銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第19話:勝利への選択

#07

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「キオ・スー軍哨戒駆逐艦2隻を確認!」

 オペレーターの報告に、カダールはチッ!…と舌打ちする。こちらがノヴァルナ艦隊を先に発見したのも束の間であった。

「ふん、まぁいい。今から突撃を仕掛ければ、先手を取る事に変わりはない」

 どうやらカダールは、“ノヴァルナ艦隊との距離が遠すぎる”という、今しがたの参謀長の進言を、まるで聞いていなかったらしい。それでいながら、参謀長が口にした“ノヴァルナ様”の敬称にだけは反応したのだから、これはある意味、才能なのかも知れない。

「ですが…」

「なんだ?」

 改めて進言しようとする参謀長だったが、眼光鋭く言葉を返すカダールから視線を外した参謀長は、無駄な事だと感じ口をつぐんだ。そこへ側近のパクタ=アクタがしゃしゃり出て来てカダールを煽る。

「さぁカダール様。突撃のご命令を」

 大きく頷き「うむ!」と応じたカダールは、右腕を突き出して命令を発した。

「全艦。最大戦速でキオ・スー艦隊へ向かえ!」

 そして気分の高揚を覚えたカダールはさらに付け加える。

「俺の機体も用意しておけ。いつでも出られるように」

 カダールはBSHOに乗る能力を持つパイロットでもあり、専用機として『セイランCV』を保有している。かつてのMD-36521星系の戦いでは、短時間であったが、ノヴァルナの『センクウNX』とも交戦していた。だがその際の屈辱的な敗北が原因となって、戦闘全体の状況が一気に逆転し、イル・ワークランとロッガ家の連合軍側の敗退を招いたのである。

 これがカダールがノヴァルナを、心底憎むようになった最大の原因であり、深層心理的にノヴァルナにコンプレックスを抱くようになったのだ。そういったものもあって、カダールは自らが『セイランCV』で出撃し、機会があれば自分の手で、ノヴァルナにとどめを刺そうと思っているのであった。

 カダールの命令でイル・ワークラン艦隊は、一斉に重力子の黄色い光のリングを艦尾に輝かせ、入道雲のような星間ガスの塊の間で加速を開始する。

「敵艦隊の位置は?」

 加速開始後少しの間を置き、参謀長がオペレーターに尋ねた。

「当初のコースを前進中」

「そうか…」

 そう応じながら参謀長は眉をひそめる。ノヴァルナ側は自分達が発見された事は知っているはずだ。それであるのに、直進という単純なコースを取っているのは、腑に落ちないところである。誘引行動にしてもあからさま過ぎる。ところがそれを見抜けない者がいた。主君のカダールだ。

「直進だと?…ノヴァルナめ、とんだ無能なヤツ!」
 
 カダールの言葉を聞いて参謀長はようやく、キオ・スー艦隊の直進行動が腑に落ちた。自分には単純に思えた、ノヴァルナが取っている誘引行動は、“こちら側の司令官の指揮能力レベル”に合わせているのだ。つまりこのような単純な動きをしても、カダールには誘引行動だと判断できないであろうと、侮られているわけである。

 そして悲しいかなイル・ワークラン家の主君は、ノヴァルナの侮り通りの判断をしていた。

「今の速度でノヴァルナどもと、ぶつかるまでの時間は?」

 カダールは自分の問いに、オペレーターが「およそ15分」と応じたのを聞き、拳を作った右手を手首でクルクル回しながら、強く言う。

「急げ。一気に距離を詰めろ!」

 さすがにこれでは罠に飛び込むだけで危険過ぎると思い、参謀長も黙っていられなくなった。

「お待ちください、カダール様」

「なんだ!?」

「このまま突っ込むのは危険です」

 するとカダールは歪んだ笑みを浮かべて、「罠だと言いたいのだろう?」と鷹揚に告げる。一応は罠だと気付いているのか…と思う参謀長だが、そのあとのカダールの言葉を聞き、再びその眼に失望の色が見えた。

「だから突っ込むのだ!」

「は?」

「わからんか。昔から“兵は拙速を尊ぶ”というだろう!」

 確かにそうは言う。特に遭遇戦で先に敵を発見した場合は、たとえ味方の装備が整っていなくとも、敵が準備を整えるまでに攻撃を仕掛けるのは正しい。だがそれは、全てのケースに当てはまるものではない。
 自分と兵達の命にも関わる事であるから、説得を試みようとする参謀長。ところがここでまた、側近のパクタ=アクタが要らぬ口を出して来る。

「古来より伝わるソーン=スーマの兵法ですな。流石はカダール様。いつもながらのご慧眼、感服致します」

「ですが、今回は―――」

 パクタの追従口に満足そうに頷くカダールに、異議を唱えかける参謀長。しかしカダールは右手を挙げてそれを遮り、全ては分かっていると言う眼で告げた。

「慎重論も時には大切だ、参謀長。だがそれも時と場合による。ノヴァルナどもが間抜けに直進している今は、突撃すべき時なのだ」

「………」

 不服そうな参謀長に、パクタがどこか冗談めいた口調で言う。

「ここは従うが御身のためですぞ。参謀長」

 するとカダールは寛容なところを見せたつもりか、穏やかな表情で、宥めるように参謀長に声を掛ける。

「貴官の進言には感謝している。これからも頼むぞ」

 意味を成さないカダールの評価の言葉に参謀長も、「ありがとうございます」と乾いた声で応じた………




▶#08につづく
 
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