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第一章(木・金・土)
第2話
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――雪のような純白。
とにかく少女の肌の白さが際立っている。カーディガンの袖口から覗く彼女の腕は、透き通るような純白だ。一度テレビで観たことがある、アルビノ(先天性の色素欠乏症)のようにも思える。だがアルビノの場合は、瞳や髪の色素も不足するため、白髪で瞳も淡い灰色になるはず。少女ほど色白の日本人を、和也が目の当たりにしたのは初めてだ。薄着で冷えて、彼女は体調を悪くしてしまったのだろうか。
とりあえず具合の悪そうな少女を、寒い玄関から暖かいリビングに運ばなくては。そう和也は考えて玄関のドアをロックして、少女の冷たい右腕をそっと掴む。なんだよ、インコも飼主も体調不良なのか。和也は苦笑してしまった。
「ごめんね。肩を貸して運ぶから――」
「はい……」ふわっと和也にもたれかかってきた少女は、あっけないほど軽かった。倒れかかる彼女を支えようと、身構えていた和也は拍子抜けしてしまったほどだ。「え? 軽い?」思わず和也は口に出してしまう。グラマラスな肉体を誇る智美の三分の一以下の体重ぐらいか、と和也は思った。
とはいうものの、意識がもうろうとしている美少女は、普通レベルの範疇の、ややスリムな体型にすぎない。何かがおかしい。和也は怪訝に思う。少女の身体を構成している物質が、まるで羽毛布団のように、普通の人間と密度が違うんじゃないか?
――羽毛! やはりこの美少女は、もふもふピーちゃんなのか?
少女の頼りない重量感から連想した素材で、再び和也は『インコの恩返し』を思い浮かべてしまった。恩返しとすれば、何をしに来たんだろう。やっぱり、機織りかな。
「バカな。俺はきっと疲れてるんだ……」和也は空想めいた考えを打ち消す。ところが、心の声を思わず和也が口にして、少女に聞かれてしまったようだ。彼女はすっと立ち上がると、先ほどまで倒れていたとは思えないほど、はっきりした口調で明るい笑顔を和也に返してきた。
「あ、お疲れのところ申し訳ありません。私なら大丈夫です! ちゃんとひとりで歩けますよ! ほらっ、ほらっ!」少女は、その場で足踏み行進する真似さえしている。和也に心配をかけまいとしているのだろう、とっても健気でいい子じゃないか。だが、かなり無理をしているのかもしれないぞ。そう和也は考えた。
和也の懸念とは裏腹に、少女は元気をかなり取り戻したようだ。和也の後についてリビングに入り、「そこのソファに座って、少し休んでいなよ」との提案に応じて、ソファにふわっと座る。
そして、「先ほどはご迷惑をおかけしました。しばらくすれば、落ち着きますので」と、丁寧な落ちついた口調で頭を下げた。
「まあ、いいから。寒かっただろうし、これを使うといいよ」和也は彼女にブランケットを手渡す。「ありがとうございます。助かります」と、答えた少女の、はにかんだ笑顔が素敵だ。一八、九歳といった年頃だろうか。白い肌にセミロングの髪が似合っていて、かなりの美形といっていいだろう。
俺も温かい飲み物でも飲んで、落ち着いたほうがいい、と和也は思い「温かい飲み物を……コーヒーでいいかな?」と少女に尋ねる。
「ええ。コーヒーは好物です。恐縮です」
少女の落ち着きのある言葉遣いと応対に、和也はかなりの好感を持った。やはり、あの豪邸に住むようなお嬢様だろうか。和也は、自室のバルコニーから見えるひときわ大きな家を思い浮かべた。
和也はブラックコーヒー派なので、普段はコーヒー豆以外使わない。少女のために砂糖やクリームを探しているときに、インスタントスープが目に付いた。もしかすると、多少たりとも栄養のある飲み物の方が、いいのかもしれない。和也はそう考えて、インスタントのコーンポタージュのパッケージを手にして、ソファで寛いでいるはずの少女の元へ向かう。
「ねえ、キミ。インスタントだけどさ、コーンポタージュが――――」
和也は、目の前で繰り広げられている信じられない光景を凝視して、息を飲み絶句してしまった。ソファに座っていたはずの美少女が、座ったそのままの格好で、一メートル五〇センチほどの上空に浮かんでいる。部屋の天井と、宙に浮かんでいる彼女の頭との空間は、五〇センチもないかもしれない。目がおかしくなったかと、和也は強く瞬きをして、再び目を見開くが、映る異様な光景は変わらない。空中に漂う美少女は、呆然としている和也に気づいて目を見張った。ぱさりと、コーンポタージュの袋が、和也の手から溢れて床に落ちる。
「う、う、浮、うい?」
目の前で起きている驚くべき現象に、和也が混乱しているのを尻目に、少女はゆっくり、すうっとソファに垂直着陸して、悲しげな表情で問いかける。
「いま見ちゃったよね?」
「あ、いや。見てない。うん、見た」
相変わらず動転していて、訳の分からない返答をした和也を一瞥すると、美少女は静かな表情で語りかける。
「もう分かったでしょ? 私は普通の人間じゃないの」
とにかく少女の肌の白さが際立っている。カーディガンの袖口から覗く彼女の腕は、透き通るような純白だ。一度テレビで観たことがある、アルビノ(先天性の色素欠乏症)のようにも思える。だがアルビノの場合は、瞳や髪の色素も不足するため、白髪で瞳も淡い灰色になるはず。少女ほど色白の日本人を、和也が目の当たりにしたのは初めてだ。薄着で冷えて、彼女は体調を悪くしてしまったのだろうか。
とりあえず具合の悪そうな少女を、寒い玄関から暖かいリビングに運ばなくては。そう和也は考えて玄関のドアをロックして、少女の冷たい右腕をそっと掴む。なんだよ、インコも飼主も体調不良なのか。和也は苦笑してしまった。
「ごめんね。肩を貸して運ぶから――」
「はい……」ふわっと和也にもたれかかってきた少女は、あっけないほど軽かった。倒れかかる彼女を支えようと、身構えていた和也は拍子抜けしてしまったほどだ。「え? 軽い?」思わず和也は口に出してしまう。グラマラスな肉体を誇る智美の三分の一以下の体重ぐらいか、と和也は思った。
とはいうものの、意識がもうろうとしている美少女は、普通レベルの範疇の、ややスリムな体型にすぎない。何かがおかしい。和也は怪訝に思う。少女の身体を構成している物質が、まるで羽毛布団のように、普通の人間と密度が違うんじゃないか?
――羽毛! やはりこの美少女は、もふもふピーちゃんなのか?
少女の頼りない重量感から連想した素材で、再び和也は『インコの恩返し』を思い浮かべてしまった。恩返しとすれば、何をしに来たんだろう。やっぱり、機織りかな。
「バカな。俺はきっと疲れてるんだ……」和也は空想めいた考えを打ち消す。ところが、心の声を思わず和也が口にして、少女に聞かれてしまったようだ。彼女はすっと立ち上がると、先ほどまで倒れていたとは思えないほど、はっきりした口調で明るい笑顔を和也に返してきた。
「あ、お疲れのところ申し訳ありません。私なら大丈夫です! ちゃんとひとりで歩けますよ! ほらっ、ほらっ!」少女は、その場で足踏み行進する真似さえしている。和也に心配をかけまいとしているのだろう、とっても健気でいい子じゃないか。だが、かなり無理をしているのかもしれないぞ。そう和也は考えた。
和也の懸念とは裏腹に、少女は元気をかなり取り戻したようだ。和也の後についてリビングに入り、「そこのソファに座って、少し休んでいなよ」との提案に応じて、ソファにふわっと座る。
そして、「先ほどはご迷惑をおかけしました。しばらくすれば、落ち着きますので」と、丁寧な落ちついた口調で頭を下げた。
「まあ、いいから。寒かっただろうし、これを使うといいよ」和也は彼女にブランケットを手渡す。「ありがとうございます。助かります」と、答えた少女の、はにかんだ笑顔が素敵だ。一八、九歳といった年頃だろうか。白い肌にセミロングの髪が似合っていて、かなりの美形といっていいだろう。
俺も温かい飲み物でも飲んで、落ち着いたほうがいい、と和也は思い「温かい飲み物を……コーヒーでいいかな?」と少女に尋ねる。
「ええ。コーヒーは好物です。恐縮です」
少女の落ち着きのある言葉遣いと応対に、和也はかなりの好感を持った。やはり、あの豪邸に住むようなお嬢様だろうか。和也は、自室のバルコニーから見えるひときわ大きな家を思い浮かべた。
和也はブラックコーヒー派なので、普段はコーヒー豆以外使わない。少女のために砂糖やクリームを探しているときに、インスタントスープが目に付いた。もしかすると、多少たりとも栄養のある飲み物の方が、いいのかもしれない。和也はそう考えて、インスタントのコーンポタージュのパッケージを手にして、ソファで寛いでいるはずの少女の元へ向かう。
「ねえ、キミ。インスタントだけどさ、コーンポタージュが――――」
和也は、目の前で繰り広げられている信じられない光景を凝視して、息を飲み絶句してしまった。ソファに座っていたはずの美少女が、座ったそのままの格好で、一メートル五〇センチほどの上空に浮かんでいる。部屋の天井と、宙に浮かんでいる彼女の頭との空間は、五〇センチもないかもしれない。目がおかしくなったかと、和也は強く瞬きをして、再び目を見開くが、映る異様な光景は変わらない。空中に漂う美少女は、呆然としている和也に気づいて目を見張った。ぱさりと、コーンポタージュの袋が、和也の手から溢れて床に落ちる。
「う、う、浮、うい?」
目の前で起きている驚くべき現象に、和也が混乱しているのを尻目に、少女はゆっくり、すうっとソファに垂直着陸して、悲しげな表情で問いかける。
「いま見ちゃったよね?」
「あ、いや。見てない。うん、見た」
相変わらず動転していて、訳の分からない返答をした和也を一瞥すると、美少女は静かな表情で語りかける。
「もう分かったでしょ? 私は普通の人間じゃないの」
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