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第19話:勝利への選択
#00
しおりを挟む夜のとばりに包まれたイナヴァーザン城―――
惑星バサラナルムの夜空を跨ぐ氷粒の帯が、銀の砂を緩やかな弧に引いたようにキラキラと輝く。それを窓から見える景色の一部とし、間接照明の柔らかな光が包むのは、ミノネリラ宙域星大名の私室である。
愛用の椅子に巨躯を預けた当主のギルターツ=イースキーは、各植民惑星から上げられた、先月分の経済動向報告のホログラムが映るデータパッドを眺めていた。
少し視覚に疲労を覚えたギルターツは、傍らの小さな丸テーブルにデータパッドを置く。そして代わりにテーブルの上から、ウイスキーの入ったグラスを手に取って、口へ運んだ。
芳醇な香りを楽しみ、一つ息を漏らしたギルターツは、グラスをテーブルへ戻して、その中の琥珀色の液体に眼を遣った。グラスの中身はティルサルガ星系名産のウイスキー…父親のドゥ・ザン=サイドゥが好んでいた逸品だ。
“ドゥ・ザン殿の好物も、今ではすっかり我が好物となったものよ…”
謀叛によってサイドゥ家を滅ぼし、母方のイースキー家を名乗ってミノネリラの統治を始めて二年半。ようやく内政も安定し、領民からの支持も上がって来たところである。だがそのために味わう、日々の気苦労は想像以上のものだ。星大名の座の簒奪の仕方から、自分より悪評を被って領国経営に腐心していた、父ドゥ・ザンの気苦労が今更のように偲ばれる。
そして今更と言えばかつて噂されていた、“ドゥ・ザンの実子なのか、それとも旧領主リノリラス=トキの嫡子なのか”という話が、ギルターツの意識の中で大きくなって来ていたのである。
当時は真実よりも、その噂を利用してサイドゥ家を継承するのではなく、母方のイースキー家を名乗って、ミノネリラ宙域を統治する事を重要視していた。それが星大名の座に落ち着いて来た今、やはり真実を知っておきたくなったのだ。
もう少し続けるか…とデータパッドを手にしたギルターツだが、そこにインターコムが呼び出し音を鳴らした。
「何か?」
ギルターツが音声で応答すると、通信用ホログラムスクリーンが眼前に立ち上がり、情報部の制服を着た女性士官が映し出された。
「夜分恐れ入ります。ご指定された優先事項に関する報告ですので、連絡させて頂きました」
「うむ、構わん。どのような用件だ?」
ギルターツの問いに情報部の女性士官は、どこか声を潜めるようにトーンを落として応じる。
「例の…ギルターツ様のご生い立ちに関し、当事者の一人を辺境惑星の一つにて、発見致しました………」
▶#01につづく
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