銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

文字の大きさ
394 / 508
第19話:勝利への選択

#04

しおりを挟む
 
 ヴァルキスも若いながら、人を見る眼は確かである。鎖国的政策で息をひそめながらも、ノヴァルナとカダールを将来性という名の天秤にかけていた。

 その結果、ノヴァルナは傍若無人な振る舞いを隠れ蓑にしているが、実際は戦略眼に富んだ人物で、家中の結束にいまだ不安はあるものの、有望株と言えた。それに結束に不安があるという事は、自分が“つけ入る隙が有る”という事だ。

 一方のカダールは、父ヤズル・イセスの治世に消極的な不満を抱いていた、家臣達に担ぎ上げられる形で、謀叛に成功して当主の座に就きはしたが、ヴァルキスの評価はただの傲慢な愚か者であった。

 事実、イル・ワークラン家当主となって一年もしないうちに、謀叛の際に自分を支持した者も含んで、半数以上の重臣を粛清。周囲をイエスマンで固めると、領民に対する各種の税率を大幅に引き上げ、大規模な徴兵を行った。これによりイル・ワークラン家の財政収入は向上し、軍備は増強したが、本拠地星系のオ・ワーリ=カーミラ星系とその他の領有星系では経済状況が悪化。経済の牽引役である植民星系の開拓事業は、強引な徴兵で作業員が不足する事態に陥っていた。

 これは長期的に見れば、領地と自らの星大名家を弱体化させるため、通常ならば会戦で大敗したあとなどの、ごく短期間の窮余の政策に留めるべきものだ。しかしカダールはこのような政策をもう三年も続けており、しかも期限が設けられていないのである。

 このようなカダールであるから共闘と言いながら、当初からヴァルキスに対しても高圧的で、従属的な立場を求めて来ていた。これもまたヴァルキスにとっては、許容できないものだ。
 こういった評価に基づき、ヴァルキスはノヴァルナ側につくべきと判断。カダールへは共闘に応じ、一旦ノヴァルナ側へついて数年をかけ信用を得た上で、決戦の場で、ノヴァルナを背後から挟撃する計画を立てたのだが、これは見せかけであって、ノヴァルナに対し全てを洗いざらい打ち明け、ノヴァルナの覇権のため、いわゆる“二重スパイ”の役目を買って出たのだ。

 しかも、ノヴァルナ陣営へ加わったヴァルキスは、カダールだけでなく、カーネギー=シヴァ姫の謀叛の兆候も探り出し、ノヴァルナに知らせた上で、こちらにも接触するようになった。

 そこでノヴァルナは最も信頼を置く側近の一人、ナルガヒルデ=ニーワスに監視役を兼ねてヴァルキスと組ませたのである。ノヴァルナがキヨウへの旅に出ている間に、情報部とは別に家中の反ノヴァルナ派の動きを探る任を命じられたのも、この事に起因していた。今回はその山場となるカダールとの決戦であり、ナルガヒルデは麾下の第2戦隊を指揮するのではなく、ヴァルキスに同行していたのだ。
 
 ヴァルキスからの情報を得たノヴァルナは、今回の出撃前に極秘の指令を幾つか発していた。その一つが、カーネギー=シヴァ姫の身柄確保である。

 ノヴァルナの不在を狙い、キオ・スー城の占領を目論むカーネギー姫は、一旦惑星ラゴンを離れ、共犯者の皇国貴族ジョルダ・カブフ=イズバルトが所有する、荘園星系へ向かおうとしていたのだが、キオ・スー市宇宙港で自家用恒星間シャトルに乗り込む準備をしていたところを、陸戦隊に取り囲まれた。周囲には一般の旅行客も多くおり、皆驚いている。

「貴殿ら、こちらはオ・ワーリ宙域領主にして、高家たるシヴァ家のカーネギー姫なるぞ。無礼であろう!」

 宇宙港のロビーで完全武装の陸戦隊一個小隊に包囲され、身をすくめる旅支度のカーネギー姫を庇い、側近のキッツァート=ユーリスが怒声を発する。だがそのような脅し文句で動じるような兵士達ではない。そして居並ぶ陸戦隊の兵士の間を掻き分けて、姿を現したのはカッツ・ゴーンロッグ=シルバータだった。シルバータは恭しく頭を下げながら、硬い口調でカーネギー姫に告げる。

「ご無礼の段、ひらにご容赦を、カーネギー姫様。ノヴァルナ様の命でお迎えに上がりました。キオ・スーの城へお戻り下さい」

「誰がそのような言葉に―――」

 声を荒げて拒絶しようとするカーネギー。しかしそれを言い終わらないうちに、キッツァートが「姫様!」と強く呼びかけて遮った。シルバータの“ノヴァルナ様の命”という言葉に、自分が仕える姫の野望が、すでにノヴァルナの知るところであり、もはやあらゆる方向で“詰んだ”事を悟ったからだ。

「キオ・スー城へ…帰りましょう」

「だけど!…」

 ここまで来ながら…と言いたげに、カーネギーはキリリ…と奥歯を噛み鳴らす。だがキッツァートがこれまでに聞いた事の無い調子で、「姫様!」ときつく呼びかけると、カーネギーもようやく状況を受け入れたらしい。

「わ、わかりました………」

 うなだれながら促されるままに、宇宙港の出口へ向かい始めるカーネギーに、シルバータは難い口調のまま「賢明なご判断、恐れ入ります」と言い、さらに追い討ちをかけておく。

「ハルトリス家のニノージョン星系にも、制圧艦隊が向かっております。また、キラルーク家の方にも手を回しておりますれば、カーネギー様におかれましては、どのような手も打たれるすべはございませんでした」

「そう…ですか…」

 次第に顔が蒼白になっていくカーネギーを哀れに思いながらも、シルバータは自分の主君カルツェが、同様の道を再び歩む可能性を大きく危惧していた………





▶#05につづく
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ゲームコインをザクザク現金化。還暦オジ、田舎で世界を攻略中

あ、まん。@田中子樹
ファンタジー
仕事一筋40年。 結婚もせずに会社に尽くしてきた二瓶豆丸。 定年を迎え、静かな余生を求めて山奥へ移住する。 だが、突如世界が“数値化”され、現実がゲームのように変貌。 唯一の趣味だった15年続けた積みゲー「モリモリ」が、 なぜか現実世界とリンクし始める。 化け物が徘徊する世界で出会ったひとりの少女、滝川歩茶。 彼女を守るため、豆丸は“積みゲー”スキルを駆使して立ち上がる。 現金化されるコイン、召喚されるゲームキャラたち、 そして迫りくる謎の敵――。 これは、還暦オジが挑む、〝人生最後の積みゲー〟であり〝世界最後の攻略戦〟である。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

処理中です...