銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
338 / 508
第16話:風雲児、伝説のパイロットと邂逅す

#15

しおりを挟む
 
「行くぞ!!!!」と叫ぶガーヒュ。

 その直後、『ジャゴーGE』を含むガーヒュ一味のBSIユニットの、全機の足元で白い水柱が大きく吹き上がった。ホバリング出力を高めて、戦闘距離を取るために高速移動を開始したのだ。蜘蛛の子を散らしたように、一斉に散開する33機のBSIユニット。
 だがヴォクスデンの『ミツルギCC』だけは動かない。コクピットの戦術状況ホログラムが映し出す、惑星上空を周回する個人所有の監視衛星からの、敵の移動状況を確認しながら、ノヴァルナ達との通信回線を開く。

「ではお客人。見届け役、宜しくお願い致します」

 ヴォクスデンはノヴァルナの名を口にせずに、“お客人”と呼んだ。ここにいるのがノヴァルナ・ダン=ウォーダだとガーヒュが知れば、功名心に駆られてノヴァルナにまで危害を加えかねない…と考えたからである。

「大丈夫なのか、カラーバ殿。時間さえ稼いでくれれば、今からでも私の機体を積んだ船を呼び寄せるが?」
 
 ノヴァルナが懸念したのは、敵の数もそうなのだが、機種が陸戦仕様機であるという点だ。ヴォクスデンの『ミツルギCC』は通常の宇宙戦仕様のままであり、量産型よりは多少マシとは言え、地上戦ではさらに不利になる。しかしヴォクスデンは、落ち着いた口調で応じるだけであった。

「心配はご無用」

 そう言ったヴォクスデンの『ミツルギCC』は、ノールックで不意に超電磁ライフルを握る右腕を真横へ突き出し、トリガーを引く。するとその一弾は、雨の中で水柱を上げながら射点を得ようと走る、一機の敵BSIを早くも捉えた。閃光と爆炎が起こって、転倒した敵機がドーン!…とさらに大きな水柱を上げる。

 そこに別の敵機が、三方向から取り囲むように射撃。

 だがそれに対するヴォクスデン機は、僅か三メートルほど左へ機体をスライドしただけだ。三方向から来た銃弾は移動した『ミツルギCC』を、ギリギリのところで通り過ぎる。しかもその間に『ミツルギCC』も銃撃を三方向へ、目にも止まらぬ速さで次々と返した。降りしきる雨の向こうで閃光が三つ。続いてドガガガン…という三つ重なった爆発音が、遅れて響いて来る。

「すげぇな…BSHOじゃねぇのに、三機の敵の動きを同時に読んでる」

 呟きながら息を吞むノヴァルナ。BSHOと量産型BSIユニットにおける、ソフトウェア面での大きな違いはここであった。サイバーリンク深度の深いBSHOであれば、複数の敵の動きをダイレクトで、パイロットの意識の中へ送り込んでくれるが、誰でもが乗れる量産型BSIユニットでは一機ずつの情報が、順次意識に認識させるしかないのだ。

 これは機体性能ではなく、パイロットのサイバーリンク適性によるもので、専属搭乗者向けにカスタマイズされた親衛隊仕様機でも、処理速度こそ速いがパイロットの適性限界の差で、認識できる敵の動きはやはり一機ずつであった。つまり今の三機の敵の動きを同時に把握したのは、機体性能ではなくヴォクスデンの“読み”によるものだという事である。

 とその時、初めてヴォクスデン機は大きく動いた。後方へ全速でホバリング移動する。次の刹那、ヴォクスデン機のいた位置に、数え切れないほどの白い水柱が屹立した。敵BSIユニットの集中射撃だ。ヴォクスデンの『ミツルギCC』はそのまま、フィギュアスケートの選手のように、後ろ向きで華麗にカーブを描いて湿原を右へ左へ滑る。その後を追いかけて来る、敵の銃撃による水柱の連続。だが当たらない。反撃のライフルを構える『ミツルギCC』。
 
 一度動き出したヴォクスデンの機体は止まらない。雨量はさらに増え、ノヴァルナ達は近くに生える、白い幹が印象的な樹木の下に移動し、観戦を続けた。

 敵のBSIユニットはガーヒュのBSHO『ジャゴーGE』を含め、まだ29機もいる。それらがヴォクスデンの『ミツルギCC』を捕捉しようと、個々に高速移動しながら、しきりにライフルを放つのである。ヴォクスデン機もライフルを構えているが、回避の方が忙しく、反撃の機会が無いように見える。

 ガーヒュという異星人パイロットは、粗野ではあるが、考える脳が無いわけではないらしい…と、ノヴァルナは感じた。

 地上戦を選んだのはおそらく、ヴォクスデンの回避方向を限定するためだろう。宇宙戦だと三次元方向の機動が可能だが、地上戦だと上へ跳躍する以外は、前後左右の動きだけに限定する事が出来るからだ。伝説のパイロットを相手にするとなると、動きを限定出来るのは大きい。それをさらに数の力で、効果を高めようというのに違いない。


だがしかしヴォクスデンも無論…そのような事は承知の上のはずだ―――


 そしてその兆候は早くも現れた。湿原の上を複雑な軌跡を描いて高速移動する、ヴォクスデン機の周囲に屹立する水柱の数が、一気に減り始めたのだ。

“なに?…何が起きている?”

 雨に煙る戦場の向こうに目を凝らすノヴァルナ。そしてこの状況の変化は、ヴォクスデンと戦うBSI部隊を指揮している、ガーヒュにとっても想定外で、神経を苛立たせるものだった。

「どうした!? 攻撃が甘いぞォ! もっと追い込め!!」

 コクピットの座席シートを揺らしながら、ギザギザの歯が並ぶ口を大きく開いて怒声を上げるガーヒュ。そこに陸戦仕様『ミツルギ』の複数のパイロットから、通信が入る。

「駄目だ! 味方のBSIが射線上にいる!」

「こっちもだ。このままじゃ撃てねぇ!」

「下手に撃ったら、同士討ちになっちまう!!」

 それはヴォクスデンの恐るべき機動だった。敵のBSI部隊の銃撃から逃げ回っているだけ、と見せかけていたのは陽動であったのだ。ヴォクスデン機を追い込もうとBSIユニットが集まった結果、その動きに誘われ、複数の機体がヴォクスデン機に対する射線上に重なり、後方にいる機体は同士討ちの可能性を恐れて、銃撃できなくなってしまっていたのである。

 しかもそれはヴォクスデンの反撃に絶好の効果をもたらした。超電磁ライフルを放つヴォクスデンの『ミツルギCC』。その一撃は瞬間的に一列に重なっていた、三機の敵BSIの頭部を貫通。まとめて粉々に砕いた。




▶#16につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

処理中です...