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第17話:風雲児 都の星で ひと暴れ
#06
しおりを挟むクーケンの懸念は的中していた―――
待ち伏せ部隊のいる浄水・空調施設に最初に突入したのは、ノヴァルナの直属部隊ではなく、彼に協力するカーズマルス=タ・キーガー率いる、元ロッガ家の特殊部隊だったのだ。ラン・マリュウ=フォレスタがノヴァルナに提案したのは、このカーズマルスに助力を要請する事であった。
ノヴァルナの認可を受けたランの要請に対し、カーズマルスは二つ返事で了承。全面的な協力を約束し、即座に部下達を招集して、突入作戦を立てると『クォルガルード』より先行して出動するという、手際の良さを見せたのである。
これはビーダとラクシャスが待ち伏せ場所を、『ゴーショ行政区』の外れにあるこの『ゴーショ東第二工場区』にした事も大きい。
『ゴーショ行政区』と他の行政区の境界地帯『カ・クーシャ』の中で、カーズマルスとその部下が支配している『デノアンカー区』は、この工場区の近くにあったのだ。さらに彼等が根拠地にしているのが、荒廃で無人状態となっていた警察署であり、周辺地域の構造物の情報は容易く収集が可能だったため、その浄水・空調施設の詳細な情報を入手、『クォルガルード』へ提供までしていた。
そして準備を済ませて出動したカーズマルス隊は、クーケンの見張り員が『クォルガルード』の接近を察知した時にはすでに、別ルートから施設内に潜入を終えていたのである。
アサルトブラスターライフルを手に片膝をついた、カーズマルス=タ・キーガーの、複合型ヘルメットに部下達から報告が入る。
「バイパー22。ルーム3制圧」
「バイパー26。ルーム5、クリア」
その報告がマーカー表示となって、カーズマルスの左手首に巻かれたリストバンド型NNL端末が展開する、施設の構造ホログラムに記された。
「バイパー210。ルーム8制圧。敵は一般兵の模様」
その報告を聞いてカーズマルスは、敵の中核である特殊部隊のいる位置が、ほぼ予想通りであろうと判断する。施設内の中央やや後方にいるのが特殊部隊で、増援の一般兵がそれを半ば囲むように配置されている。こちらが行っているのがノア姫の奪還作戦であるから、姫の発信器の反応がある中央管理棟付近まで引き付け、迎撃するつもりに違いない。周りに置かれた一般兵は、こちらの動きを知るための囮にされているのだ。
なかなか現実的な判断をする敵の指揮官だと、カーズマルスは思う。しかし彼等も予想していないであろう情報を、カーズマルスは持っていた。それはこの施設の構造図内に示された、個々の敵兵の位置である。突入直前にノヴァルナの『クォルガルード』から与えられた最新情報だった。
そしてカーズマルスが驚いたのは、この情報を入手したのが、ノヴァルナの二人の妹の仕事によるものだという事だ。
ノヴァルナの二人の妹マリーナとフェアンは、まだ十八歳と十七歳の若さで、異世界で言う“ゴスロリファッション”を愛する冷静沈着な姉と、赤・白・ピンクがファッションの基本で無邪気な妹という、見た目も性格も対照的な姉妹だったが、それぞれに異才を放つものがあった。マリーナの冷静な状況分析力、フェアンのコンピューター操作―――ハッキング能力がそれである。
ノアの発信器の信号が、『ゴーショ東第二工場区』の浄水・空調施設にいる事を確実にし、カーズマルス=タ・キーガーからその施設の構造図データが届いた際、マリーナはこれを使えば、内部にいる人員の位置が、把握できるのではないかと考えた。最初から敵兵がどの位置にいるかが判明していれば、こちらが俄然有利になるのは間違いない。
そこでマリーナが話を持ち掛けたのが、高いハッキング能力を持つ、妹のフェアンだった。フェアンは先日の惑星ルシナスの海洋レジャー施設で、クーケン達に襲われた時、展示されてあった旧時代の潜水艦をハッキングで行動可能にし、全員の脱出を成功させたのをはじめ、これまでの幾度かの危機を、その才能で救ってきた実績がある。
カーズマルスから、『クォルガルード』の艦橋内に送信されて来た、ワイヤーフレームで内部構造まで表示された浄水・空調施設のホログラムを前に、この事を閃いたマリーナは、落ち着いた口調で傍らのフェアンに問い掛けた。
「イチ。思いついたのだけれど、この構造図に敵の兵士を一人ずつ、表示できないものかしら?」
「ん? どゆこと?」
事態が事態だけに、姉に訊き返すフェアンも、言い回しはいつも通りだが、口調は真剣だ。マリーナはホログラムを指さして告げる。
「別で敵兵の位置をハッキングして、この構造図とリンクさせるの。はじめからノア義姉様と、敵のいる位置が分かれば、全然話も違って来るでしょ? あなたなら出来るわよね?」
「そうだけど…楽じゃないよ。ここは軍事施設とかじゃないから、そこまでは複雑じゃないとは思うけど、それでもセキュリティの監視システムを、直接ハッキングするには時間がかかるから、長引きそうで自信無いなぁ…」
首をかしげるフェアン。しかしマリーナの閃きはその上を行くものだった。
「監視カメラや対人センサーは、ハッキングしなくていいの」
「なんで?」
そう言って訝しげな眼を向ける妹にマリーナは、彼女のトレードマークである、左腕に抱く人相の悪い犬の縫いぐるみの頭に右手を軽く置くと、口元に僅かだが笑みを浮かべて告げた。
「あなたがハッキングするのは、消防システムなのだから」
▶#07につづく
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