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第一章

なぜか自分の名前の読み仮名がわからない。#02

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☆☆☆


 高峰と廊下を歩き先ほどの部屋の前へと戻ってくる。
 ドアノブに手を伸ばすと高峰が何かを思い出したのか「せや」と呟いた。

「今いるメンバーはうちらを含めて五人や。うちとカラちゃんとあと三人なんやけど……」

 そこまで口にしてから彼女は私にそっと耳打ちしてきた。

「――一人はえらいごっつい美少女がおるから色々気をつけた方がええで。あの娘とうちらは互角やない、それどころか同じ土俵ですらないんや。住んでいる世界が違う、それくらいのつもりで接した方が自分の心が壊れずに済むと思うで」

「……ご忠告ありがとうな」

 私は深呼吸をして覚悟を決める。
 そして、まだ見ぬメンバーが待ち受ける室内へと足を踏み入れた。
 ドアがゆっくりと開き室内を見渡すと、既に三人のメンバーが待っていた。
 その三人はチラリと一瞬私たちの方へと視線を向けたが、すぐにスマホやら書類へと視線を戻す。

「……おはようございます」

「おはようございます」

「お、おはよう、ございます……」

「……お疲れ様」

 挨拶をすると三者三葉の返事が返ってくる。
 一人は『豊栄十海』と書かれたネームプレートの前に座った女性だ。
 スマホをいじっているのに、背筋がピンと伸びていて全体的に凜とした印象を受ける。
 一応高校生っぽい制服姿なのだが、大人びた見た目も相まって、年齢と合致しない服装が不釣り合いに見える。
 これならリクルートスーツでも着ていた方がまだましだろう。
 二人目は『由比湯花』と書かれたネームプレートの前に座った少女だ。
 こちらは先ほどの女性と対照的に幼い印象だ。
 少女のあどけなさを残した顔には黒縁の丸い眼鏡があり、年相応か少し背伸びしたようにも思える制服に上から白衣を羽織っている。
 身長も同年代の平均より低いのか小学校高学年でも通じそうだ。
 三人目は『美浜ミミ』と書かれたネームプレートの前に座った美少女だ。
 彼女は存在というかオーラというか全てが私たちと違って見える。
 圧倒的な美しさは見る物全てを釘付けにしそうな勢いがあり、数秒以上直視することが困難なレベル。
 ここに来て、ようやく高峰が言っていた意味がわかったかもしれない。


 ――彼女とは住んでいる世界が違うのだ、と。


 けれど、これからは彼女も私たちと同じ一人の声優アイドルとして活動していくはずだ。
 今後は私と高峰を含めて、玉石混淆なメンバーが集まったグループはこの五人で活動をしていくことになるのだろう。
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