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第一章(木・金・土)
第7話
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「あっ! 和也さん!?」
和也の呼びかけにユミが応える。倒れたとか、意識を失ったのではなさそうで、和也はほっと胸をなでおろす。それでも、何が起きたのか分からないので心配だ。
「何か問題があった?」と問いかける。
「大声出しちゃって、すいません……。こっちの話ですから大丈夫です」
先ほどの慌てた大声と違って、落ち着きを取り戻した返答なので、緊急事態ではなさそうだ。とはいえ、ドアを開けて安否を確認するわけにもいかず、和也は気になってしまう。
「そ、そうかい?」
「ええ。和也さんは、コーヒーでも飲んで待っててね」
ユミはすっかり平穏な調子に戻ったようなので、浴室前で立ち尽くしていてもしょうがないだろう。和也はひとまず退散することにした。
二杯目のコーヒーを片手に和也は思いを巡らせる。
「別に、コーヒーじゃなくても構わないんだよなあ……」
ユミに言われた通りに、リビングでコーヒーを飲みながら、彼女を待っている自分自身に苦笑する。衝突を恐れるあまり、流されやすい性格なのかもしれない。過去を振り返ると、思いあたる節も多くある。智美が不満に思ってたという、頼りなさは、衝突を避ける性格に由来するのだろうか。いずれにしても、智美は交際相手に、自分が持っていない頼りがいや、財力、容姿などの大きな魅力に靡いたのだろう。和也はそう自分自身を納得させているけれど、正しいかどうかは不明だ。
和也は、智美とは大学時代に修一から紹介されて交際が始まり、五年間付き合って結婚した。記憶に残る喧嘩や衝突の類は全くない。仲のいい夫婦と思っていた。それが、あっという間に無関係だからな。
「女性って分からないよなあ……」
和也は深いため息をつく。ユミにしても、何に慌てていたのか、まったく想像もつかない。
やがて、リビングのドアがかちゃりと開いて、
「お待たせー」とユミが戻ってきた。長身の和也用のパジャマなので、ユミにはかなりサイズが大き目だったようだ。紺のチェックのフランネルの上下パジャマなのだが、パンツは裾を大きくロールアップさせている。
「さっきは大声出しちゃって、ごめんなさい。それにしても、和也さん大きいんだね。ほらーっ、こんなんだよ?」
楽しそうな笑顔で腕を軽くふって、長袖シャツの余っている布地を、和也の顔にぺちぺちと当ててくる。
「こらっ! しかし、だいぶ大きかったなあ。ユミちゃん用にパジャマを買わなきゃいけないね」
「わーい。和也さん、ありがとう。それにしても、久しぶりのお風呂は気持ちよかったあ」
満面の笑みを浮かべるユミが和也の横に座った。幽霊だから、お風呂に入れなくて騒いだわけじゃなかったのか、と和也はほっとして、ご機嫌のユミを見やる。もともと、ぱっと見は清楚系な美人だし、男性用のパジャマがだぶついていて、なんともいえない可愛らしさがある。ユミが普通の人間だったらなあ、と和也が思っていると、ユミが慌てた口調だ。
「あ……やだっ! 和也さん、そんなにこっちを見ないで!」
何ごとか、と思ってユミの顔をみれば、顔色は相変わらず真っ白のままだけど、表情から察するに、どうやら恥ずかしがっているようだ。和也はまったく意味が分からない。
「え? どうしたの?」と和也が尋ねてみても、「えっと……その……」と、ユミは相変わらず照れくさそうにしている。
「う……うん。どうした?」
と和也が促《うなが》したら、ユミは覚悟を決めたような表情になった。
「パジャマの下にね。その、あの……ブラを着けていなくて……」
そういえば、智美も寝苦しいといって、パジャマのときはノーブラだったのを、和也は思い出したので、「あー。うん」と軽く答える。
「あの、その……。胸の……その乳首がポチッと目立ってるんで……」
思わず和也はユミの胸元に視線をやってしまう。確かにユミが恥ずかしがっている乳首の膨らみは、チェック柄パジャマなので不明瞭だが、しっかりと主張していた。
「きゃっ! 和也さん見ちゃダメ! 恥ずかしいでしょおー?」
ユミは照れながら、胸の前を腕でさっと隠す。
和也は智美とは同じベッドで寝ていて、女性の乳首は見慣れていたので、さほど感慨はなかった。
――恥ずかしがるくらいなら、言わなくてもいいのに。少し変わった子だな。
何よりも、ユミの初々しさと素直さに、和也は微笑ましくなってしまった。
和也の呼びかけにユミが応える。倒れたとか、意識を失ったのではなさそうで、和也はほっと胸をなでおろす。それでも、何が起きたのか分からないので心配だ。
「何か問題があった?」と問いかける。
「大声出しちゃって、すいません……。こっちの話ですから大丈夫です」
先ほどの慌てた大声と違って、落ち着きを取り戻した返答なので、緊急事態ではなさそうだ。とはいえ、ドアを開けて安否を確認するわけにもいかず、和也は気になってしまう。
「そ、そうかい?」
「ええ。和也さんは、コーヒーでも飲んで待っててね」
ユミはすっかり平穏な調子に戻ったようなので、浴室前で立ち尽くしていてもしょうがないだろう。和也はひとまず退散することにした。
二杯目のコーヒーを片手に和也は思いを巡らせる。
「別に、コーヒーじゃなくても構わないんだよなあ……」
ユミに言われた通りに、リビングでコーヒーを飲みながら、彼女を待っている自分自身に苦笑する。衝突を恐れるあまり、流されやすい性格なのかもしれない。過去を振り返ると、思いあたる節も多くある。智美が不満に思ってたという、頼りなさは、衝突を避ける性格に由来するのだろうか。いずれにしても、智美は交際相手に、自分が持っていない頼りがいや、財力、容姿などの大きな魅力に靡いたのだろう。和也はそう自分自身を納得させているけれど、正しいかどうかは不明だ。
和也は、智美とは大学時代に修一から紹介されて交際が始まり、五年間付き合って結婚した。記憶に残る喧嘩や衝突の類は全くない。仲のいい夫婦と思っていた。それが、あっという間に無関係だからな。
「女性って分からないよなあ……」
和也は深いため息をつく。ユミにしても、何に慌てていたのか、まったく想像もつかない。
やがて、リビングのドアがかちゃりと開いて、
「お待たせー」とユミが戻ってきた。長身の和也用のパジャマなので、ユミにはかなりサイズが大き目だったようだ。紺のチェックのフランネルの上下パジャマなのだが、パンツは裾を大きくロールアップさせている。
「さっきは大声出しちゃって、ごめんなさい。それにしても、和也さん大きいんだね。ほらーっ、こんなんだよ?」
楽しそうな笑顔で腕を軽くふって、長袖シャツの余っている布地を、和也の顔にぺちぺちと当ててくる。
「こらっ! しかし、だいぶ大きかったなあ。ユミちゃん用にパジャマを買わなきゃいけないね」
「わーい。和也さん、ありがとう。それにしても、久しぶりのお風呂は気持ちよかったあ」
満面の笑みを浮かべるユミが和也の横に座った。幽霊だから、お風呂に入れなくて騒いだわけじゃなかったのか、と和也はほっとして、ご機嫌のユミを見やる。もともと、ぱっと見は清楚系な美人だし、男性用のパジャマがだぶついていて、なんともいえない可愛らしさがある。ユミが普通の人間だったらなあ、と和也が思っていると、ユミが慌てた口調だ。
「あ……やだっ! 和也さん、そんなにこっちを見ないで!」
何ごとか、と思ってユミの顔をみれば、顔色は相変わらず真っ白のままだけど、表情から察するに、どうやら恥ずかしがっているようだ。和也はまったく意味が分からない。
「え? どうしたの?」と和也が尋ねてみても、「えっと……その……」と、ユミは相変わらず照れくさそうにしている。
「う……うん。どうした?」
と和也が促《うなが》したら、ユミは覚悟を決めたような表情になった。
「パジャマの下にね。その、あの……ブラを着けていなくて……」
そういえば、智美も寝苦しいといって、パジャマのときはノーブラだったのを、和也は思い出したので、「あー。うん」と軽く答える。
「あの、その……。胸の……その乳首がポチッと目立ってるんで……」
思わず和也はユミの胸元に視線をやってしまう。確かにユミが恥ずかしがっている乳首の膨らみは、チェック柄パジャマなので不明瞭だが、しっかりと主張していた。
「きゃっ! 和也さん見ちゃダメ! 恥ずかしいでしょおー?」
ユミは照れながら、胸の前を腕でさっと隠す。
和也は智美とは同じベッドで寝ていて、女性の乳首は見慣れていたので、さほど感慨はなかった。
――恥ずかしがるくらいなら、言わなくてもいいのに。少し変わった子だな。
何よりも、ユミの初々しさと素直さに、和也は微笑ましくなってしまった。
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