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第一章

私たちの今は停滞か衰退かわからない。#04

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「もし事実なら相当ヤバいよな……。一大スキャンダルだし、どっちも終わるじゃん色々」

「それもそうね……。祝福ムード――には間違いなくならないでしょうし……」

 何がヤバいってその芸人は世間には非公表なのだが結婚して子供もいるらしいのだ。
 番組で知り合ったアイドルに手を出して妊娠させた――それだけでも破壊力抜群なのに、不倫の二文字が付け足されたら双方とも無傷ではとても済まない。

「冠番組は終了でグループは解散――最悪なシナリオだけは避けたいわね……」

「……まあ、リーダーはたとえそうなっても作家として食っていけるだろうけど、私なんか何にもないから冗談抜きでヤバいんだが……」

「そんなこと――ない、わよ……」

 お世辞でも否定するリーダーの語尾が次第に弱まっていく。
 少なからず私がこの業界で生き残っていけるとは思っていないのだろう。


 ――千年に一人の美少女とかでもないし、歌がめちゃくちゃ上手いわけでもない。


 ――演技がずば抜けているわけでもないし、ダンスがめちゃくちゃ上手いわけでもない。


 ――声が良くてトーク力があるわけでもないし、面白いネタとか一発芸があるわけでもない。


 どれを取っても平均的で、そこそこ可愛いことを除けばずば抜けているものはない。
 それが私――甘楽歌南なのだ。
 だからリーダーの語尾が弱まるのは至極まっとうで。
 確かにその通りだと思うし、私も芸能界をとても生き残れるとは思っていないし、なんなら引退することに対して特に未練とか執着は無い。
 ただ、中途半端に顔が知られているので再就職が難しいのは間違いないだろう。

「……転職、転職、次の仕事はどうしようかしらん……」

「……カラカナ、あなた、ね……」

 死んだ目をしながらスマホでぽちぽち転職サイトを眺めていると、リーダーが呆れたように嘆息した。

「そこまで来ると前向きなのか後ろ向きなのかわからないわね……」

「誰か大富豪が私を養ってくれないかしらん……」

 そう呟きつつ私は嘆息する。
 グループのスキャンダルで職を失うことを恐れ、転職サイトを眺めるアイドルなんて輝かしいアイドルのイメージにそぐわない。
 けれど、いつだってそのリスクは潜んでいるのだ。
 言わば時限爆弾が起動するようなもの。
 だから、手遅れになる前に次の手を考える。
 アイドル活動で得てきたことを生かせる職業なんて限られている。
 これならまだコンビニとか飲食店でバイトしていた方が様々なことが生かせただろう。
 歌って踊って演じて――それが一般企業で役立つとは思えないしゼロどころかマイナスからのスタートだ。
 私に出来ることは限られていて、未来は決して明るいとは言えない。
 今はただ最悪なシナリオが実現しないよう祈りつつ、吐き出した白い息が夜空に吸い込まれるのを眺めているだけだった。
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