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第一章
私たちの今は停滞か衰退かわからない。#01
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彼女の吐き出した紫煙が雲一つなく、けれど星が両手で数えられるほど少ない夜空へと吸い込まれていく。
一月の夜、しかもビルの三階で屋外の喫煙所は、風が吹けば思わず身体が震えてしまうほどかなり冷え込んでいた。
まるで今にも空が泣き出しそうなほど曇っていれば雪が降り出しそうな寒さだ。
寒さだけを切り取れば都心にいることを忘れてしまいそうになる。
それから目を逸らすようにフェンスの下へと視線を向ければ、ここが都心のビル群の一角ということもあり、片側何車線もある道路には大量の車が行き交い、街にはネオンやら街灯やらがキラキラと眩しく輝き騒々しい。 歩道を歩く人々は寒さのためか厚着をして足早に通り過ぎていく。
町中が明るい都心ということもあって、見上げる夜空には両手で数えられるほどの星しか見当たらない。
本当は見えないだけで満天の星空がそこに存在している――という話をどこかで聞いたことがあるのだが、とてもその話を信じられない。
そんな都心の星空は今の私たちの置かれた現状のようだった。
「――最近どうなの、カラカナ」
先ほど紫煙を吐き出した彼女が思い出したようにそう問いかけてくる。
「急にどうって言われても、な……」
アバウトな質問に何を答えればいいのかというよりも、特に話すようなエピソードがなくて困る。
確かに彼女――リーダーと会うのは久々のような気がするけれど、仕事で顔を会わせなかった一週間だか一ヶ月の間、いつも通りの何一つとして変わらない時間が流れていた。
これといって事件もなく、平穏そのものとも言えないけれどそれなりの生活。
他人からすれば面白くもなんともない声優アイドル、甘楽歌南の日常は――。
「……強いて言うなら毎日酒が美味くて困るな」
「あなた、ね……。一応清純派のアイドルなんだからそういう返答はアウトでしょ……」
リーダーである豊栄十海は呆れながら紫煙を吐き出した。
彼女からはタバコの独特の香りよりも甘い香りが漂ってくる。
この香りを嗅ぐとリーダーを思い出すので豊栄十海の代名詞と言っても過言ではない。
「というか、私の酒よりもリーダーのそれも清純派のアイドルらしからぬものなんじゃないの。イメージ的にはアウトなのでは?」
「私だって四六時中吸ってないわよ。もちろんファンと会うイベントなんかは控えているし、テレビ出演だったり、レコーディングやレッスンがある日は吸ってないわ」
そう口にしつつ、彼女は携帯灰皿に吸い殻を捨て、スンスンと服の袖に鼻をあてて香りを確かめる。
タバコの匂いとはかなり厄介で、焼き肉なんかと同等かそれ以上に匂い移りがしやすい。
それが故なのか彼女は、いつもタバコを吸い終えると服に匂いが移っていないか確認しているのをよく目にする。
「そんなに気になるなら禁煙したらどうなん。禁煙すればお金も浮くし健康にもいいんじゃないの」
「……そう簡単に禁煙出来たら苦労しないわ。それに吸わないと創作活動がまったく捗らなくて仕事にならないのよ」
「さいですか。印税がっぽりの作家先生はさぞかし大変でしょうね」
豊栄十海は声優アイドルだけではなく、小説や脚本、作詞作曲まで手がけるクリエイターな一面もある。
というかもはやアイドルよりもそちらの方が本業になりつつあるらしい。
グループの最新曲の作詞作曲もやっていたし、そのうち完全にそっち方面へとシフトするつもりなのかもしれない。
「まあ、大変と言えば大変だけどとてもやりがいのある仕事だし、やっていて楽しいからまったく苦ではないわ。これからも声優アイドルも創作活動も二刀流で続けるつもりよ」
「今の皮肉のつもりだったんだけどな……」
真面目に返されてしまってはどうしようもない。
逆にこっちが申し訳なく思ってくるので困ったものだ。
一月の夜、しかもビルの三階で屋外の喫煙所は、風が吹けば思わず身体が震えてしまうほどかなり冷え込んでいた。
まるで今にも空が泣き出しそうなほど曇っていれば雪が降り出しそうな寒さだ。
寒さだけを切り取れば都心にいることを忘れてしまいそうになる。
それから目を逸らすようにフェンスの下へと視線を向ければ、ここが都心のビル群の一角ということもあり、片側何車線もある道路には大量の車が行き交い、街にはネオンやら街灯やらがキラキラと眩しく輝き騒々しい。 歩道を歩く人々は寒さのためか厚着をして足早に通り過ぎていく。
町中が明るい都心ということもあって、見上げる夜空には両手で数えられるほどの星しか見当たらない。
本当は見えないだけで満天の星空がそこに存在している――という話をどこかで聞いたことがあるのだが、とてもその話を信じられない。
そんな都心の星空は今の私たちの置かれた現状のようだった。
「――最近どうなの、カラカナ」
先ほど紫煙を吐き出した彼女が思い出したようにそう問いかけてくる。
「急にどうって言われても、な……」
アバウトな質問に何を答えればいいのかというよりも、特に話すようなエピソードがなくて困る。
確かに彼女――リーダーと会うのは久々のような気がするけれど、仕事で顔を会わせなかった一週間だか一ヶ月の間、いつも通りの何一つとして変わらない時間が流れていた。
これといって事件もなく、平穏そのものとも言えないけれどそれなりの生活。
他人からすれば面白くもなんともない声優アイドル、甘楽歌南の日常は――。
「……強いて言うなら毎日酒が美味くて困るな」
「あなた、ね……。一応清純派のアイドルなんだからそういう返答はアウトでしょ……」
リーダーである豊栄十海は呆れながら紫煙を吐き出した。
彼女からはタバコの独特の香りよりも甘い香りが漂ってくる。
この香りを嗅ぐとリーダーを思い出すので豊栄十海の代名詞と言っても過言ではない。
「というか、私の酒よりもリーダーのそれも清純派のアイドルらしからぬものなんじゃないの。イメージ的にはアウトなのでは?」
「私だって四六時中吸ってないわよ。もちろんファンと会うイベントなんかは控えているし、テレビ出演だったり、レコーディングやレッスンがある日は吸ってないわ」
そう口にしつつ、彼女は携帯灰皿に吸い殻を捨て、スンスンと服の袖に鼻をあてて香りを確かめる。
タバコの匂いとはかなり厄介で、焼き肉なんかと同等かそれ以上に匂い移りがしやすい。
それが故なのか彼女は、いつもタバコを吸い終えると服に匂いが移っていないか確認しているのをよく目にする。
「そんなに気になるなら禁煙したらどうなん。禁煙すればお金も浮くし健康にもいいんじゃないの」
「……そう簡単に禁煙出来たら苦労しないわ。それに吸わないと創作活動がまったく捗らなくて仕事にならないのよ」
「さいですか。印税がっぽりの作家先生はさぞかし大変でしょうね」
豊栄十海は声優アイドルだけではなく、小説や脚本、作詞作曲まで手がけるクリエイターな一面もある。
というかもはやアイドルよりもそちらの方が本業になりつつあるらしい。
グループの最新曲の作詞作曲もやっていたし、そのうち完全にそっち方面へとシフトするつもりなのかもしれない。
「まあ、大変と言えば大変だけどとてもやりがいのある仕事だし、やっていて楽しいからまったく苦ではないわ。これからも声優アイドルも創作活動も二刀流で続けるつもりよ」
「今の皮肉のつもりだったんだけどな……」
真面目に返されてしまってはどうしようもない。
逆にこっちが申し訳なく思ってくるので困ったものだ。
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