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緊急発進! 濃霧の先にあるもの…!?(第二幕)

シーン1

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      「緊急発進スクランブル! 濃霧キリの先にあるもの…!?」

 第二幕

 にわかにごたついた基地の外れの窓際まどぎわ施設から、こちらは中枢の本部棟へと時と場所を移していた。
 とは言えあれからまだ一時間と経ってはいないのだが…。
 今や深刻な雰囲気に包まれた廊下は、騒ぎを聞きつけた野次馬たちによって医務室の出入り口がびっしりと埋め尽くされている。
 被弾して閉ざされたアーマーのコクピットから救出(?)した、犬族の負傷兵パイロットが運び込まれたのをみんなでおっかなびっくりにのぞいているのだが、そのさながら悪夢にうなされるような悲鳴じみたものが時に強く、時にか細く漏れ伝わる…!
 それがなおのことその場のおどろおどろしい空気に拍車をかけた。
 そんな中で今はぽつんとひとりだけ、ひとだかりからやや離れた廊下の壁際に背中をつけて遠巻きにコトの終始を眺めるクマ、もといベアランドだった。
 あんまりヒマだからこのままじぶんの隊舎の自室に帰ってしまおうかと悠長なことを考えかけたところに、おりしも人混みをかき分けてひとりの整備服姿のオヤジがいかめしいツラして戻ってくる。
 ブルドック族のおやじは元がシワだらけだから顔色の善し悪しが判然としないのだが、おそらくはあまりよろしくないのだろうと推測しつつ、とりあえずで首尾をうかがってはみるのだった。

「どうだったい、おやっさん? やっこさん、俺が見たとこじゃ大した外傷もなさそうだったけど、かなり混乱してはいただろ? あんなんでまともに状況の説明なんて聞けたもんなのかね…」

「いいや、今はまだムリだろうな? 外傷はおめえさんに受けた顔面の打撲傷パンチだけなんだが、果たして言っていいやら悪いやら、判断がしかねちまったな。緊急手段としておれっちが認めちまった都合、アレっちゃあアレなんだが…!」

「別に言わなくていいだろ。致命傷じゃないんだし? それよりもあの混乱の仕方は尋常じゃないよな? ハッチを開けて顔を合わせるなり呼ばわりされちゃったから、ムカついてつい利き手のストレートが出ちゃったよ! ほんとはもうちょっと優しくおねんねさせてやるつもりだったのに。目つきが完全にイッちゃってたけど、あれってのはきっと何かしらのとかの症状なんじゃないのかね??」

 こちらもあまり浮かないさまで思ったことを思ったままに言ってやるに、万年しぷ面構つらがまえのブルドックは目つきをさらに険しくして思案顔する。

「薬物…か! こんな最前線の戦場じゃそれもあるあるっちゃあ、あるあるだが、あんまり考えたくはないもんだな? 全員が全員てこともあるまい?? ま、これまで災難に遭った連中の中で生還したヤツらは多かれ少なかれ、あんなありさまだったわけではあるが…」

「なんか引っかかるよな、それにしてもって、なんなんだろうな? いわゆる不意打ち上等のレジスタンスにしては、やけに大がかりだろ?? 仮にもアーマーの一個中隊を打ち負かすなんて、よほどの条件が重ならないことにはね! こっちのパイロットはみんな地元の出身で地理的なヘマなんてするはずないんだし?」

「わからねえな? ただ、そいつらが出る時は必ずあたりに濃い濃霧、が立ちこめるって話だぜ? みんなトラウマになっちまってそれ以上のことは口に出せねえらしいが…」

「ああ、ムリに思い出そうとするとひどい吐き気やめまいに襲われてまたパニックになるんだろ? パイロットとしての生命にも関わるよな、それって! てか、ここに今にも吐きそうなヤツがいるんだけど??」

 壁に寄りかかったじぶんの右手、ちょっと先の窓際で身をくの字にして悶え苦しむ同僚のオオカミパイロットを視線で示すクマさんだ。ブルのオヤジも眉をひそめ加減にそのさまを眺める。



「どうしたい、口やかましいオオカミの若造よ? いつもの元気がどこへやら、おまえさん、さっきからそうやってもだえてばっかりだろう??」

「ぐぐっ…どうしたもこうしたも、ニオウんだよ! ひでえニオイがぷんぷんと!! あの野郎の身体からも、野郎がお釈迦シャカにしちまったアーマーからも、いやってほどによ! せっかく医務室で一息つきかけたところに、よりにもよって後からあんなの連れ込みやがって!!」

 ぐったりしたさまで恨み言を言うウルフハウンドに、そのさまを横目に見るベアランドは肩をすくめる。

「しょうがないだろう? あっちもけが人なんだから! それにニオイなんてしたかね? 俺としてはむしろ別のことが引っかかったけど…おんなじ犬族のおやっさんは気がついたのかい?」

「ニオイ? はて、いわゆる残り香ってヤツか?? いや、あにいく何も、よっぽどハナを近づけなければかぎ取れないんじゃねえのか? オオカミよ、おめえさんつくづく難儀な体質してやがるな? あいにくおれっちはこっちに来てからハナがにぶっちまってるのよ。今みたいな春先は特にな? このあたりの犬族にはこれまたあるあるなんだが、ルマニアにはない植生がもたらす花粉症ってヤツがよ」

「ああ、それ、俺もちょっと感じるよ? 近ごろひどく眠いんだよなあ! あくびばっかり出て任務に支障をきたしちゃうよ」

「は? それは違うんじゃねえのか?? いいやそんなもん、生粋のオオカミたるオレはすぐに耐性を身につけたぜ! 悪いがそこいらのわん公どもとは元の出来が違うんだっ…だが、コイツは、どうにもこらえがたい悪意みたいなヤツが染みついてやがる! マジで毒ガスレベルだ!!」

…ねえ? そいつはまた、染みついた残り香でこれなんだから、直接浴びたりしたら死んじゃうじゃないのか、特におまえはさ?? ああ、でもなるほど、毒ガス…か!」

「?? いくら待ち伏せが常套手段じょうとうしゅだんのレジスタンスとは言え、そんなヤバいもんをおいそれと扱えたもんかね? いくらなんでもタチが悪すぎるってもんだ! おっと、弟子がやっと来やがったな? 被弾したアーマーのたかが一体にどれだけ時間使いやがるのかと思ったが、とりあえず及第点ってところか…」

「そうかい。ならおやっさん、後でいいかい? 弱ったオオカミの手当はあのチビに任せるとして、ちょっとつきあっておくれよ…!」

「うん…?」
 
 どこか意味深な目つきを遠くへやるクマの視線を追いかけるブルだが、それが弟子の頭上を通り越したはるか先であることにちょっとした違和感を感じるのだった。
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