銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第21話:野心、矜持、覚悟…

#04

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 傍から見るとイチャつき始めた夫婦の光景。それを避けるかのようにカレンガミノ姉妹は、今度はいつもの銀河皇国公用語で、「では私達も、これで引き上げさせて頂きます」と告げ、ランにも目配せを送る。三人が退出すると、広いリビングにはノヴァルナとノア。そして…ネイミアだけになる。

 紅茶を淹れ終えたネイミアはティーポットをトレーに置くが、その顔は死人のように青ざめていた。一度、顔を上げノヴァルナとノアを振り向くネイミア。ノアに膝枕されたノヴァルナが、不敵な笑みで何かを言っている。その様子を確かめたネイミアは、ポケットから試験管状の容器を取り出し、震える手でその封を解いた。そして何度も逡巡を繰り返してからティーポットの蓋を開け、容器から薄緑色の液体を一滴…紅茶の中に落とす。


カチャカチャカチャ―――


 ノヴァルナとノアのもとへ向かうネイミアが持つトレーの上、ティーカップの触れ合う小刻みな音は、彼女の心模様そのものだった………




体を起こして警戒心もなくティーカップを口にするノヴァルナ―――


ノアはまだカップを手にしたまま―――


音声は無いが何かの言葉を交わすノヴァルナとノア―――


するとノヴァルナがカップを落として床に倒れる―――


驚いたノアはノヴァルナに身を寄せて何かを言う―――


しかし動かないノヴァルナ―――


誰か来て!―――


ノアの口がそう叫ぶ形になる―――


ドアが開いてカレンガミノ姉妹が飛び込んで来た―――


視界に銃を握る“自分の”右腕が現れてノアに銃口を向ける―――


間髪入れず双子姉妹のどちらかがこっちに向けて銃を構えた―――


そして発砲されたところで映像は途切れる―――




「どうやら上手くいったようですぞ。カルツェ様!」

 倉庫の中で映像を監視していたクラードは、上擦った声を上げた。呼び掛けられたカルツェは口を真一文字にして、映像の途切れたデータパッドを見詰めたままとなる。まだ信じられないといった気持ちと、とうとうやってしまったという気持ちが、カルツェの中でない交ぜとなっているのだろう。

「だが確認が必要だ」

 カルツェは冷静な口調で告げて、皇国貴族院情報調査部を名乗るバハーザに眼を遣る。軽く頷いて応じるバハーザ。

「あの女がノア姫様に銃を向けるとは、意外でした。撃たれたせいで、左眼に埋め込んでやった監視カメラが、使えなくなりましたからね。早速城内に潜ませた私の部下に、情報を収集させます」

 彼等の言葉は、拘束されたまま倉庫の片隅に放置されている、キノッサの聴覚にも届く。話の断片から状況を知って憔悴を極めたキノッサは、呻くように呟いた。

「ノヴァルナ様……ネイ!…」
 
 程なくしてバハーザの通信機へ、キオ・スー城内に複数いると思われるこの男の部下から、数分おきに連絡が入り始める。それらに応答したバハーザは取りまとめて、カルツェとクラードに報告した。

「ノヴァルナ様の生死は不明ですが、親衛隊の『ホロウシュ』に緊急呼集がかかったとの事。またノヴァルナ様の私室区画周辺は封鎖。続いて筆頭家老シウテ・サッド=リン様をはじめ、重臣方も急ぎ登城を始められたとの事です」

 それに対してクラードは咳き込むように尋ねる。

「典医は? 医師団などは!?」

 映像の中でノヴァルナは毒の入った紅茶を口にし、床に倒れていた。毒の効力を考えればほんの僅かの量でも、ノヴァルナは死んだはずである。だがそうであったとしても、また万が一命を取り留めたとしても、真っ先に医師が呼ばれるはずなのだ。しかしクラードの問いに、バハーザは軽く首を振って応じた。

「それはウォーダ家としても、最も秘匿すべき動きですので、今すぐ情報を得るのは難しいでしょう」

 クラードは「なるほど」と告げ、カルツェに向き直った。状況から推測すると、やはりノヴァルナは死んだと考えるのが筋であろう。

「カルツェ様」

 見識を同じくするカルツェは、クラードの呼びかけに頷いた。

「わかった。これよりキオ・スー城へ乗り込む。沖合の潜水艦にも連絡し、増援の陸戦隊と家臣団も城へ向かわせよ」

 ウォーダ家は惑星ラゴン防衛用の移動拠点として、潜水艦を何十隻か保有している。カルツェはそのうちの数隻に自分の支持派の家臣達と、スェルモル城陸戦隊の大半を乗せて、キオ・スー市の沖合に待機させていたのだ。「御意!」と応じて通信機を取り出すクラード。カルツェはさらに、いつもより幾分強い口調で陸戦隊の小隊長に命じた。

「装甲車を回せ。小隊を集めよ」

 今の戦国の世の星大名家では、正当な理由のもとで、継承権第一位の者が現当主を殺害または追放し、その座を奪う事は珍しい事ではない。そして現当主がそれを阻止できなかった瞬間、当主交代は成立してしまうのだ。
 もしそれで旧当主の家臣が新当主の妨害をするようなら、それはすでに謀叛人扱いとなる。カルツェがそれでも陸戦隊を同行させるのは、ノヴァルナの親衛隊『ホロウシュ』だけは、主君に殉じて抵抗する可能性が高いためである。

「潜水艦隊より“了解”の返答あり。キオ・スー城前にて合流の予定」

 クラードが、沖合の潜水艦隊からの報告を声高に告げ、カルツェは一見すると普段通りに見える、夜のキオ・スー城に眼を遣った………





▶#05につづく
 
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