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第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す
#09
しおりを挟むカーズマルスは指令室中央の指揮管制ホログラムスクリーンを、星図から複数のグラフの並んだものへと切り替えて、ノヴァルナの問いに応じる。
「一つは正確には儲け…というより、“取り立て”です」
「取り立て?」
「はい。ザーカ・イー星系は過去、銀河皇国の臨時国債を大量に購入する事を条件に、自治星系の座を手に入れました。これは『オーニン・ノーラ戦役』終息時に、疲弊した皇国…特にヤヴァルト宙域の経済を立て直すためのものでした。ところが百年経っても経済は一向に上向かず、むしろ戦国の世となって国債の価値は下がって来ておりました」
無言で頷くノヴァルナ。
「そこでミョルジ家が、ヤヴァルト宙域進攻への経済支援を申し入れて来た際に、ザーカ・イー星系はここが我慢の限界と考え、“ある条件”で経済支援を承諾したのです」
「ある条件?」
「はい…戦力の中核に『アクレイド傭兵団』を加え、キヨウへ対する略奪行為を黙認すること、です」
それを聞いて、ノヴァルナの背後に立つササーラとランが、意表を突かれたように顔を見合わせた。ノヴァルナも「なに?…」と呟く。これまで聞いていた、ミョルジ家が『アクレイド傭兵団』を雇い入れていた話と、喰い違うからだ。
その事を問い質すノヴァルナ。カーズマルスは、「確かにその方が、自然ですからね」と応じると、そこから声のトーンを下げて続けた。
「実は…この話を仲介したのは、イーゴン教の宗大師ケーニルス=イーゴンであると思われます」
「!!」
これにはノヴァルナも、眼を見開かざるを得なかった。ザーカ・イー星系の企業連合トップにはイーゴン教の信徒も多く、大きなスポンサーである事は公然の秘密なのだが、ミョルジ家のヤヴァルト宙域侵攻を、裏で糸を引いていたとまでは考えていなかったからだ。
「それで…あとの儲かる理由は?」とノヴァルナ。
「キヨウと皇国中央の経済力が低下する事で、必然的に銀河経済の中心がザーカ・イー星系へと移るからです。こちらのグラフを見て頂くとお分かりの通り、この数年来…言ってしまえば、キヨウがミョルジ家の支配下になって以来、恒星間企業のザーカ・イー星系への本社移転が、大幅に加速しています」
「なるほど…むしろ、そっちの方が分かり易いな」
そう呟いてノヴァルナは、ホログラムスクリーンに映る、恒星間企業の本社移転数の推移グラフを眺めて腕組みをした。イーゴン教も絡んでいるとなると、話は一筋縄ではいきそうにない。
帰ってノアと話がしたい…反射的にそう考えたノヴァルナだったが、すぐに自分に対して顔をしかめた。まったく…忌々しい。
カーズマルスが続けた話では、ミョルジ家の侵攻に抵抗した貴族や企業は、資産を全て没収され、それらはミョルジ家とザーカ・イー星系で分配されている、という事だった。
この時点ではまだノヴァルナの知らない話だが、ノアの親友で皇国貴族家の娘のソニアが、現在のような貧困に喘いでいるのも、こういった流れの一環である。
以前にも述べた事ではあるのだが、『アクレイド傭兵団』は四つの階層に分かれており、首脳陣がいる中央本営艦隊とその直轄部隊で構成する最上位第一階層は、下手な星大名よりも優勢なエリート集団だった。
そしてその下の第二階層が、星大名の正規軍並みの装備と、部隊編成で構成された主力部隊。戦場で敵主力と艦隊戦やBSI戦を行うのもこの階層である。
その下の第三階層は第二階層ほどの装備は与えられておらず、各星大名軍の廃棄品や、払い下げ品による兵器類で構成された下級部隊。この階層が一番広く活動しており、ノヴァルナ達がこれまで戦って来た『アクレイド傭兵団』の部隊も、この階層の者がほとんどであった。
さらにその下の第四階層。これはもはやならず者の集まり同然の集団だ。戦場ではほとんど使い物にならないが、敵の後方攪乱や補給路の寸断目的に、投入される場合が多い。また第三階層の部隊と組んで行動していたりもする。
各階層は独立性が高く、今回のミョルジ家によるヤヴァルト宙域進攻への増援のような“大仕事”は、中央本営艦隊が統率して命令を発するが、それ以外は各階層各部隊で、中央本営艦隊からの情報や雇用主からの直接依頼で“仕事”を受け、遂行する形式となっている。
当然、中央本営艦隊は各階層各部隊が独自に受けた、“仕事”の内容をチェックしてはいるが、それが中央本営艦隊にとって有害なものと判断されない限り、基本的の放任であった。そのため別々の雇い主に雇われた、『アクレイド傭兵団』の部隊同士が戦うケースもあるという。
個々の部隊が独自に動いている事は分かったノヴァルナだが、それでも腑に落ちない事がある。それは星帥皇テルーザとBSI戦を行っていた、略奪集団―――おそらく『アクレイド傭兵団』の第三階層パイロットが通信で言っていた、テルーザを殺害すれば「星大名の座も思いのまま」という言葉だ。
その言葉が事実なら、そんな報酬を用意できるものは、莫大な経済力を持つザーカ・イー星系、もしくは強大な宗教力を持つイーゴン教だが、そう考えるにはあからさま過ぎる気がする。
“わからねぇ。ミョルジ家…ザーカ・イー星系…イーゴン教…そして『アクレイド傭兵団』…みんな、何を考えてやがる?”
難しい顔をしたノヴァルナは腕組みをしたまま、胸の内で呟いた………
▶#10につづく
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