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第24話:運命の星、掴む者
#10
しおりを挟む大挙して襲い掛かるイマーガラ軍BSI『トリュウ』と、ASGULの『ゼラ・ランダン』。その狙いはギィゲルトを追いかけ回している、ノヴァルナの首であるのは当然だ。
それを近寄らせないのが『ホロウシュ』隊の役目だが、さすがに数が多すぎる。ウォーダ軍の本陣突入部隊から出撃したBSI部隊総監の、カーナル・サンザー=フォレスタと一部のBSI部隊も辿り着いているが、それでもイマーガラ軍BSI部隊の数の前に、次第に押され始めていた。
「『ホロウシュ』達! 敵をノヴァルナ様に近付けるでないぞ!!」
人型に変形してポジトロンランスを構え、単調な動きで間合いを詰めて来る、イマーガラ軍の『ゼラ・ランダン』三機を、大型十文字ポジトロンランスを振り抜いた一撃で、まとめて両断するBSHO『レイメイFS』。そのコクピットに座るサンザーが言う。
それを聞いて、『ホロウシュ』達は“あんたに言われなくっても!”と、超電磁ライフルを、ポジトロンパイクを、クァンタムブレードを手に、それぞれが複数の敵機に単機で立ち向かう。
爆発を起こして手足がちぎれ飛ぶ量産型『トリュウ』。破孔から部品を撒き散らしながら、あらぬ方向へ漂い去っていくASGULの『ゼラ・ランダン』。そして斬り捨てられた武士のように、力無く崩れる親衛隊仕様機の『トリュウCB』。
無論、『ホロウシュ』も誰もが機体に、大なり小なりの損傷を受けている。肩や腰のセパレートアーマーを失った機体。何かしらの武器を失っている機体。外郭装甲の一部を失って、内部機構が剥き出しになっている機体。
しかしどのような損傷を受けていようと、『ホロウシュ』達は後退しない。歯を食いしばり、操縦桿をきつく握り締め、両眼を血走らせて、イマーガラ軍の機動兵器を食い止めている。
だがそう長くはもたない…それは、『センクウNX』を操るノヴァルナにも、充分に分かっていた。元はと言えば物量で敵わない故の、イマーガラ家本陣奇襲作戦なのだ。作戦自体は成功し、敵の総旗艦『ギョウビャウ』は行動不能となった。ところが肝心のギィゲルトはすでに、BSHO『サモンジSV』で外に出ており、これがまた、とてつもない機動性を持つ難物であったのだ。
ノヴァルナの『センクウNX』より二回りも巨大な機体でありながら、機動性は『センクウNX』以上で、間合いが全く詰められない。
“クソッ! ここまで来てジリ貧かよ!!”
唇を真一文字にしたノヴァルナは、打開策を導き出そうと、必死に思考を巡らせている。
所詮はここまでなのか…という打ちひしがれた思いと、絶対諦めねぇ!…という抗う心が、激しく交差を繰り返したその時、ノヴァルナの意識はまばゆく白い光に包まれた。白日夢…幻影…あるいはそれ以外の何かの中に、自分が立っている事をノヴァルナは自覚した。
その白い光の中に、ノヴァルナの見慣れた背中がある。かつての世話役であったセルシュ=ヒ・ラティオの背中だ………
「じ…爺!?」
ノヴァルナの呼びかける声に振り向いたセルシュの幻は、懐かしい顔に穏やかな微笑みを浮かべて口を開く。
「ご無沙汰しております、ノヴァルナ様。一段と凛々しく成られましたな。わたくしも嬉しゅうございます…」
「爺! 俺は…俺は、どうしたらいい!!??」
「………」
ノヴァルナの問いにセルシュの幻影は、穏やかな笑みを返すだけだ。口調を強くして、再び問うノヴァルナ。
「教えてくれ、爺!!」
「わたくしがお教えするような事はもうありません。そう思ったからこそ、殿下のもとを去らせて頂いたのです」
「噓を言うな!」
そう叫んだノヴァルナには四年前の、イマーガラ家宰相セッサーラ=タンゲンと相討ちになって、セルシュが命を落とした時の気持ちが蘇った。自分が未熟であったために、失ってはならないものを失った思い―――去ったのではない…自分が、死なせてしまったのだ。
「俺はまだ、何も成しえていない。爺に怒鳴られてばかりいた、あの頃のままだ。俺に足りないものを教えてくれ!」
訴えるノヴァルナにセルシュは、やれやれ…とばかりに枯れた表情をし、ゆっくりと説くように告げた。
「ならば一つ…今回の戦、殿下はよく策を練られました」
「………」
「ただもしわたくしがこの場にいたなら、足りないものが一つございましょうな」
「それは…なんだ?」
急き込むように尋ねるノヴァルナ。するとセルシュは微笑んだまま、その姿を光の中に霧散させ始める。
「爺!」
強く呼びかけるノヴァルナに、セルシュの幻影は消え去る瞬間、一つの言葉を残していった―――
「わたくしの怒鳴り声にございます―――」
その言葉を残響に、ノヴァルナは現実世界へ―――過酷な戦場へ引き戻された。ランの「ノヴァルナ様!!」という警告の声と、ヘルメットに響く被弾予測警報に、咄嗟に操縦桿を引いて回避運動を取ると、一瞬前まで『センクウNX』がいた位置へ銃弾が撃ち込まれる。上空からノヴァルナを狙撃しようとしていたその敵機は、即座に吶喊したランの『シデンSC』に斬り捨てられた。
その存在はこの世から失せても、セルシュとノヴァルナとの絆はかつてのままであった。以心伝心、懐かしき幻影が告げた言葉の意味を、ノヴァルナが理解するのに時間は必要ない。双眸が輝き、不敵な笑みが戻って来る。
“怒鳴り声!…そうか、そういう事か!”
『センクウNX』でギィゲルトの『サモンジSV』を追いながら、ノヴァルナは総旗艦『ヒテン』との通信回線を開いた。
「ノヴァルナだ。ナルガに繋げ!!」
叩きつけるような口調で命じると、艦隊指揮を執るナルガヒルデ=ニーワスが、即座に応答して来る。いつでも通話できるよう回線を確保していたのだろう。
「ニーワスならば、ここに」
「おう。早ぇな!」
不敵な笑みを大きくしたノヴァルナは、自分の周囲で戦っているサンザー隊や、『ホロウシュ』達にも聞こえるように回線を繋ぐと、驚くべき命令をナルガヒルデに発した。
「第1艦隊の全戦艦で、この小惑星を艦砲射撃しろ! 照準はここだ。俺ごとギィゲルトの機体を、吹っ飛ばすつもりでやれ!!!!」
「!?…」
さすがに普段冷静なナルガヒルデも、思いがけない命令に息を吞む。
「『ホロウシュ』や他の機体は離脱だ。巻き込まれるな!!」
「しかしノヴァルナ様!」
「心配すんな。艦砲射撃ぐれぇ、全部躱してやるぜ!! 撃て!!」
有無を言わせぬノヴァルナの口調に、ナルガヒルデは形のいい唇をキッ!…と引き締めた。そして「了解」と応じると、健在な第1艦隊所属の十隻の戦艦に、きっぱりとした口調で命じる。
「これより第1艦隊の戦艦戦隊は、小惑星デーン・ガークへ対する主砲射撃を行います。照準設定は我が総旗艦が統制。全戦艦は即座に、統制射撃準備を完了するように!」
ナルガヒルデの命令で、それぞれの戦艦が主砲塔を、デーン・ガークに向けて旋回させた。ノヴァルナがセルシュの幻影を通して気付いた事…生前のセルシュが怒鳴り声を上げる時。それはノヴァルナが、非常識な行動を取った時。つまり戦いにおいては、向こう見ずな戦い方をした時だ。
「各戦艦より“主砲統制射撃準備よろし”」
オペレーターの報告にナルガヒルデは発砲を命じる。
「撃ち方はじめ!」
次の瞬間、小惑星デーン・ガーク周辺に展開していた十隻の戦艦が、ノヴァルナとギィゲルトの戦闘地点へ向け、傲然と主砲を放つ。高速ホバリング移動をしている『サモンジSV』だけでなく、それを追う『センクウNX』の周りにも、黄緑色に染められた無数のビームが降り注いだ。
▶#11につづく
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