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第14話:天下御免のアイラブユー

#04

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 ノヴァルナの『センクウNX』が通常より重装備なのは、この時のためであった。敵艦隊突破のBSHOによる単騎駆け。古来、戦場の華とされてきた武者働きの再現だ。

 『センクウNX』のコクピット内で、メインホログラムスクリーンを取り囲むように、小さなスクリーンが幾つも浮かび上がり、敵艦隊やBSI部隊の展開状況を映し出す。
 カールセンの『デラルガート』とのデータリンクで、アッシナ家本陣左翼の指揮を執るスルーガ=バルシャーの旗艦『ヴァルヴァレナ』をロックしたノヴァルナは、ホログラムパネルのキーを四つ五つ指先で叩く動作をすると同時に、スロットルを全開にする。『センクウNX』の対消滅反応炉を内蔵したバックパックに、黄色い光の重力子リングが大きく輝き、全周囲モニターに広がる星の海が一気に流れ出した。

 速度を上げる『センクウNX』のバックパックに設置されている、バインド式ウエポンラックが両側に翼のように伸び出して、超電磁ライフル2丁、ポジトロンパイク2本、ポジトロンランス2本、クァンタムブレード2本と対艦誘導弾ランチャー2基の重装備の全てが、いつでも使えるようになる。

 急速接近する『センクウNX』はアッシナ家本陣左翼でも捕捉していた。ギコウより、ダンティス軍別動隊の撃破を命じられていたから当然だ。

「後衛部隊より敵接近の報告…BSHOクラスのようです。さらにその後方に敵別動隊」

 オペレーターの報告が、スルーガ=バルシャーの座乗する左翼部隊旗艦『ヴァルヴァレナ』に届き、バルシャーの傍らにいる参謀が「BSI部隊か?…数は?」と問い質す。ややあって返答があった。

「BSHOが一機のみ。後続のBSI部隊はないようです」

 それを聞いたバルシャーは、歯牙にもかけぬ様子で言い捨てる。

「どこぞの名のある武将が乗っているのか知らんが、単騎駆けを気取る愚か者など、別動隊ごとひねり潰すがよい」

 そしてバルシャーは表情を引き締めて続けた。

「それよりもマーシャルの本隊を叩く事が優先だ。早く部隊を立て直せ!」

 確かに客観的に見てバルシャーの言う通りである。ダンティス軍を示す家紋が突如、関白家の『流星揚羽蝶』に切り替わった事による動揺は、左翼部隊にも広がっており、前衛部隊に被害が続出している状態だった。

 バルシャーの指示で左翼部隊の各艦からBSI部隊が出撃して、ノヴァルナの『センクウNX』と、その後方にいるカールセンの第36宙雷戦隊へ向かって行く。そうしておいて左翼部隊の各艦艇は、前方で激しく攻め立てて来るダンティス軍本隊に対しての砲撃に専念した。

 だがここでも結果論として、バルシャーの判断は誤っていたと言わざるを得ない。高性能のBSHOとはいえ、たかが一機…討ち取ってこの戦(いくさ)の功名を足しにしようと、安易な考えで迎撃に向かったアッシナ軍BSI『ヤヨイ』13機とASGUL『アールゼム』24機では、ノアを助けるために火の玉小僧となったノヴァルナと、その乗機『センクウNX』の進撃を阻止する事など、出来るはずもなかったのだ。

「全機、敵機が表示している家紋に惑わされるな。我等を混乱させようという罠だ」

 アッシナ家本陣左翼のBSI部隊長、ジンツァー=ハーマスは親衛隊仕様機の『ヤヨイSC』に搭乗し、配下のBSI部隊に指示を出す。実のところ個人的には、敵機が本当にウォーダ家のBSHOである可能性も否定できないのだが、司令部がそう言っているのであれば従うしかない。

 だがハーマスの部下の中には、動揺させまいとした上官の言葉を過度に信じ込み、相手を“関白家を騙る卑怯者”と侮る者もいた。『センクウNX』に最も接近していた、アッシナ家のBSI『ヤヨイ』のパイロットが、向かって来る『センクウNX』の機影に正面から立ち塞がり、油断しきった声で罵り声を上げる。

「バカめ! 単騎駆けなどと、俺のポジトロンパイクの錆にして―――」

 無論そのような隙など、本気のノヴァルナの前では見せてはならない。

「どけ!」

 短い言葉と共に、超電磁ライフルのトリガーを引くノヴァルナ。超高速の弾丸に『ヤヨイ』の頭部が破壊され、緊張感に欠けていたパイロットの表情が強張った次の瞬間、すれ違いざまに繰り出された『センクウNX』のポジトロンパイクが、腹部を斬り裂いた。

「なに! おのれ!!」

 破壊された機体に距離を置いて後続していた2機の僚機が急停止し、『センクウNX』に向けてライフルを撃つ。しかしノヴァルナは素早く機体をスクロールさせ、その銃撃の悉くを回避すると、2機の周りを螺旋状に航過しながら弾丸を撃ち込んだ。爆発の閃光が一つ、二つと輝く。

 3機の『ヤヨイ』を瞬時に屠った『センクウNX』は、さらに加速し、アッシナ家のBSI部隊の中に突入する。10機に減ったBSI部隊は一斉にライフルを放つが、『センクウNX』は上下左右に目まぐるしく機動して、無傷で駆け抜けていく。

「奴め、俺達を無視する気か!!」

「ふざけた真似を!」

 アッシナ家のパイロット達の間に怒声が起こり、それを部隊長のジンツァー=ハーマスからの命令が遮った。

「最後尾のASGUL隊で奴の針路を塞げ。立ち止まったところを、BSI部隊で後方から狙撃して仕留める。急げ!」

 ハーマスの命令に従い、BSIの後をついて来ていた24機のASGULが、一斉に人型に変形して、『センクウNX』の針路上に12機ずつで二重の盾のように、密集隊形を組んだ。
 だがやはり本気のノヴァルナの前に、正面から立ち塞がるのは得策ではない。バックパックのバインド式ウエポンラックで武器を持ち変え、両手にそれぞれ超電磁ライフルを握ると、複雑な飛行軌道を描きつつ二丁拳銃のガンマン宜しく、ライフルを連射した。

 グシャグシャグシャと、『センクウNX』の銃撃を喰らった『アールゼム』が何機も呆気なく破壊される。『アールゼム』も右腕の固定式ビーム砲を放つが、『センクウNX』を止められはしない。

「うわわわわ!」

「な、なんだこいつは!!??」

 ASGULのパイロット達はおそらく、BSHOを相手にするのは初めてなのだろう。通常のBSIとは次元の違う機動性と照準の正確さに、恐怖を覚えたようであった。

「どけ、ってるだろが!!」とノヴァルナ。

 距離を素早く詰めて来た『センクウNX』に、ASGUL達は射撃で討ち取るのは諦め、ポジトロンランスを構えて間合いを計り、一斉に突き出した。ところがノヴァルナはその刹那、陽電子の槍の穂先が届く位置の寸前で『センクウNX』を急停止させる。
 そしてそこからまるで、宇宙空間でダンスでもするように機体を二回、三回と回転させて左横へ回避行動を取った。ただそれはASGULの槍をかわすためではない。後方から追跡しつつ、ノヴァルナを狙撃しようとしていたBSI部隊に対する、回避行動だったのだ。
 急停止時に『センクウNX』がいた位置に、BSI部隊から銃弾が撃ち込まれ、代わりにその先にいた『アールゼム』が同士討ちで6機も四散した。



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