銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第19話:勝利への選択

#08

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 カダールの艦隊が、全速に移ったという哨戒駆逐艦からの情報に、総旗艦『ヒテン』に乗るノヴァルナは、鼻先でせせら笑った。

「はん! やっぱあの阿呆らしいぜ」

 カダールと似た反応だったが、ノヴァルナは相手の性格を読み切った上での、放言である。味方に付いたアイノンザン星系のヴァルキスから聞いた、カダールの行動パターンは直感的・直情的・直線的。これは三年前にノヴァルナも、直接カダールと戦った時に感じたのと同じだ。つまりこの三年間…いや、おそらくそれ以前から進歩していないという事である。

 ただカダールが進歩していない理由も、分からなくはない。要は実戦経験の無さだ。三年前にノヴァルナとカダールは一度戦っているが、それ以後の両者の戦歴には雲泥の差があった。
 謀叛を起こして、イル・ワークラン家の当主の座を奪ったカダールだが、その過程でもその後も、一切の実戦を戦っておらず、自身に都合のいい設定の演習を行うぐらいでしかなかった。
 対するノヴァルナはカダール戦のあと、数々の敵と出逢い、命懸けの戦いを繰り返して生き延びて来た。経験値的にはもはや、歴戦の星大名と遜色はないレベルに達している。その差は顕著で、カダールは手玉に取られていると言っていい。

 戦術状況ホログラムで、急速接近して来るカダール艦隊の状況を見詰めていたノヴァルナは、タイミングを見計らって新たな艦隊針路を下令した。

「そろそろ動かねーとさすがにヤツも、なんかおかしいと思うだろからな。艦隊針路を022マイナス015に取れ」

 ノヴァルナの命令で、六つの艦隊は一斉に斜めやや右下方向へ舵を切る。その先は『ウキノー星雲』の、クラゲの形の触手状星間ガス雲。その中の一本であった。よく訓練されたキオ・スー艦隊の動きは、まるで流れる水のようだ。

 このキオ・スー艦隊の、回避行動のような動きを見てカダールは、自分の想像した通りだと誤断した。

「見たか! 奴等め、今頃になって慌てだしたぞ。やはり油断していたのだ!」

 眼を輝かせて言い放つカダールに、すかさずパクタ=アクタが「まこと、仰せの通りでございます」と、追従口で続く。

「急げ。奴等の針路を押さえろ。艦載機も出せ!」

「お待ちください。艦載機を出すには、まだ少し遠すぎます」

 参謀長が止めに入るが、今しがた見せた寛容さはどこへやら、カダールは強い口調で参謀長の意見をはねつけた。

「却下! 敵の頭を押さえたところで、艦載機で後方から挟撃するのだ!」
 
 ノヴァルナに手玉に取られる形となった、カダールのイル・ワークラン艦隊は、艦列を乱してノヴァルナ艦隊に急接近して来た。

 だが前述した通り、クラゲ型をした『ウキノー星雲』の“触手”と“触手”の間には、反転重力子帯を含む暗黒物質が充満している。艦隊運動に制限が掛かる環境に、大艦隊がバラバラに殺到し、その暗黒物質内に踏み込んだイル・ワークラン側の宇宙艦は、艦尾の航行ノズルから交互にパルス放出している、重力子と反転重力子が、反転重力子帯と不規則な過剰反応を起こした。
 ノズルが連続発生させている重力子の黄色い光のリングが、激しく輝いたかと思えば、不意に消失し、その度に艦は制御を失って、まるで嵐に海に放り出された小舟のように、艦が大きく動揺する。

 そして完全に陣形が崩れた状態のまま、接近して来るイル・ワークラン艦隊が、ノヴァルナ率いるキオ・スー艦隊の格好の的になったのは言うまでもない。

「方位316プラス。敵艦隊に向け、砲戦はじめ!」

「全艦撃ち方はじめ!!」

「てぇーーーッ!!!!」

 ノヴァルナ麾下の各宇宙艦で個々に命令が飛び、青く輝く光の矢がイル・ワークラン艦隊に向けて無数に射掛けられる。不規則に広がる幾つもの閃光。同時に多数のブラスタービームを喰らった戦艦は、短時間でエネルギーシールドが過負荷状態になって外殻まで引き裂かれ、不運にも戦艦の主砲射撃の直撃を受けた駆逐艦は、一撃でエネルギーシールドごと爆散した。。イル・ワークラン艦隊も反撃するが、その射撃は著しく統制を欠く。

「馬鹿どもめ。何をやっている!」

 自分が出した早計過ぎる突撃命令の事など忘れて、カダールは総旗艦『キョクコウ』の艦橋内で怒声を上げた。戦艦などの大型艦には、複数の艦による統制射撃が有効なのだが、陣形が崩れていては不可能というものである。そのためイル・ワークラン艦隊の射撃で効果があるのは、ノヴァルナ側の軽巡航艦や駆逐艦程度。だがそれとて、損害こそ受けても撃破される艦は少ない。

「全艦、一時後退。陣形を立て直せ!」

 そう命令を発したのはカダールではなく、参謀長だった。状況の改善さえ一刻も早く行えば、戦力数の多い自分達にも充分勝機はあるとの判断である。

 だが主君であるカダールがそれを許さない。

「貴様。何を勝手に命じている。このまま踏みとどまれ!」

「しかし、それでは味方の損耗が―――」

「たわけ!」

 声を張り上げて続けるカダール。

「損耗などどうでもいい。ここで踏みとどまれば、BSI部隊が形勢を逆転する。数は俺達の方が多いのだ! その程度も分からんのか!!」




▶#09につづく
 
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