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風が臭う? 不穏の気配…!
シーン2
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「くせえだろうがっ! 格別に!! て、おええええええっ!! てめえ、またこきやがったな!? よくも、とっとと風下に移りやがれ!!!」
「え、いやいや、やってないって! むしろ傷ついちゃうよ、いくらハナがいいからってたかがオナラの一発でそんなに苦しまれたらさ? 俺としてはむしろそっちにこそ問題があるような気がしてならないんだけど...」
困惑してもう一方の壮年のブルドック親父に向かうが、ブルドックはブルドックでこちらもあんまり芳しくはない顔つきで、どこか不信感のぬぐえないような物言いだ。
「いや、臭いはするぞ。音はしなかったのにな? さてはおまえさん、気を抜きすぎてケツの穴が緩んじまってるんじゃねえのか? 若えのにしまりがねえったらありゃしねえ!」
「うっ、うそだろ失礼しちゃうな! そんなはずないって、あとお前ももだえすぎ!! やばい毒ガスでもあるまいにひとを何だと思っているんだよ? だったらほらっ、風下ってどっちだ? こっちか?? これでいいんだろう!」
スタスタとその場から大股で移動して背後からの風の影響が出ない位置関係に移ったはずが、もだえるオオカミは背後の雑木林を揺らす風が吹くたびに苦しげな嗚咽を発する。
「おええええっ、おえええええええええっ! うぐ、苦しい、息がっ、まともにできやしねえっ!!」
「なんでだよ!!」
言われたとおりにしてやったのにそんなはずがないだろう!
ちょっと憤慨してしまうのに、ブルドックのおやじが半ば驚愕したさまで声を震わせるのにもたまらず目をむくでっかいクマさんだ。
「こいつは驚いたな、オオカミのハナってのはそんなにも敏感なのか! 道理で生まれつき集団行動には向いてないわけだ。あるいはそっちのクマ公の屁だか体臭だかがよっぽどえげつないってのか? おっかねえな!?」
「ありえないだろ!! こう言っちゃなんだが毎日風呂には入ってるよ! このサウナみたいなテスパスーツを着てるからある意味それだけが楽しみなんだ! こんな田舎の最前線でもなければ名誉毀損で訴えてやりたいぐらいだよ。これで無実が晴らせなければあとは風そのものが臭うってくらいしか言い訳が出来やしない!!」
「おえええっ、うおおおおえええええっ、て、ほんとに、てめえじゃねえってのか? だったらオレ様のこのハナ先に突き刺すみたいなえげつのねえ臭いはなんだってんだ??」
「はあっ...知らないよ。てか、お前もう口で息をしろ、めんどくさいから! わざわざ臭いを嗅ぐからだろ、あるいはもういっそ息を止めろ。あとできることならそのハナも取っちまえよ」
「できるか!! 死んじまうだろ、息を止めろだハナを取れだの、どんだけデリカシーがなければのたまえるんだよっ、ふざけやがってこのデカブツ屁っこきグマ!!」
「だからこいてないっての! いいやむしろこいてやりたいよ、こうなったら! ならおまえ、この先俺と相部屋にでもなったら覚悟はできているんだよな? 俺は遠慮はしないよ、いくらハナの効くオオカミがルームメイトだったとしてもだな。じぶんでも絶望するくらいに強烈なヤツをおまえのその鼻先に...」
「どあほうども。いい加減にしな! ふたりしかいないテストパイロット同士がそんなことでいがみ合ってどうするんだ。不甲斐ない。それよりも風が臭うってのは、あながちなくもないかも知れないだろう...?」
「???」
しかめ面の親父にどやされてふたりの若いテストパイロットたちはお互いの目を見合わせる。
最後のは何やら意味深な言葉つきだが、言わんとするところがイマイチもってわからない。
そんな心の内をすっかり見透かしたかのようなベテランメカニックは、なおのこと意味ありげな笑みをほっぺたの垂れた口の端に浮かべて言ってくれるのだ。
「だからだ、臭っているのはまさしく風そのもので、おまけにそのニオイの元はよそにあるかも知れないって言っているんだよ...! そっちの雑木林の向こうは入り組んだ海岸線で、海の向こうはこことバチバチにやり合っている敵さんのがたの国だろう? これまで長らくのあいだ狭い海峡を互いに前線基地を構えてにらみ合ってきたんだが、今やあちらさんのは無人のゴーストベースとなっているって話だ。なんでだろうな?」
意外な方向に水を差し向けてくるブルドックに、でかいクマがでかい頭をはたとかしげさせて思案顔する。それで相変わらずのほほんとした言いようには、すぐそばからやっと息継ぎができるようになったらしいオオカミがすかさずに噛み付く。
「さあ? 無人の基地なら臭うものなんて何もないだろう? フィルディアとタンデルの国家間紛争って長いんだよな? ひょっとしたら俺たちが生まれる前からくらいにさ! つっても戦場はどっちもに属さないこの中立地帯で、そこらへんのレジスタンス勢力も入り交じっててんで終わりが見えないって話だけど? あれ、俺たちなにをしにここにいるんだろうな??」
「新鋭機のテストに決まってるじゃねえか! いい実験場を提供してもらっているんだよ、フィルディアは独立国家の王国とは言いながらもはやオレらルマニアの属国みたいなもんだろう? タンデルにしたって西の帝国の属州みたいなもんだってんだから、終わりなんて元からありゃしないんだよ。ま、おかげでオレらみたいなよそもんがでかいツラでパイロット然としていられるんだがな!」
「俺はしてないけど?」
「てめえは生まれつきにもうでかいんだろうが! だがなるほど、海風か...! そこの林は海からの潮風を防ぐための言うなれば防風林ってヤツなんだろう? 風にちょっとした臭いが混じっても元からの潮のニオイと林でそれとわからないわけだ! このオレさまくらいに飛び抜けて嗅覚が敏感でないことにはよ!! 海岸線の向こうは敵味方が入り乱れるもはや無法地帯の干渉地域...ははん、こいつは何かありそうだな?」
したり顔したオオカミにブルドックの親父さんは肩をすくめ加減にして引き受けておいて、しわくちゃな顔面の鼻先をクンクンとひくつかせたりもした。
「ま、まるで雲をつかむような話だがな? ん、ニオイ、なくなったんじゃねえのか? 今のこれはただの潮風だろう。おかしなもんだな...」
「そうなのかい? 俺のハナじゃさっぱりわからないけど。だがここのアーマーのパイロットって、けっこう犬族が多いよな? 戦いに出て行って負傷してるのも犬族が多いような気がするけど...あと行方不明者とか??」
「けっ、犬族のパイロットなんてざらだろう! 国によっちゃ体力面で戦闘に秀でた犬族のヤツら以外は軍人になれないなんてとこもあるくらいだ! ま、どいつもこのオレにはかなわないがな!!」
「さっきまであんなに苦しみもだえていたのに、現金だな! 行き過ぎた自身過剰は戦場では命取りになりそうだけど、おまけにちょっとハナにつくんじゃないのか? ここの犬族のパイロットから煙たがられてるの、傍から見ても一目瞭然だろう? えっと、シー...シーソー、パワハラマウンドだったっけ、名前??」
「ぜんぜんちげーよ!! パワハラってなんだ!? それはむしろてめえだろう!!! ちっ...」
すぐそばでしゃがれた咳払いされて、大口開いた赤い舌先とキバをやむなく引っ込める灰色オオカミのテストパイロットどのだ。
ひどいしかめ面のブルドックがどこか遠くに視線をやりながらに話を締めくくる。
「んっ...! まあ、こんなとこでツノつき合わせていてもしょうがねえだろう? それよりもほれ、お呼びが来たぞ? おまえさんがたがいつまでも油売ってるから。えらい焦ってるやがるみたいだが...お、しかもありゃうちの愛弟子だな!」
「あ、チビだろ、あいつ? ほんとだ焦ってる! おーい、そんなに慌ててるとコケるぞ、チビー!!」
「相変わらずヒョロっちいな? マジでコケるんじゃねえのか?? なんであんなに焦ってるんだよ? おいおいっ...!」
「え、いやいや、やってないって! むしろ傷ついちゃうよ、いくらハナがいいからってたかがオナラの一発でそんなに苦しまれたらさ? 俺としてはむしろそっちにこそ問題があるような気がしてならないんだけど...」
困惑してもう一方の壮年のブルドック親父に向かうが、ブルドックはブルドックでこちらもあんまり芳しくはない顔つきで、どこか不信感のぬぐえないような物言いだ。
「いや、臭いはするぞ。音はしなかったのにな? さてはおまえさん、気を抜きすぎてケツの穴が緩んじまってるんじゃねえのか? 若えのにしまりがねえったらありゃしねえ!」
「うっ、うそだろ失礼しちゃうな! そんなはずないって、あとお前ももだえすぎ!! やばい毒ガスでもあるまいにひとを何だと思っているんだよ? だったらほらっ、風下ってどっちだ? こっちか?? これでいいんだろう!」
スタスタとその場から大股で移動して背後からの風の影響が出ない位置関係に移ったはずが、もだえるオオカミは背後の雑木林を揺らす風が吹くたびに苦しげな嗚咽を発する。
「おええええっ、おえええええええええっ! うぐ、苦しい、息がっ、まともにできやしねえっ!!」
「なんでだよ!!」
言われたとおりにしてやったのにそんなはずがないだろう!
ちょっと憤慨してしまうのに、ブルドックのおやじが半ば驚愕したさまで声を震わせるのにもたまらず目をむくでっかいクマさんだ。
「こいつは驚いたな、オオカミのハナってのはそんなにも敏感なのか! 道理で生まれつき集団行動には向いてないわけだ。あるいはそっちのクマ公の屁だか体臭だかがよっぽどえげつないってのか? おっかねえな!?」
「ありえないだろ!! こう言っちゃなんだが毎日風呂には入ってるよ! このサウナみたいなテスパスーツを着てるからある意味それだけが楽しみなんだ! こんな田舎の最前線でもなければ名誉毀損で訴えてやりたいぐらいだよ。これで無実が晴らせなければあとは風そのものが臭うってくらいしか言い訳が出来やしない!!」
「おえええっ、うおおおおえええええっ、て、ほんとに、てめえじゃねえってのか? だったらオレ様のこのハナ先に突き刺すみたいなえげつのねえ臭いはなんだってんだ??」
「はあっ...知らないよ。てか、お前もう口で息をしろ、めんどくさいから! わざわざ臭いを嗅ぐからだろ、あるいはもういっそ息を止めろ。あとできることならそのハナも取っちまえよ」
「できるか!! 死んじまうだろ、息を止めろだハナを取れだの、どんだけデリカシーがなければのたまえるんだよっ、ふざけやがってこのデカブツ屁っこきグマ!!」
「だからこいてないっての! いいやむしろこいてやりたいよ、こうなったら! ならおまえ、この先俺と相部屋にでもなったら覚悟はできているんだよな? 俺は遠慮はしないよ、いくらハナの効くオオカミがルームメイトだったとしてもだな。じぶんでも絶望するくらいに強烈なヤツをおまえのその鼻先に...」
「どあほうども。いい加減にしな! ふたりしかいないテストパイロット同士がそんなことでいがみ合ってどうするんだ。不甲斐ない。それよりも風が臭うってのは、あながちなくもないかも知れないだろう...?」
「???」
しかめ面の親父にどやされてふたりの若いテストパイロットたちはお互いの目を見合わせる。
最後のは何やら意味深な言葉つきだが、言わんとするところがイマイチもってわからない。
そんな心の内をすっかり見透かしたかのようなベテランメカニックは、なおのこと意味ありげな笑みをほっぺたの垂れた口の端に浮かべて言ってくれるのだ。
「だからだ、臭っているのはまさしく風そのもので、おまけにそのニオイの元はよそにあるかも知れないって言っているんだよ...! そっちの雑木林の向こうは入り組んだ海岸線で、海の向こうはこことバチバチにやり合っている敵さんのがたの国だろう? これまで長らくのあいだ狭い海峡を互いに前線基地を構えてにらみ合ってきたんだが、今やあちらさんのは無人のゴーストベースとなっているって話だ。なんでだろうな?」
意外な方向に水を差し向けてくるブルドックに、でかいクマがでかい頭をはたとかしげさせて思案顔する。それで相変わらずのほほんとした言いようには、すぐそばからやっと息継ぎができるようになったらしいオオカミがすかさずに噛み付く。
「さあ? 無人の基地なら臭うものなんて何もないだろう? フィルディアとタンデルの国家間紛争って長いんだよな? ひょっとしたら俺たちが生まれる前からくらいにさ! つっても戦場はどっちもに属さないこの中立地帯で、そこらへんのレジスタンス勢力も入り交じっててんで終わりが見えないって話だけど? あれ、俺たちなにをしにここにいるんだろうな??」
「新鋭機のテストに決まってるじゃねえか! いい実験場を提供してもらっているんだよ、フィルディアは独立国家の王国とは言いながらもはやオレらルマニアの属国みたいなもんだろう? タンデルにしたって西の帝国の属州みたいなもんだってんだから、終わりなんて元からありゃしないんだよ。ま、おかげでオレらみたいなよそもんがでかいツラでパイロット然としていられるんだがな!」
「俺はしてないけど?」
「てめえは生まれつきにもうでかいんだろうが! だがなるほど、海風か...! そこの林は海からの潮風を防ぐための言うなれば防風林ってヤツなんだろう? 風にちょっとした臭いが混じっても元からの潮のニオイと林でそれとわからないわけだ! このオレさまくらいに飛び抜けて嗅覚が敏感でないことにはよ!! 海岸線の向こうは敵味方が入り乱れるもはや無法地帯の干渉地域...ははん、こいつは何かありそうだな?」
したり顔したオオカミにブルドックの親父さんは肩をすくめ加減にして引き受けておいて、しわくちゃな顔面の鼻先をクンクンとひくつかせたりもした。
「ま、まるで雲をつかむような話だがな? ん、ニオイ、なくなったんじゃねえのか? 今のこれはただの潮風だろう。おかしなもんだな...」
「そうなのかい? 俺のハナじゃさっぱりわからないけど。だがここのアーマーのパイロットって、けっこう犬族が多いよな? 戦いに出て行って負傷してるのも犬族が多いような気がするけど...あと行方不明者とか??」
「けっ、犬族のパイロットなんてざらだろう! 国によっちゃ体力面で戦闘に秀でた犬族のヤツら以外は軍人になれないなんてとこもあるくらいだ! ま、どいつもこのオレにはかなわないがな!!」
「さっきまであんなに苦しみもだえていたのに、現金だな! 行き過ぎた自身過剰は戦場では命取りになりそうだけど、おまけにちょっとハナにつくんじゃないのか? ここの犬族のパイロットから煙たがられてるの、傍から見ても一目瞭然だろう? えっと、シー...シーソー、パワハラマウンドだったっけ、名前??」
「ぜんぜんちげーよ!! パワハラってなんだ!? それはむしろてめえだろう!!! ちっ...」
すぐそばでしゃがれた咳払いされて、大口開いた赤い舌先とキバをやむなく引っ込める灰色オオカミのテストパイロットどのだ。
ひどいしかめ面のブルドックがどこか遠くに視線をやりながらに話を締めくくる。
「んっ...! まあ、こんなとこでツノつき合わせていてもしょうがねえだろう? それよりもほれ、お呼びが来たぞ? おまえさんがたがいつまでも油売ってるから。えらい焦ってるやがるみたいだが...お、しかもありゃうちの愛弟子だな!」
「あ、チビだろ、あいつ? ほんとだ焦ってる! おーい、そんなに慌ててるとコケるぞ、チビー!!」
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