銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第23話:フォルクェ=ザマの戦い 後編

#08

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 ダムルの素早さをティガカーツは感嘆したが、ダムルの方もティガカーツの機動に舌を巻いていた。今の飛び込んでの斬撃は自分でも納得のいく一撃だったのだ。スロットルを開き、距離を取りながらダムルは臍を噛んだ。

“あれを躱せるのか!?”

 そう思いながら振り向きざまにライフルを放つダムル。だが照準センサーがロックし続けていたはずの位置には、『カヅノーVC』の姿は無い。

「なにっ!!」

 次の瞬間、殺気を感じたダムルは操縦桿を咄嗟に倒した。直後にロックオン警報が鳴り、銃弾が飛来する。機体を直進させたままであったなら、一瞬後にはバックパックの対消滅反応炉に、直撃を喰らっていたはずだ。
 ロックオン警報より先に殺気を感じ取れるなど、BSHOとのサイバーリンク深度が、“トランサー”発動時並みのレベルに達していないと不可能である。事実、射撃を加えたティガカーツも、口調こそ緩いが、驚きの感情を表していた。

「うそ…外した」

 これはさすがに訓練とは違う…と思いながら、ティガカーツは機体を翻す。その左脇腹をギリギリで通り過ぎる、ダムルからの銃弾二つ。さらに吶喊とっかんして来る『タイゲイDC』自身。
 突き出される『カヅノーVC』の大型ポジトロンランスを、ポジトロンパイクで打ち払った『タイゲイDC』は、さらにそこから加速を掛けて斬りかかった。ここまでの一連の動きを見て、ティガカーツがポジトロンランスと、超電磁ライフルを組み合わせた戦い方を主流にしていると読んだダムルは、二段加速でライフルの射点を躱し、さらに速く間合いを詰めようとしたのだ。

 事実、『タイゲイDC』は『カヅノーVC』が至近距離で放ったライフル弾で、左大腿部を抉り取られたものの、斬撃の間合いに入り込む事に成功した。ところがその一瞬前、ティガカーツは自分も機体を加速前進していたのである。
 ガツン!…と大きな衝撃を受ける『カヅノーVC』のコクピット。しかしティガカーツのヘルメット内に、被弾警報のアラーム音は無い。『タイゲイDC』が振り抜いたはずのポジトロンパイクは、刃の根元の柄が、『カヅノーVC』の首を叩いただけであった。

「チィ!」

 反射的に腰のQブレードを抜いて、斬撃を放とうとするダムルの『タイゲイDC』。だがQブレードを握ったその右手は、ティガカーツの『カヅノーVC』が腰に抱えるように持っていた、超電磁ライフルの発砲によって破壊された。
 
「く! まだだ!!」

 ダムルは『タイゲイDC』に、破壊された右手ではなく、健在な左手にQブレードを逆手で握り直させようとする。

 しかしそれは焦りが生んだ判断ミスであった。

 おそらくノヴァルナであればまず、間髪入れず自分からも『カヅノーVC』に体当たりを喰らわせて間合いをリセットし、立て直しを図るであろう局面で、ダムルは小手先の技によって、勝ちを急いでしまったのだ。この判断ミス自体は、おそらく標準レベル…いや、かなり手練れのパイロットが相手であっても、ダムルの技量からすれば問題の無い誤差の範疇である。だがダムルに運が無かったのは相手がのちに、戦国最強と語り継がれるようになるパイロットだったという事だ。

 逆手に握った『タイゲイDC』のQブレードが、『カヅノーVC』のコクピットを掻き切るより僅かに早く、打撃武器でもある大型ポジトロンランス『ドラゴンスレイヤー』の太い柄が、『タイゲイDC』の機体を強打した。

「むぅあッ!!」

 激しい衝撃に包まれたコクピットで、ダムルは一瞬、操縦桿を手放してしまう。そしてそれが何を意味するか、次のダムルの言葉が全てであった。

「しまっ―――」

 言い終える前に、ティガカーツが瞬時に一回転させた『ドラゴンスレイヤー』の穂先が、制御を失って宇宙空間に浮遊した『タイゲイDC』の腹部を貫く。

「ごめん…」

 バックパックまで貫かれ、爆発を起こす『タイゲイDC』。その光を浴びながらティガカーツは、散って行ったダムルに頭を下げた。そして控えめながら『ドラゴンスレイヤー』を掲げて、全周波数帯通信で勝ち名乗りを上げる。茫洋なところがあっても、武人の血は父親譲りだ。

「ティガカーツ=ホーンダート。敵将ダムル=イーオを討ち取った!」



 BSI部隊総指揮官を敵との一騎打ちで失った、ナガン・ムーラン=ウォーダ軍に広がった動揺は、戦況そのものを大きく変化させた。まず第一に士気を低下させたのが、司令官でダムル=イーオの叔父だったシェルビム=ウォーダである。甥御のパイロットとしての才能と技量を信じ切って、艦隊編制も空母とBSI部隊を中核にした編制にしていたほどなのだ。

 旗艦の艦橋で膝から崩れ落ちたシェルビムが哀惜の叫びを上げる。

「おおおおお、ダムルぅうーーーー!!!!」

 そしていくさの場は非情でもある。イマーガラ家の“鉄の女”、シェイヤ=サヒナンがこの機を逃すはずがない。旗艦『スティルベート』の司令官席に座るサヒナンは、アイスブルーの瞳で戦術状況ホログラムを見据え、短く命令を発した。


「全面攻勢へ移れ」





▶#09につづく
 
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