銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
332 / 508
第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す

#09

しおりを挟む
 
 カーズマルスは指令室中央の指揮管制ホログラムスクリーンを、星図から複数のグラフの並んだものへと切り替えて、ノヴァルナの問いに応じる。

「一つは正確には儲け…というより、“取り立て”です」

「取り立て?」

「はい。ザーカ・イー星系は過去、銀河皇国の臨時国債を大量に購入する事を条件に、自治星系の座を手に入れました。これは『オーニン・ノーラ戦役』終息時に、疲弊した皇国…特にヤヴァルト宙域の経済を立て直すためのものでした。ところが百年経っても経済は一向に上向かず、むしろ戦国の世となって国債の価値は下がって来ておりました」

 無言で頷くノヴァルナ。

「そこでミョルジ家が、ヤヴァルト宙域進攻への経済支援を申し入れて来た際に、ザーカ・イー星系はここが我慢の限界と考え、“ある条件”で経済支援を承諾したのです」

「ある条件?」

「はい…戦力の中核に『アクレイド傭兵団』を加え、キヨウへ対する略奪行為を黙認すること、です」

 それを聞いて、ノヴァルナの背後に立つササーラとランが、意表を突かれたように顔を見合わせた。ノヴァルナも「なに?…」と呟く。これまで聞いていた、ミョルジ家が『アクレイド傭兵団』を雇い入れていた話と、喰い違うからだ。

 その事を問い質すノヴァルナ。カーズマルスは、「確かにその方が、自然ですからね」と応じると、そこから声のトーンを下げて続けた。

「実は…この話を仲介したのは、イーゴン教の宗大師ケーニルス=イーゴンであると思われます」

「!!」

 これにはノヴァルナも、眼を見開かざるを得なかった。ザーカ・イー星系の企業連合トップにはイーゴン教の信徒も多く、大きなスポンサーである事は公然の秘密なのだが、ミョルジ家のヤヴァルト宙域侵攻を、裏で糸を引いていたとまでは考えていなかったからだ。

「それで…あとの儲かる理由は?」とノヴァルナ。

「キヨウと皇国中央の経済力が低下する事で、必然的に銀河経済の中心がザーカ・イー星系へと移るからです。こちらのグラフを見て頂くとお分かりの通り、この数年来…言ってしまえば、キヨウがミョルジ家の支配下になって以来、恒星間企業のザーカ・イー星系への本社移転が、大幅に加速しています」

「なるほど…むしろ、そっちの方が分かり易いな」

 そう呟いてノヴァルナは、ホログラムスクリーンに映る、恒星間企業の本社移転数の推移グラフを眺めて腕組みをした。イーゴン教も絡んでいるとなると、話は一筋縄ではいきそうにない。

 帰ってノアと話がしたい…反射的にそう考えたノヴァルナだったが、すぐに自分に対して顔をしかめた。まったく…忌々しい。
 
 カーズマルスが続けた話では、ミョルジ家の侵攻に抵抗した貴族や企業は、資産を全て没収され、それらはミョルジ家とザーカ・イー星系で分配されている、という事だった。
 この時点ではまだノヴァルナの知らない話だが、ノアの親友で皇国貴族家の娘のソニアが、現在のような貧困に喘いでいるのも、こういった流れの一環である。

 以前にも述べた事ではあるのだが、『アクレイド傭兵団』は四つの階層に分かれており、首脳陣がいる中央本営艦隊とその直轄部隊で構成する最上位第一階層は、下手な星大名よりも優勢なエリート集団だった。
 そしてその下の第二階層が、星大名の正規軍並みの装備と、部隊編成で構成された主力部隊。戦場で敵主力と艦隊戦やBSI戦を行うのもこの階層である。
 その下の第三階層は第二階層ほどの装備は与えられておらず、各星大名軍の廃棄品や、払い下げ品による兵器類で構成された下級部隊。この階層が一番広く活動しており、ノヴァルナ達がこれまで戦って来た『アクレイド傭兵団』の部隊も、この階層の者がほとんどであった。
 さらにその下の第四階層。これはもはやならず者の集まり同然の集団だ。戦場ではほとんど使い物にならないが、敵の後方攪乱や補給路の寸断目的に、投入される場合が多い。また第三階層の部隊と組んで行動していたりもする。

 各階層は独立性が高く、今回のミョルジ家によるヤヴァルト宙域進攻への増援のような“大仕事”は、中央本営艦隊が統率して命令を発するが、それ以外は各階層各部隊で、中央本営艦隊からの情報や雇用主からの直接依頼で“仕事”を受け、遂行する形式となっている。
 当然、中央本営艦隊は各階層各部隊が独自に受けた、“仕事”の内容をチェックしてはいるが、それが中央本営艦隊にとって有害なものと判断されない限り、基本的の放任であった。そのため別々の雇い主に雇われた、『アクレイド傭兵団』の部隊同士が戦うケースもあるという。

 個々の部隊が独自に動いている事は分かったノヴァルナだが、それでも腑に落ちない事がある。それは星帥皇テルーザとBSI戦を行っていた、略奪集団―――おそらく『アクレイド傭兵団』の第三階層パイロットが通信で言っていた、テルーザを殺害すれば「星大名の座も思いのまま」という言葉だ。
 その言葉が事実なら、そんな報酬を用意できるものは、莫大な経済力を持つザーカ・イー星系、もしくは強大な宗教力を持つイーゴン教だが、そう考えるにはあからさま過ぎる気がする。


“わからねぇ。ミョルジ家…ザーカ・イー星系…イーゴン教…そして『アクレイド傭兵団』…みんな、何を考えてやがる?”


 難しい顔をしたノヴァルナは腕組みをしたまま、胸の内で呟いた………




▶#10につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

処理中です...