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第9話:動乱の宙域

#08

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 レジスタンス達の脱出をオーガー一味が知ったのは、地下通路の抜け道を怪しんだレブゼブの指示で、通路内に地質調査用のスキャナーが持ち込まれ、通路を一本ずつ、およそ二時間ほどもスキャンした結果、町の外れの崖下に位置する、アル・ミスリルの廃鉱に通じた、非公式の通路が発見された事による。
 だが消費したのはスキャンに要した二時間だけでなく、その地質調査スキャナーを準備するだけでも二時間近くかかっていた。
 さらに抜け道の発見後に急いで廃鉱へ向かいはしたものの、そこを捜索し、積雪に残る複数の足跡が谷底の川岸に向かって伸びて、それが古びた桟橋の先で途絶え、係留されている鉱石運搬船の並び方が不自然な事から、船で川を下ったらしいと推測するのに、一時間ほども費やしたのである。


 峡谷の斜面を、巨大なムカデの姿をした機動城『センティピダス』が、無数の脚をうごめかせながら進んで行く。辺りはすでに夜も同然で、稜線によって切り取られたように見える濃紺の空には、早くも星が瞬きはじめていた。
 貴重な時間を五時間以上も浪費したとあって、指令室で前面スクリーンを睨むオークー=オーガーにも、さすがに余裕の表情はない。傍らに立つレブゼブの方はすでに、神経性胃炎でも発症したような顔をしている。

 彼等が向かっているのは、川下にある彼等の麻薬工場の一つであった。船で川を下ったのであれば、途中の雪と氷しかない場所に上陸するはずはないからだ。
 とは言え『センティピダス』の出せる速度は、それほど速くはない。今出している速度も時速三十キロ余りだった。その不気味な容姿の巨体と、あらゆる地形を移動できる機能で、支配下の住民達を威圧する事に主眼を置いたもので、肩書きのような“機動戦”を展開するためのものではないのだ。

 オークー=オーガーは右手に握る六角の黒い金属棍を、しきりに振っては左の手の平で受け止めながら、忌々しそうに声を上げた。

「クソッ! まだ着かねえのか!!」

 その怒声に、操縦席の背もたれに腕を置き前方を覗いていた、ピーグル星人の幹部の一人が、引き攣った笑顔で振り返って応じる。

「あ、あと一時間も掛からねえと思いま…」

「バカ野郎! 何が“一時間も”だ! もっとスピードを上げろ!!」

「しかしこの斜面でこれ以上速度を出すと、重力制御で抑えてる雪崩が起きてしまいやすので」

 たじろぐ幹部に、別の幹部が言葉を添える。

「そ、それに、先行させた“大蜘蛛”がもう工場についてやす。そろそろ連絡があっていい頃合いかと―――」

 するとその言葉にタイミングを合わせたかのように、通信機が着信を告げた。振り向いたオーガーの睨み付けるような視線を感じ、通信担当のヒト種の手下が慌てて回線を開く。

「こっ!…こちら『センティピダス』。ど、どうぞ」

 ヘッドセットを通じて通話を始めたその手下だが、みるみるうちに表情が強張って、不審な挙動を見せだした。その変化に気付いたオーガーは通信席に大股で歩み寄り、「どうしたッ!?」と大声で詰問する。手下は挙動不審な態度そのままに口ごもった。

「そ、それが…」

「なんだッ!」

「麻薬工場で、十人以上の味方の死体と、ほぼ同数の重傷者を発見したそうです! いずれも銃撃を受けた痕があり、無事な連中は全員、管理棟の部屋に閉じ込められてたと…」

「なぁにぃ!!!!」

 本物の猪ばりに突進しそうなオーガーの勢いに、通信担当の手下は震え上がる。

「レジスタンス共に違いねぇ!! それで奴等は!!??」

「トっ!…トラックを奪って逃げたそうです!」

「いつだ!?」

「二時間ほどま―――」

 だが手下はその言葉を最後まで言い終える事が出来なかった。激高したオーガーが八つ当たりに、その手下をぶん殴ったからである。理不尽な制裁を受けた手下は、通信席からもんどりうって転げ落ちた。

「落ち着け、オーガー! 意味のない事をするな!」

 レブゼブが強い口調で諫めると、オーガーは鼻息荒く振り返る。

「奴等がトラックを奪ったのなら、行き先は間違いなく宇宙港だ。この位置なら『センティピダス』でまだ間に合う。まずは再度宇宙港に連絡を入れるのだ」

 ホログラムの地図を広げたレブゼブの指示で我に返ったオーガーは、宇宙港に連絡を取らせようと通信席に顔を向けた。しかし肝心の通信担当の手下は、自分がぶん殴って床の上にのびている。そこでオーガーは操縦席の後ろにいたピーグル星人の幹部に、通信席を指差して命じた。

「おまえ。代わりに座れ!」

 命令された幹部は両肩を跳ねさせて、床で失神している手下に目を遣り、冷や汗を浮かべながら壊れたロボットのようにぎこちなく通信席へ着く。やがてムカデ型の機動城は機械音を響かせながら、向きを変えていった………



▶#09につづく
 
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