノヴァルナ。

 とはいえ今はまだ自分に対して素直になれない。

“取りあえず、あとでいいか………”

 どこで見覚えがあったかは置いておいて、ノヴァルナは『クラン・ザレス宙運』と『ラグネリス・ニューワールド社』の関係性を、マーディンに尋ねた。

「『クラン・ザレス宙運』は、ムツルー宙域のシーフェン星系に本社を置く恒星間運輸会社なのですが、『ラグネリス・ニューワールド社』の株の33パーセントを保有する大株主となっています。『ラグネリス・ニューワールド社』の本社があるのはセッツー宙域…約五万光年も離れた企業の株を、33パーセントも保有するのは妙な話だと思い、調査を開始したところです」

「わかった。ご苦労だったな。すまねーが、引き続き頼まぁ」

「御意!」

 久々に直接聞く主君の慰労の言葉と指示に、マーディンは力強く応じる。それからまたしばらく、取り留めのない話をしたノヴァルナ達は、マーディンと別れてガルワニーシャ重工キヨウ出張所をあとにしたのであった………





▶#04につづく
 
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