銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す

#13

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 ヴォクスデンの話はそこで途切れ、ノヴァルナ達は昼食を相伴する事になった。“途切れた”というのは文字通り、星帥皇テルーザがBSIパイロットとして強くなり過ぎた…と言ったきり、「ときに…」と、ヴォクスデンは急に世間話をし始めてしまったのだ。

 待つことを自分は試されているのではないか、と判断したノヴァルナは不満には思ったものの、ヴォクスデンの世間話に付き合う事にしたのである。

「そうですか。オ・ワーリも大変なようですな」

「ええ。まぁ…」

 穏やかな表情で述べるヴォクスデンに、ノヴァルナは些か持て余し気味の表情で応じた。世間話などというものは、要点を直球でやり取りするノヴァルナにとっては、一番苦手とするところだからだ。
 ただ、ヴォクスデンの汎用ロボットが用意した、昼食のコーンシチューの美味しさには、ノヴァルナも唸らざるを得ない。余程上物のシェフプログラムチップを、実装してあるのだろう。そしてシチューに入っている野菜類は、ヴォクスデンの住宅地内の畑で収穫されたもので、添えられている固焼きブレッドは、あの麦畑で造られたらしい。

 農業には素人のノヴァルナだが、これらの作物に、今のヴォクスデンがどれほどの丹精を込めているかは理解できた。それはすなわち、今の生活に対するヴォクスデンの覚悟なのかもしれない。そう思えば、今のこの状況にも意味があるように、ノヴァルナには感じられた。

「いや、申し訳ございません。世間話の出来るようなお客様はこのところ、とんと訪れてくれる事もなくなりましたのでな。つい、あれこれと」

「いえ、いえ」

 こういった受け答えもノヴァルナにしては珍しい。するとヴォクスデンは、好々爺を思わせる柔和な表情で提案して来た。

「いかがですかな? せっかくお尋ね頂いたのです。今日はゆるりと泊まって行かれては?…近くの池で獲れる魚のムニエル。これがまだ絶品でして。今から釣りに出掛ければ、充分に間に合いまするが」

 さすがにノヴァルナもこれは受けられない。惑星キヨウとの時差を考えれば、向こうはすでに夜中になっており、のちに教えを受けられるようになれるかも知れないとしても、遅くともこの地の夕刻には、帰り出さなければならないからだ。それを考えれば、もうこれ以上回り道は出来ない。

 ノヴァルナは居住まいを正して、「申し訳ないが、その儀については時間がないので―――」とヴォクスデンに告げ、さらに本題に戻して続けた。

「それよりもカラーバ殿。私を強くして頂く話を、したいのだが」
 
 ノヴァルナの言葉にヴォクスデンは「はて?」と、僅かに目を見開く。なぜそんな事を今さら…という感じである。

「無理、と申し上げたはずにございますが?」

 再びあっさりと言われて、ノヴァルナは嫌そうな顔をする。

「先程も申し上げました通り、テルーザ陛下は稀代の天才。ノヴァルナ様も良い素養はお持ちにございますが、天賦の才の差は如何ともし難く、双方が精進を続ける限り、差は埋まりますまい」

「しかし、頑張れば…」

 ノヴァルナはそう言うが、ヴォクスデンはため息をつくと、大きくゆっくりと首を左右に振ってそれを否定する。

「それではテルーザ陛下と、同じ道を進まれる事になるだけにございます…」

「同じ道?…強くなり過ぎた事が、仇になると言われた話か?」

「さようにて…」

 苛立ちを感じたノヴァルナは「それはどういう―――」と、はっきりと聞きたいと思った。自分に似合わぬ駆け引きは、やはりするべきではない。
 とその時、昼食後の食器の片づけを始めていた汎用ロボットが、こちらを振り向いて不意に報告して来た。感情の無いはずのロボットの電子音声だが、心なしかこれまでとは違って硬さを感じさせる。

「ヴォクスデン様。監視衛星より通報です」

 監視衛星?…とノヴァルナ達が訝し気な眼をした次の瞬間、質素なばかりであったリビングの、ヴォクスデンとノヴァルナ達を取り囲む形に、四枚のホログラムスクリーンが床から浮き上がって来て、ゆっくりと回転を始める。

「これは!?」呆気にとられるササーラ。

 ホログラムスクリーンは、宇宙空間からこの惑星パルズグの地表に降下中の、宇宙船の反応を表示していた。

「皇国管理局の規定外の降下コースを取って、接近する宇宙船を確認。目標が当地である確率、72.415パーセント。到着時間は8.212分後」

 ホログラムスクリーンを見詰めるヴォクスデンは、「いやはや、間の悪い…」と呟く。その横顔にノヴァルナは問いかけた。

「カラーバ殿、これは?」

「この惑星を回る人工衛星の幾つかは、私の個人所有となっておりまして、この地を目指し、規定外のコースで降下して来る船を監視しておるのです」

「個人所有の監視衛星? なぜそのような?」

 警戒心を露わにしたランが尋ねる。それに対しヴォクスデンは、苦笑いを交えて言葉を返した。

「ここへはちょくちょく、ご貴殿らと違い、来て頂いても迷惑な客人が訪れまするので、それに備えての事でございます」

 するとそこに汎用ロボットの報告。

「降下中の宇宙船から通信が入っております」
 
「ふむ。繋いでくれ」





▶#14につづく
 
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