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緊急発進! 濃霧の先にあるもの…!?(第二幕)

シーン5

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「こっ、コイツは…!?」 

 っとばかりに白い霧の中から現れたのは、その大きさと言いカタチと言い、みずからを鏡に映したかのように酷似こくじした見てくれで、もはや見まがいようのないシロモノであった…!!

「びっ、!? オレとおんなじ機体じゃねえか! 味方機がどうしてっ…」

 霧の中にたたずむその姿はまるで幽霊みたいなありさまだ。
 それがついにはゾンビさながら、のたくらとぎこちなく動き出すのをこちらは若干じゃっかん引き気味で見やってしまうのだが、よくよく見てみるにつけその左肩にあったマーキングには、ただちにぎょっと左右の目を見開くウルフハウンドだ。
 てっきり視界の悪さに混乱した5番隊の僚機かと思いきや、そこにあったのはまったく別の予想だにしない部隊番号だった。



「Ⅶ!? だと!! おいおいっ、昨日壊滅かいめつしたってはなしの部隊じゃねえか! まさか、まんまと敵に拿捕だほされちまったってのか? このポンコツめ!」

 自軍の味方機同士ならいちいちアラームを発することもないのもうなずけるが、それだけにこの状況は厄介だろうと二の足を踏んでしまう。
 あちらはただ呆然と立ちすくむか一歩、二歩と微速前進しているだけで、これと何かを仕掛けてくるそぶりもないのもまた不気味だった。
 ただのも同然だ。
 敵軍の機体だったら迷うことなし即座に撃破していたはずが、利き手側に持たせたヘビイガンを撃つのがままならないほどに今はお互いに接近してしまっている。こちらまで誘爆させられる危険を回避するのであれば、格闘戦で仕留めるしかないとは判断しながら、このきっかけを掴みかねていた。
 まるで抵抗する様子がないあちらは見ようによっては白旗を掲げているようにも、あるいは助けを求めているようにすら見える。

「くそったれ! てめえはなんだろうが? 味方のツラをしていようが、そうやってだましちしうよとしてやがるのがバレバレなんだよ! 卑怯ひきょうなくされレジスタンスどもが!!」

 相手の正体そのものが不明なのはわかっていたが、いらだちまぎれうなりと共に強く毒づいてしまうオオカミだ。この視界の悪さでは飛び道具は使えないとアーマーに装備していた巨大なマシンガンを投棄する。本来なら背後のラックに固定するのがセオリーだが、目前の敵にスキを見せるマネはできないと判じてのことだ。
 それをまた拾い上げて暴発の危険性リスクを無視して引き金を引くよりはいっそ相手の武器をはぎ取ったほうがいいとも考えていた。
 同じタイプのアーマーなのだからむしろ合理的だ。
 整備担当の機械小僧はきっと嘆くのだろうが…!
 派手な音を立てて地面に転がる巨人仕様のハンドガンを心の片隅で意識しながら、視界はずっとみずからの正面に固定したまま離さない。目の前の機体に乗っているのが敵勢力である確証を求めることはもうやめにして、同型機のコクピットめがけて繰り出すのをパンチにするか、さらに打撃力の高い装備品のダガーにするか…! あえて利き手ではない左でダガーの操作レバーに持ち替えようとしたところに、しかしまた新たなる変化が今度はこの右手から現れた!

「なっ、なんだ!? また新手っ、おまけにまたビーグルⅤかよ!! て、てめえは五番隊の機体じゃねえか!! このすっとこどっこいが、めくらだからって、うおっ、なんだ??」

 いきなりドタドタと慌てた様子で白い壁から飛び出す同型の機体は、何故かこちら見るなりに猛然とアタックを仕掛けてきた! 肩にはしっかりとⅤ(Ⅴ番隊)のマークがあるのだが、そんなことはお構いなしに衝突覚悟のだ。

 ヤバいっ…!!

 正面に敵を見据みすえたままで真横からの不意打ち(?)には内心でひやりとしたものが流れたが、幸運にも激突寸前のところで錯乱した5番隊の僚機はその場で体勢を崩してつんのめることとなる。
 はじめ唖然と横目で見ながらそれがついさっきおのれが投げ捨てた武器によるものだと瞬時に理解! 耳の中に聞こえるわけのわからない悲鳴かうめきみたいなものに舌打ちしながら無様に手足をバタつかせる相手の機体を利き手で殴り払っていた!!

「うるせえっ、ゴチャゴチャわめいているんじゃねえよっ、これだから育ちの悪い野良のらのワン公は! てめえがアーマー乗りであるプライドを忘れるんじゃねえっ!! オレは味方なんだから、ちゃんと援護しろ! おいっ!!」

 ノイズ混じりの通信からはわけのわからない錯乱状態なパイロットの悲鳴が耳障りだ。
 確か五番隊は全員がのパイロットだとは聞いていたが、あまりのふがいなさに舌打ちと毒舌を抑えきれないオオカミのエースパイロットだった。

「ちいいっ、何かに呪われてやがるのか、ここらの犬っころどもはみんな!? くそったれ、収集がつかねえじゃねえかっ…ん!」

 ノイズ混じりの通信音から不意にまたが聞こえてくるのに訝しく耳を澄ますと、それは思いも寄らない大きさで左右の鼓膜を震わせる。 
 ぎょっとどこか遠くの空を見上げてしまうウルフハウンドだ。
 その時、まるで魔物かのような低いうなりが、夜明けを前にした霧の夜空を揺らした…!!
 ばっ、バケモノ!? 消え入るような声でガクガクと震える五番隊のパイロットがもう使い物にならないことを理解しながら、それがバケモノではなくてによるものだということをすぐにも察知するウルフハウンドだった。
 おかげで舌打ちが止まらない。

「ッ…! 野郎め、今さらのご到着かよ? いけかねえふざけたデカブツクマ公め、どのツラ下げてやってきやがった! って、うおおおおおおおおおっ!?」

 白い闇をっていきなり飛来する、都合三発の灼熱の弾丸タマにのけぞるオオカミだが、それらがてんで見当違いの地面に大穴をうがつのを驚愕して見入ってしまう。
 こんな視界不良の中でなかなかに考えられない援護射撃(?)だ。

 どこ狙ってやがるっ!!?

 のどが干上ひあがるが、その姿よりもまずはやたらにでかい声であちらはみずからの存在を誇示してくれる。

「うおおザッおおおおザザッおおおおーーーーーーいっ、聞いてるかあザッあっ、オオカミっっ!! ザザック着けろ! さっさとしないとおまえもパザックしちザッうぞっっ!!!」

「なっ、なんだ!? てめえっ、ベアランド!!」

 背後からのノイズまじりの怒声に驚きを禁じ得ないオオカミだが、状況が一変したことに脳内のアドレナリンが一気に上昇するのを意識していた。
 そして戦況はこの時を境に一気にひっくり返ることになる。
 それはもはや呆気のないほどに…! 
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