337 / 508
第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す
#14
しおりを挟むヴォクスデンの言葉で汎用ロボットは、降下して来る宇宙船と通信映像回線を、ホログラムスクリーンの一つに接続した。イタチかマングースのような顔をした、異星人の顔が大きく映し出される。エテューゼ宙域辺りでよく見かける、ゼバルガン星人だ。その顔を見たヴォクスデンが面倒臭げに名を呼ぶ。顔見知りらしい。
「ガーヒュか」
ガーヒュと呼ばれたゼバルガン星人は、ギザギザの歯が細かく並んだ口を開き、挑戦的な口調で言い放つ。
「出たなヴォクスデン! 今日こそ決着をつけてやる!」
それを傍で見ていたノヴァルナは、“出たなってなんだよ…”と内心でツッコミを入れた。しかし決着とは?
「今日は大事な客人が訪れている。日を改めてはもらえまいか?」
ヴォクスデンが拒否するが、ガーヒュは納得するはずも無かった。
「そうは行くか! おまえを倒して武名は頂きだ!!」
ガーヒュの言葉にノヴァルナは、なるほど…と思う。伝説のBSIパイロットの名をほしいままにするヴォクスデン=トゥ・カラーバを倒せば、その名は天下に鳴り響くはずだからだ。
しかしノヴァルナが通信画面で見る限りでは、このガーヒュという異星人の態度から、パイロットとしてそれほどの技量を感じさせない。もっとも性格と技量が別物である事は、『ヴァンドルデン・フォース』にいたエースパイロットのベグン=ドフを見ての通りだが。
「もし拒むってんなら、前にも言ったように、近くの町を火の海にする!」
それは明らかな脅迫だった。“前にも言った”とは、これが一度目ではないという事だろう。ヴォクスデンはため息まじりに「分かった―――」と応じ、言葉を続けた。
「だがここに来られては困る。そちらの望みの場所に参ろう」
これを聞いたガーヒュは、歯を剥き出しにした禍々しい笑顔で、対決場所を指定する。
「そこから東に二十キロほどのところに、開けた場所がある。そこへ来い!」
「ノルガ大湿原か…よかろう」
ヴォクスデンが対決場所を口にすると、ガーヒュは「待っているぞ!」と強い口調で告げて通信を終えた。映像通信画面が元の、宇宙船の降下コースを示すホログラムへ戻る。
「カラーバ殿」
声を掛けるノヴァルナに、ヴォクスデンは苦笑いで振り向いた。
「申し訳ありませんなノヴァルナ様。ああいう手合いには困らされておりまして、先日居場所を知られ、一度は追い返したのですが…」
そこに汎用ロボットが新たな反応を報告する。
「さらなる降下宇宙船の反応あり。三隻が最初の一隻に追随するコースを取りながら、降下して来ます」
「ほう…今度は応援付き、というわけか」
そう呟いてヴォクスデンは、汎用ロボットに命じた。
「私の機体を用意してくれ。すぐに出る」
イタチのような頭をしたガーヒュというゼバルガン星人に、対決場所として指定されたノルガ大湿原は、ヴォクスデンの隠棲地から東に約二十キロの位置ほど進んだ、一辺が四キロほどの、菱型に近い形をしている広大な湿原だった。全域が水と水草に覆われているが、所々で水深のある湖沼部となっており、その一方で地表から、石灰質の尖った岩が何本も突き出しているのが印象的である。
午前中の晴天が嘘のように、鉛色の雲が空を満たし始めた頃、ヴォクスデンの操縦する『ミツルギCC』がノルガ大湿原に到着した。反転重力子ホバリングを切って着地…というより着水すると、人型の機体は足首の上あたりまで水没する。
ササーラとランを従えたノヴァルナは、大湿原の入り口付近の僅かな陸地にバイクを止め、対決の始まりを待った。すると雲の中から相手の宇宙船が姿を現す。大型貨物船が四隻だ。いずれもノヴァルナの専用艦、『クォルガルード』ほどの大きさがある。
チッ!…と舌打ちするノヴァルナ。貨物船の大きさが予想以上だったからだ。搭載している数は一機や二機ではないはずで、やはり『クォルガルード』を呼ぶべきか、とも思う。そして案の定、上空で停止した貨物宇宙船の舷側がスライドして開くと、BSIユニットが続々と降下し始める。いずれも陸戦仕様の量産型『ミツルギ』だが、ヴォクスデンの古い機体ではなく、すべて現行バージョンの機体だ。全部で32機もいる。
そして最後に降下して来たのはBSHOであった。足太の下半身に比べ、上半身は細身。腕の形状も右と左で全く違い、異様に大きなQブレードを腰部背後に、横向きに装備している、不格好なBSHOだった。
相手はヴォクスデンの機体を半包囲する形で勢揃いする。通信用のヘッドセットを装着したノヴァルナの耳に、BSHOからヴォクスデンへの通話が中継された。やはりBSHOに乗っているのがガーヒュである。
「ヴォクスデン! これで終わりだぜ!」
「ガーヒュ。おぬし、そのBSHOはどうした? おぬしはBSHOの適性は、不可だったのではないか?」
ヴォクスデンの問いに、ガーヒュは「ヒャハハハ!」と、けたたましい笑い声を上げて応じた。
「コイツか!? コイツは『ジャゴーGE』! 俺様の専用機さ!!」
イキがるガーヒュを無視し、ヴォクスデンは『ジャゴーGE』と名付けられた、そのBSHOの品定めをする。
「ふぅむ…廃棄された様々なBSHOのパーツと、量産型BSIの親衛隊仕様機のパーツのハイブリッドか。まがいものもいいところであるな」
「うるせぇ! これでもサイバーリンク機能はBSHO並みだ。コイツ一機でも、てめぇには充分だぜ!」
その言葉を聞いて、ヴォクスデンは顔をしかめた。
「まがいものの機体に、まがいものの深々度サイバーリンクシステムか…私に勝てても、それに乗っておる限りはおぬし、いずれ死ぬぞ」
ヴォクスデンが口にした“死ぬぞ”というのは、何かの比喩ではない。“まがいものの深々度サイバーリンクシステム”とは、適性の無いパイロットでもBSHOの操縦を可能にする、BSSS(Biotechnological Synchronized Support System)の事だ。
常人に強制的にBSHOの操縦適性を与えるこのシステムは違法であり、長時間使用すると脳細胞が死滅していく危険性を伴っている。およそ二年前には、当時のイマーガラ家宰相であったセッサーラ=タンゲンが、病死を目前に、イマーガラ家にとって将来的な仇敵となるであろうノヴァルナを抹殺するため、同様のシステムを搭載したBSHO『カクリヨTS』で出撃。自分の命もろとも、ノヴァルナとの相討ちを狙った事件もあった。
しかしそんなヴォクスデンの警告も、ガーヒュが聞き入れるはずは無い。
「ヒャハハハ! てめぇさえ倒せばもう乗らねぇさ! 有名になりゃあ、仕事なんざ選び放題だからなぁ!! それに今回は俺様の仲間がてめぇを袋叩きにする。俺様はとどめを刺すだけって寸法だ!」
「それで今度は、味方を連れて来たのか?」
「おおよ。みんな俺様の手下。一門というわけさ」
通信を傍受しているノヴァルナは、ガーヒュという異星人が連れている仲間というのが、おそらく傭兵だろうと判断した。この辺りで活動しているのなら、もしかすると『アクレイド傭兵団』かも知れない。とその時、鉛色の空から雨が降り始めて、瞬く間に雨脚を早くしていった。湿原に無数の波紋が広がってゆく。ガーヒュは痺れを切らせたように、一気に声量を上げた。
「お喋りは終わりだ。そろそろ始めようぜ!!」
▶#15につづく
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中
あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。
結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。
定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。
だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。
唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。
化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。
彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。
現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。
これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
老聖女の政略結婚
那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。
六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。
しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。
相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。
子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。
穏やかな余生か、嵐の老後か――
四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる