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第一章

オーディションとトラブルの関係性はわからない。#02

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☆☆☆


 私がこのオーディションに応募したのはほんの軽い気持ちからだった。
 高校二年の時に配られた進路調査票。
 それを見て将来のことを考えたとき、未来は何も見えなかった。
 そんな時に見かけた声優アイドル募集の公告。
 選ばれる訳がないと思いつつも、なんとなく応募してみたら、一次審査どころか最終審査まで残ってしまい、ヤバいどうしよう引退後に玉の輿狙えて将来安泰人生勝ち組だなとめちゃくちゃ浮かれていた。
 それは最終審査の会場へと向かう西武線と地下鉄の車内でもニヤニヤ気持ち悪い笑みを浮かべるほどで、マジで通報されなくて良かったと思う。
 ともあれ会場であるビルに入るとさすがに緊張してきてあまり記憶が無い。
 気がつくと控え室の椅子に座って項垂れていた。
 鞄からスマホを取り出し、画面を見つめても気分が晴れずまた鞄へと戻す。
 今は何もしたくない気分だった。

「――なあ、なあ、あんたおもろいな!」

 突然、背中を叩かれ隣に誰かが座ってきた。
 は? みたいな表情を浮かべそちらへ視線を向ける。

「……いや、メイド服着てここにいる人に言われたくないんですが」

「ああ? これはキャラ付けやねん。別に笑いを取ろうと着てるわけないんよ。審査員に覚えてもらわな合格せんやろ?」

「いや、だけどメイド服ってどうなんですか……。むしろ服装のインパクトが強すぎて逆効果では……」

「なんや、うちのことばっか言うけどあんただってそうやろ。あんな大胆にパンモロしてコスプレの効果引き出しすぎやん。マジで反則級におもろいわ」

「いや、コスプレじゃないし現役なんですが……」

 メイド服を着た奴が何言ってるんだよと思いつつ、腰に手を当てるとその事実に顔が青ざめていく。
 私の制服はスカートが仕事をしていなかった。
 前は通常営業で平気なのに、後部ではパンツの中にスカートが入っている状態で、今までなぜ気付かなかったのか……。

「あんた、現役JKであること利用して枕でアイドルなれても、週刊誌にすっぱ抜かれて秒で終わりや。やるなとは言わんけど、そういう行為はもうちょっと考えてからの方がええで」

 メイド服が諭すようにトントンと肩を叩いてくる。

「……そういうつもりじゃ」

「わかる、あんたの気持ちもよーくわかる。生活が苦しいからそういうことで生計を立てざるを得ないんやろ。うちも実家が貧乏やったから金がどうしても必要なのはわかるんよ」

「…………」

 でもな、と付け加える。

「――もっと自分の身体は大事にせなあかんよ? なんかあってからじゃ遅いんやから」

「…………」

 あとな、と更に付け加え。

「そういう行為する時はきちんとゴム付けて避妊するんやで。生でなんかやったら絶対あかん。いらん病気貰ったり、そういうつもりじゃないのにデキちゃうこともあるわけやし」

「…………」

 ……ここ、声優アイドルのオーディション会場であってるんだよね?
 メイド服にジト目を向けつつ、そんなことを考えていると控え室の扉が開きスタッフが姿を現した。

「――エントリー番号、5番の方。奥へどうぞ」

「……あ、はーい」


 ――いよいよ、私の最終審査が始まるようだ。

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