情弱

ぽやしみ仙人

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後編

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『正直何を訴えようが、何を信じてどんな思想を持っていても自由だ。けどな、間違った情報の拡散だけは許さん。誤った情報が拡散されることによって人の命が失われることだってある』

『それなんだよな。というか、知事が来るなって言っているのに、現地に出向く偽善は馬鹿なんか? お前らの貧相な物資を運ぶ愚かな行いが、大規模な支援物資を送る邪魔にしかならんってなんでわからんのかね。あと、現地視察だとか抜かして邪魔にしかしねえ議員。こんなのが国会議員とか世も末だろ』

『一つ良いことを教えてやろう。――馬鹿に何を言ったところで馬鹿はそもそも話を聞いていない』

『ああ、そういえばそうだったわ……』

『というか、日本人って地理激弱すぎんか。能登と金沢なんて同じ県とはいえ地図見りゃ結構離れているってなんでわからんの』

『そりゃ自分たちに関係がないからだろ。関東――というか東京を一歩も出ずに生活が完結するわけだし、地理を知らないところで不都合はない。それに分からなければスマホでパパッと調べれば事が済む便利な時代なのも関係しているだろうな』

『便利なところに住んでいると、修学旅行以外で県外に行く機会も無いってよく聞く話だしな』

『そういう引きこもりのために修学旅行ってのが存在しているんだろ。自分の住んでいる都道府県以外にこんなところがあるって自分の目で見させるのが最適だしな』

『百聞は一見に如かずってやつか』

『お前、カラスなのによく人間の慣用句を知っているよな』

『近所のガキが最近こればっかり言っててよ』

『なるほどな、そういうことか』

『ともかく』

 そう鳴きつつ、カラスがゴミ袋を突いて中身を起用に嘴で取り出す。

『ここの住民共も馬鹿だよな。俺達が毎朝こうやって餌を漁っていても追い出すだけで他の対策を一切しない』

『人間が馬鹿なお陰で俺達は今日も飯にありつけると。ほんと、人間様々だな』

『ば、馬鹿お前! それは食い物じゃねえ!』

 一羽のカラスが鋭く鳴くが時既に遅し。
 もう一羽のカラスがゴミ袋を加え、それを飲み込んでしまった。
 翼をバサバサ慌ただしく羽ばたかせるが事態の解決には至らない。
 やがて、周囲が騒がしくなったからか近所の住人が箒を片手にカラスを追い払う。
 こうして何でも無い毎日が繰り返されていく。




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