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敵地潜入? 残されたふたり…!(第二幕)
シーン1
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敵地潜入? 残されたふたり…!(第二幕)
シーン1
白濁した霧が晴れた辺りには、背後からのまぶしい朝焼けと澄んだ空、いたるところ穴ぼこだらけの乾いた大地だけが広がっていた。外に出て耳を澄ませば、きっと遠くの海岸線の潮騒が聞こえてくるのだろう。
すっかり静まり返ったモニター越しの周囲の状況をそれとひとしきり見渡しながら、神妙な顔つきしたオオカミのパイロットがやがてひとりごとのように言う。
「…なんだよ、えらい拍子抜けしちまうな? やけにあっさりと退却しやがったじゃねえか、あのわけのわからんゾンビども…!? 敵、なんだよな??」
まるで夢を見ていたような心持ちでこの場でただひとりの友軍へと声を掛ける。
霧の影響がすっかりなくなってクリアになった音声は、何の気もない返事を返してくれた。
「やれやれ、やけに統制が取れてるよな? まるでほんとのロボットみたいだよ、外見も中身もさ♡ たぶん外から指示してるヤツがいるんだろうが、いい判断してるよ! まったくどっから見てたんだろうな?」
言いながらもモニターの中のでかいクマはどこかしらお目当てがあるように視線を横へと流してくれる。
まるでなんでもお見通しみたいなさまに、内心でむかっ腹が立つウルフハウンドが舌打ちまじりに返してやる。
口周りのゴツい防毒マスクが邪魔だった。
「知るもんかよ! つうか、あんなまっちろい霧が立ちこめていたらどこにいようがさっぱりわかりゃしねえだろうが? オレとしてはさっさとこのマスクを外して新鮮な外の空気を吸いたいところだぜ! さすがにまだ無理か?」
「知らないよ♡ そうか、やっぱり相当離れたところから、いっそ俯瞰で見下ろせるくらいのところかね…! ま、手がかりがまるでないってわけじゃないんだから、こっちに当たってみるのが一番の近道か。シーサー、外の空気を吸ってみたらどうだ? ついでにあれの中身にご挨拶してさ♪」
「あれ? ああ、アイツか…!」
じぶんたち以外に唯一、現場に取り残されたとりあえずの敵であるらしい、本来は友軍のはずその機体をジロリと一瞥。
でかい同僚のなにげに意味深な発言にいぶかしく首を傾げながら、また一方で納得してシートのベルトを外していった。モニターの中のくそでかいクマはとっとと席を外して真横のコクピットハッチを開けているとおぼしい。
呑気なくせにやたらと判断力がいいのにまたイラッとして自分も負けじと席を立った。
でかいクマのパイロット、ベアランドは鼻唄交じりに無造作にコクピットハッチを開けると、何ら警戒もすることなしにみずからのでかい図体を外気にさらしていた。これまでの状況から、遠間から狙い撃ちするような狙撃手がいないだろうとの判断だが、他よりも一回りでかいアーマーのゴツゴツとした外装を器用に足場代わりにしてさっそうと地面に降り立った。見た感じにはもうどこにも異変はないようだが、用心してマスクを取るのはやめておくことにする。そうして背後に降り立つ気配を振り返ると、やっぱり用心してマスクを外さない同僚のオオカミパイロットをしげしげと、それでいてどこかつまらなそうに見つめた。
来るなり高くから見下ろされる白いテスパスーツに身を固めた灰色オオカミはやや動揺してマスクの中で大口開ける。
「なっ、なんだよ! その度胸のねえ臆病者を見下げるみたいな目は?? てめえこそさっさと取ればいいだろうが、デリカシーのねえ鈍感でかグマが!! オレは人並み外れて鼻が効くんだから、このくらいは当然だ!!」
「ああ、そ! ならいいよ、そういうことで♪ 下手に外して吐かれても気分悪いしな♡ それじゃさっさとはじめましてと行こうか! あっちの謎の敵さんパイロットに。今んとこ静かだけど、死んでたりしないよな?」
「オレが知るか! 死んでたらそれまでだが、そんなヤワなヤツらじゃねえことを願うぜ? ここまで手こずらされているんだからな。それともオレらのビーグルⅤはそんなにヤワな機体かよ??」
「知らないよ♡ ま、このおれのパートナーよりは、ね? とにかく見たほうが早いか…!」
すぐ側で仰向けにくたばる機体に手をかけて、ほんのツーアクションでコクピットハッチにたどり着くクマに、本来のスマートなボディが跡形もないくらいにスーツで着ぶくれしたオオカミがやや遅れて機体をよじ登る。
「あ、待ちやがれっ! そんなでかい図体でどうしてそんなに身軽なんだよ!? なんでも腕力で解決しようなんざはた迷惑なはなしだぜっ、このインチキグマ!! …なんだよ?」
じっと真顔で見返してくるのにやや怯んで背中のシッポに緊張が走る。
何食わぬさまで同期入隊の同僚を見るクマさんはまた何食わぬさまでぬかした。
「いや、口数が多くてやかましいお前よりは、やっぱりこのおれがお話したほうが収拾がつくかなと思ってね? この見てくれでビックリさせたらアレかとも思ったんだが、総合的にはこっちのほうが無難かなと…」
「どういう意味だよ? ちっ…!」
ハッチの下側にある開閉装置に手をかけるとスイッチをオープンにする。
背後からそのさまを見るウルフハウンドは不機嫌に舌打ちしながらめんどくさいのはごめんなのでそれ以上は口を閉ざした。敵への尋問などは体格に秀でたクマがうってつけだ。
重たくきしんだ開閉音を発しながら、ギガ・アーマーのコクピットハッチが下から上へと開閉されていく。
…うっ!
ハッチが開いた途端に中からもうっと白いものがあふれるのに、思わず目を見張るオオカミが背後にのけぞる。
こんなコトはまるで想定していなかった。クマにそそのかされてマスクを外さなかったのは我ながら大正解だったと胸をなで下ろしながら、こんな状態でパイロットが無事でいることが考えられないで声を震わせてしまう。
「マジかよっ、こんな気分の悪いガス室、拷問どころの騒ぎじゃねえぜ!! 誰が乗っていやがんだよ!?」
「まあ、ね? 見りゃわかるさ…!!」
…!!?
冷めた調子でビクともするでもなしにコクピットをのぞき込むでかいクマの背中越しに、やがてうっすらと浮かび上がったもの、その正体をまざまざと見ることになるオオカミは今度こそ言葉を失うことになるのだった…!
シーン1
白濁した霧が晴れた辺りには、背後からのまぶしい朝焼けと澄んだ空、いたるところ穴ぼこだらけの乾いた大地だけが広がっていた。外に出て耳を澄ませば、きっと遠くの海岸線の潮騒が聞こえてくるのだろう。
すっかり静まり返ったモニター越しの周囲の状況をそれとひとしきり見渡しながら、神妙な顔つきしたオオカミのパイロットがやがてひとりごとのように言う。
「…なんだよ、えらい拍子抜けしちまうな? やけにあっさりと退却しやがったじゃねえか、あのわけのわからんゾンビども…!? 敵、なんだよな??」
まるで夢を見ていたような心持ちでこの場でただひとりの友軍へと声を掛ける。
霧の影響がすっかりなくなってクリアになった音声は、何の気もない返事を返してくれた。
「やれやれ、やけに統制が取れてるよな? まるでほんとのロボットみたいだよ、外見も中身もさ♡ たぶん外から指示してるヤツがいるんだろうが、いい判断してるよ! まったくどっから見てたんだろうな?」
言いながらもモニターの中のでかいクマはどこかしらお目当てがあるように視線を横へと流してくれる。
まるでなんでもお見通しみたいなさまに、内心でむかっ腹が立つウルフハウンドが舌打ちまじりに返してやる。
口周りのゴツい防毒マスクが邪魔だった。
「知るもんかよ! つうか、あんなまっちろい霧が立ちこめていたらどこにいようがさっぱりわかりゃしねえだろうが? オレとしてはさっさとこのマスクを外して新鮮な外の空気を吸いたいところだぜ! さすがにまだ無理か?」
「知らないよ♡ そうか、やっぱり相当離れたところから、いっそ俯瞰で見下ろせるくらいのところかね…! ま、手がかりがまるでないってわけじゃないんだから、こっちに当たってみるのが一番の近道か。シーサー、外の空気を吸ってみたらどうだ? ついでにあれの中身にご挨拶してさ♪」
「あれ? ああ、アイツか…!」
じぶんたち以外に唯一、現場に取り残されたとりあえずの敵であるらしい、本来は友軍のはずその機体をジロリと一瞥。
でかい同僚のなにげに意味深な発言にいぶかしく首を傾げながら、また一方で納得してシートのベルトを外していった。モニターの中のくそでかいクマはとっとと席を外して真横のコクピットハッチを開けているとおぼしい。
呑気なくせにやたらと判断力がいいのにまたイラッとして自分も負けじと席を立った。
でかいクマのパイロット、ベアランドは鼻唄交じりに無造作にコクピットハッチを開けると、何ら警戒もすることなしにみずからのでかい図体を外気にさらしていた。これまでの状況から、遠間から狙い撃ちするような狙撃手がいないだろうとの判断だが、他よりも一回りでかいアーマーのゴツゴツとした外装を器用に足場代わりにしてさっそうと地面に降り立った。見た感じにはもうどこにも異変はないようだが、用心してマスクを取るのはやめておくことにする。そうして背後に降り立つ気配を振り返ると、やっぱり用心してマスクを外さない同僚のオオカミパイロットをしげしげと、それでいてどこかつまらなそうに見つめた。
来るなり高くから見下ろされる白いテスパスーツに身を固めた灰色オオカミはやや動揺してマスクの中で大口開ける。
「なっ、なんだよ! その度胸のねえ臆病者を見下げるみたいな目は?? てめえこそさっさと取ればいいだろうが、デリカシーのねえ鈍感でかグマが!! オレは人並み外れて鼻が効くんだから、このくらいは当然だ!!」
「ああ、そ! ならいいよ、そういうことで♪ 下手に外して吐かれても気分悪いしな♡ それじゃさっさとはじめましてと行こうか! あっちの謎の敵さんパイロットに。今んとこ静かだけど、死んでたりしないよな?」
「オレが知るか! 死んでたらそれまでだが、そんなヤワなヤツらじゃねえことを願うぜ? ここまで手こずらされているんだからな。それともオレらのビーグルⅤはそんなにヤワな機体かよ??」
「知らないよ♡ ま、このおれのパートナーよりは、ね? とにかく見たほうが早いか…!」
すぐ側で仰向けにくたばる機体に手をかけて、ほんのツーアクションでコクピットハッチにたどり着くクマに、本来のスマートなボディが跡形もないくらいにスーツで着ぶくれしたオオカミがやや遅れて機体をよじ登る。
「あ、待ちやがれっ! そんなでかい図体でどうしてそんなに身軽なんだよ!? なんでも腕力で解決しようなんざはた迷惑なはなしだぜっ、このインチキグマ!! …なんだよ?」
じっと真顔で見返してくるのにやや怯んで背中のシッポに緊張が走る。
何食わぬさまで同期入隊の同僚を見るクマさんはまた何食わぬさまでぬかした。
「いや、口数が多くてやかましいお前よりは、やっぱりこのおれがお話したほうが収拾がつくかなと思ってね? この見てくれでビックリさせたらアレかとも思ったんだが、総合的にはこっちのほうが無難かなと…」
「どういう意味だよ? ちっ…!」
ハッチの下側にある開閉装置に手をかけるとスイッチをオープンにする。
背後からそのさまを見るウルフハウンドは不機嫌に舌打ちしながらめんどくさいのはごめんなのでそれ以上は口を閉ざした。敵への尋問などは体格に秀でたクマがうってつけだ。
重たくきしんだ開閉音を発しながら、ギガ・アーマーのコクピットハッチが下から上へと開閉されていく。
…うっ!
ハッチが開いた途端に中からもうっと白いものがあふれるのに、思わず目を見張るオオカミが背後にのけぞる。
こんなコトはまるで想定していなかった。クマにそそのかされてマスクを外さなかったのは我ながら大正解だったと胸をなで下ろしながら、こんな状態でパイロットが無事でいることが考えられないで声を震わせてしまう。
「マジかよっ、こんな気分の悪いガス室、拷問どころの騒ぎじゃねえぜ!! 誰が乗っていやがんだよ!?」
「まあ、ね? 見りゃわかるさ…!!」
…!!?
冷めた調子でビクともするでもなしにコクピットをのぞき込むでかいクマの背中越しに、やがてうっすらと浮かび上がったもの、その正体をまざまざと見ることになるオオカミは今度こそ言葉を失うことになるのだった…!
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