銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
382 / 508
第18話:未来への帰還

#13

しおりを挟む
 
 翌日の惑星ラゴンのメディアは、ノヴァルナのキヨウからの帰還以上に、その帰り道でノヴァルナとノアが、結婚式を挙げて来てしまった事に話題が集中した。

 特にノア姫はその美しさから、キオ・スー家領域ではノヴァルナの妹のマリーナと、フェアンに比肩するほどの人気を持ち、NNLの情報サイトでは、ほぼ独身男性ばかりの、ファンクラブも存在するほどである。そしてそのファンクラブサイトがこの式の報道で、阿鼻叫喚の地獄絵図となったのも無理からぬ事であった。ノアのファンの間では、彼女がまだノヴァルナの婚約者でとどまっていた事が、唯一の救いだったからだ。

 ただその一方で当然ながら、三年近く婚約したままであった二人の、ようやくの正式な結婚式に、祝福の声を上げる人々もいる。元来、キオ・スー家に仕える一般兵士の間では、ノヴァルナの無駄に兵を死なせないという指揮方針は、人気があったため、自分達の主君の慶事は素直に受け入れていた。
 また経済界でもこの二年のノヴァルナの、内政への専念を評価する動きが起きており、株式市場も安定し始めていた事に加え、主君ノヴァルナ自身も落ち着くとの判断で、二人の正式な結婚を歓迎した。

 無論、身勝手な突然の挙式を非難する声も多い。しかし翌日にはもう、ノア姫自らが各メディアのインタビューに応じるとともに、ノヴァルナが口にした結婚式の映像がキオ・スー家から配信されると、その映像美に、女性を中心に評価も覆り始めたのである。



 ノヴァルナとノアが結婚式を挙げたのは、キヨウからの帰還途中に立ち寄った、頭部に蟻のそれに似た触角を生やした異星人、アントニア星人の母星アントナーレアだった。
 アントナーレアは、巨大な樹木が大陸のほぼ全土を覆う惑星で、アントニア星人はその巨木の森林に中に木造の都市を作って生活している。彼等の頭部の触角は、地磁気を感じる機能を持っており、この森林の惑星で方向感覚を維持するためのものだ。

 ノヴァルナとノアがなぜ、この惑星で結婚式を挙げる事を決めたかといえば、惹かれ合うようになった二人が、それぞれの家を抜け出して密会した星―――アントニア星人の植民惑星である、サイロベルダ星系第五惑星のシルスエルタの環境と似ていたからであった。
 その時も敵に狙われたのだが、二人で力を合わせて切り抜け、それが結果的に、二人の絆をより深いものにしたのである。そんな思い出を彷彿とさせる、森林の惑星が、二人の結婚式の舞台だった。
 
 しかも惑星アントナーレアは、シルスエルタ以上に幻想的であった。

 二人の結婚式の映像はまず、白い霧が立ち込める巨大樹の森が映し出される。その幹は、太いものではおよそ50メートルはあろうか。この種の樹木は寿命が三万年以上とされ、発芽から何万年経っているかも分からない。幹の表皮は岩のようになっていて、別種の中小様々な植物が生えており、そこに生きる昆虫や小動物とで一本一本の巨大樹それぞれに、一つの生態系が営まれていた。

 アントニア星人の街は、その巨大樹の間を埋め尽くすように、地上数キロの高さにまで立体的に作られている。
 建築素材にはシルスエルタでも行っていた、木材を特殊加工して金属並みの強度を持たせたものを使用。それを細長くして、複雑な曲線を描くように組み合わせた立体都市は、遠くから見ると細木細工のようて、優しく柔らかな印象を与える。

 無論、アントニア星人も銀河皇国に加わっている以上、恒星間航行能力を有する高度な科学と、それに類する施設を持っていた。だがそれらは全てアントナーレアの海上と海浜部、そして衛星軌道に置かれていて、巨大樹が覆う大陸部にはほとんど手を付けていない。それは彼等アントニア星人の、巨大樹を信仰の対象とした自然崇拝によるものだった。彼等が暮らす巨大樹の森と、木で作られた立体都市そのものが、彼等にとって神聖な場所なのである。

 そのような場所での結婚式であるから、アントニア星人のしきたりに則った式は殊更厳かだった。

 場所は、この惑星を覆う森に幾つかある聖地。すでに命脈が付きて枯れ果て、途中で折れた幹が化石化した“原初の”。現在のアントナーレアを覆う森の元となったされる、巨木の化石である。

 ノヴァルナとノアはその“原初の樹”へ通じる、橋のたもとに立っていた。橋も当然木製で、強化加工された時の生木の色が、そのまま保たれていて美しい。“原初の樹”までの両側には、神職の女官が十二人ずつ並ぶ。

 二人の着ている衣装は純白。別の世界で言う“和装”に似たそれには、派手な飾り付けは一切ない。だがさりとて質素というわけではなく、“余計なものは何もない”といった印象を与える。唯一、飾りに近いものと言えば、二人の衣装の襟に銀糸で刺繍された家紋。ノヴァルナにはウォーダ家の『流星揚羽蝶』、ノアにはサイドゥ家の『打波五光星』ぐらいだ。

 そんな二人の背後には、ノヴァルナの二人の妹やキノッサとネイミアなど、この旅に同行して来た人々が集まっている。周囲の白い霧の中に浮かアントナーレアの街の明かりが、蝋燭の光のように優しい。




▶#14につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

処理中です...