答えは聖書の中に

藤野 あずさ

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変化の時代1936

プロローグ

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1944年6月6日Dデイ サウサンプトン
早朝の気持ちいい陸風が、整列した大隊各員の間をすり抜ける。季節はすでに初夏だが、朝はまだ肌寒く、海はとても冷たい。
等間隔に並んだ彼らは、これから何が起こるのか、という好奇心と、どこかでそれが分かっている緊張感を抱えて自分に注目している。
「傾注!」
中隊長の合図で、姿勢を正し、波の音だけが聞こえる軍港の中、僕は壇上に立つ。長い沈黙の中、隊員たちの緊張度は上がり続け、心拍数は上がり、極度の興奮状態となる。彼らの信仰を奮い立たせる為、少しの演説をしようと口を開いた。
「大隊各員諸君、これまで我々はブリテン島をローマ・カトリックの手から守ってきた。あの忌々しき屈辱の日から早5年、我々はアイルランドの旧教徒カトリックを打倒し、大英帝国を守り、女王の為戦い抜き、教皇に一泡吹かせてやった。大戦果だ!
次なる目標はパリ、0600、我々は上陸舟艇に乗り、サウサンプトンを出港する。英海軍の護衛の下、カンタベリー教区軍15師団が洋上で合流し、コカンタン半島の港、シェルブールを確保する。その後、我々魔装科師団を主力とした、第1軍はルアーヴル、ルアンを制圧。ノルマンディーにおける橋頭堡を確保する!
カトリックは、ローマは、ヴァチカンは、我々国教会の打倒と、大英帝国の完全破壊を目的に、この戦争を始めた、どうしようもない奴等だ。では、我々はどうだ。高慢なヴァチカンをそのままにして良いのか?否、彼らは断じて赦すことのできない侵略者、異教徒、大英帝国の打ち滅ぼすべき敵なのだ!
大隊各員に再度告げる。目標は花の都パリ、ノートルダム大聖堂!カトリックの腐った脳に、プロテスタントの教えを叩き込んでやれ!神よ、女王陛下を守り賜え!イエズス・キリストの御名において、アーメン!」
港に響き渡る大勢の祈りの文言が、僕達の興奮を最高まで高め、決戦直前に相応しい士気に纏まってゆく。
「傾注!速やかに出撃準備、所定の場所で待機、解散!」
号令が起こると、糸が切れたように制御できなくなった群衆は、同じ目的に向かって、各々のするべき事をしだした。
そんな彼らを見て安心した僕は、壇上を降りて、戦闘の準備のためごった返す港の中、静かに僕を待っている彼女の元へ行く。
調整機の確認でもしているのか、簡易テントから物音が聞こえてくる。
戦闘前に見る彼女の笑顔は、僕の心に安らぎと暖かさを与えてくれる。思えばこの8年、長かったような短かったような、色々な事が起こった激動の時代だった。そんな中、悪運強く生き残れたのも、彼女あってこそだった。
そう、あれは8年前のあの聖堂で─
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