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第一章

何があったとしてもいつかは朝がやってくる。#05

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☆☆☆


「――このリストバンドにはそんな理由があったのね」

「……え、今まで知らなかったの」

 空色の色褪せたリストバンドを眺めつつ、リーダーがそんなことを口にした。

「今までなんとなく付けてたけどそう思うと感慨深いわね。今まで質問みたいなので聞かれたことも無かったわけだしファンの人たちも納得したんじゃないかしら」

「確かにそうだな。てか、裏の理由をファンの人が知ってたら、私のリストカット歴があるってバレてると同義だからマジでヤバいんだが……。まあ、ネットニュースとかになったり炎上してないから平気だろけど……」

「カラカナのセーフだと感じている基準ってなんか変わってるよね」

「まあ、お陰様で今は傷も残らず綺麗になってるのであしからず。残念だったな、諸君!」

「一体どこに向かって勝ち誇ってるのかしら……。というか、二人で温泉に入った時、美浜さんの一糸纏わぬ姿を見て鼻血出して、駆け寄った美浜さんの胸をいやらしく揉んだって――」

「あー! あー! 聞こえない、聞こえないなー!!!」

「あなたって最低ね……」

「ラジオだから視聴者の皆様には伝わらないけど、リーダーが超蔑むような視線を向けてきてるんだが……。ヤバい、なんか興奮してきた!」

 リーダーが更に冷たい視線を向けてくるのはきっと気のせい。
 ともあれ、過去の思い出話を振り返り、改めて明日ハレというグループがあるからこそ今の私があるのだと感じた。
 豊栄十海、高峰立、美浜ミミ、由比湯花、森小路桃葉、花見川英、そして甘楽歌南。
 この七人が揃って明日ハレなのだと実感が出来る。
 けれど、美浜と花見川は明日ハレを去り、高峰と森小路は休業中だ。
 そんな状況で未来は決して明るいとは言えない。
 否、無意識に未来という可能性から目を逸らしてだけなのかもしれない。
 現実逃避をして輝く過去を眺める。
 輝く過去を眺めているうちは未来から目を背けられる。
 けれど、今へと舞い戻ると嫌でも向き合わなければならない。
 未来は未だ見えない――それだけは確かだった。

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