銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第18話:未来への帰還

#14

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 やがて式の始まりを告げる、コーーーン…と染み渡るように響く音が、五回…六回と打ち鳴らされた。それは会場の上に伸びる巨大樹の枝から提げられた、五メートルはあろうかという、六本の長い筒のような管楽器からである。
 この管楽器は『ル・ハン』と呼ばれており、“原初の樹”の枝が化石化したもので、中が空洞になっており、外を叩くと中でそれが反響する仕組みになっていた。

 巨大樹の森が生きて来た、悠久の時を感じさせる音の残響が終わらぬうちに、三人の女性神官が、ノヴァルナとノアの前へ静かに進み出る。一人は手に四角い拍子木に何かの文字が彫られたもの、あとの二人は白い布を被せた、“三方さんぽう”のような儀式台を両手で捧げ持っていた。拍子木を持った神官の両側やや後ろに、“三方”を捧げ持った二人が並ぶ。

 すると中央の神官が、アントニア星人の言語による“祝詞のりと”を上げ始めた。キオ・スー家から提供された映像には、銀河皇国公用語の字幕が流る。二人を巡り合わせ、今日ここへ導いたアントナーレアの木々への感謝の言葉らしい。

 祝詞はそれを上げた女性神官が、手にしていた拍子木をゆっくりと二度、打ち鳴らして終わる。するとその背後に控えていた二人の神官が、“三方”に被せていた白い布を外して、真ん中の神官に捧げた。布の下に置かれていたのは、美麗な琥珀の首飾りだ。琥珀は樹液が化石化する事で生成される宝石であり、この首飾りに使用されている琥珀は、“原初の樹”の樹液から誕生したものである。

 中央の神官はその首飾りを手に取って三回の礼をし、まずノア、そしてノヴァルナの首にかけた。ノヴァルナとノアがお辞儀をすると、女性神官は“原初の樹”に振り返り、二人を導いてゆっくり…ゆっくりと歩き始める。筒状打楽器の『ル・ハン』が一つ打ち鳴らされ、“原初の樹”の両側に立つ女官が、ノヴァルナ達の歩調に合わせて、手にしていた小ぶりの太鼓を打ちだした。そして一行が橋を渡り始めると、橋の上に居並ぶ女官達は、一斉にこうべを軽く垂れる。

 それらは一行が橋を渡りきるまで続き、一行は神棚に囲まれた“原初の樹”の前で立ち止まった。よく見ると“原初の樹”には、人ひとり入れそうな穴か穿たれておりほこらとなっている。その中には火のついた小さな蝋燭と共に、金属質の光るものが据えてあった。

 女性神官はその祠の前で再び祝詞を上げる。そしてそれが終わると、ノヴァルナとノアに、祠の前に来るよう促した。近づいて見ると、祠の中で蠟燭に囲まれていたのは丸い鏡だと知れる。どうやら表面を磨き上げられた銀製らしい。銀はアントニア星人には、金以上に神聖な存在だ。これも神器の一つであった。
 
 祠の中に収められた銀鏡は、アントニア星人の世界では、全ての真実を映し出す器と言われ、その前で結婚を誓う事は、曇りなき二人の絆を世に知らしめるものだとされている。
 ノヴァルナとノアはその銀鏡に、即興で覚えたアントニア星人の言語で、誓いの言葉を述べ、女性神官は全員に対し、いま二人の婚儀がなった事を告げた。
 静寂が続く森に『ル・ハン』が六回打ち鳴らされ、橋の両側で並んでいた女官達が懐から細い横笛を取り出し、祝賀の曲を吹き始める。彼女達は横笛を吹きながら頭部の二本の触角を交互に揺らして、祝福の意を表した。

 その間を通って戻って来たノヴァルナとノア達は、“原初の樹”の向き直って深く一礼。“原初の樹”の両側に立つ女官が太鼓を叩いて、笛の音と共にフェードアウトさせると、締めくくりに『ル・ハン』が一つ打ち鳴らされて、式は終了したのであった………



 このノヴァルナとノアの結婚式の映像は、ノヴァルナの領地の人々にある種の驚きを持って迎えられた。

 なぜならノヴァルナと言えば、“古い慣習の壊し屋”のように、家臣だけでなく市井の一般人にまで思われていたからである。
 事実、父親でナグヤ=ウォーダ家当主であったヒディラスの葬儀の際も、ノヴァルナは悪役プロレスラー軍団のノリで葬儀会場に現れ、特撮ヒーロー番組『閃国戦隊ムシャレンジャー』の主題歌のゲリラライブを行って逃げ去り、騒動を起こしていたのだ。したがって映像が流れる前は誰もが、またとんでもない事をやらかすに違いない、と考えていたのである。

 ところがいざ蓋を開けてみると、アントニア星人の作法に寸分たがわず則った、完璧な式を挙げた。しかもこの挙式は、現在のアントニア星人のカップルはあまり使用しない、古典的かつ伝統的なもので、NNLのニュースサイトでノアをインタビューした、アントニア星人の女性キャスターのプリム=プリンは、感激して眼に涙を浮かべたほどであった。

 このような謹厳な挙式を見せられ、インタビューを受けるノアが、サプライズ結婚式を挙げた理由を、

 どのような形の式であれ国内で挙げる場合、星大名家としての鼎の軽重かなえのけいちょうが問われるため、どうしても予算をかけて盛大なものにせざるを得なくなります。しかし現在、私どものキオ・スー家とその領地は、周囲に多くの敵対勢力を抱えており、予算を回せない状態が続いておりました。そこでノヴァルナ様と私は、この旅の途中で安価で挙式する事を思い立ち、古式豊かな挙式文化を維持しておられるアントニアの方々の手で、挙げて頂いた次第です。

 と整然かつ誠実な態度で述べると、人々の不満は早くも静まり始めた。この辺りはさすがに、当主以上に一般受けの高いノアの、宣伝効果といったところだ。




▶#15につづく
 
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