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第十話「私が悪役に戻れば、破棄できるはず」
朝。
小鳥のさえずりと共に目覚めた私は、目の前の光景に絶句した。
黄金の髪。
陶器のような肌。
長い睫毛。
至近距離で、レオンハルト殿下がスヤスヤと眠っている。
「……ぎゃああああッ!!」
私は悲鳴を上げて飛び起きた。
そうだ。思い出した。
昨日、《星冠の誓約》がレベル80に到達し、トンデモ条項が追加されたのだった。
『一刻たりとも離れることを禁ず』
この呪いのような一文のせいで、私の寝室は王太子の執務室の隣にある「仮眠室(という名のスイートルーム)」に移され、しかも壁一枚隔てただけの状態で夜を過ごすことになったのだ。
さすがに同じベッドではないが、ドアは常に解放されており、私の寝息が聞こえる距離に彼がいる。
「……おはよう、リュシア。元気な悲鳴だね」
レオンハルトがむくりと起き上がり、爽やかに微笑んだ。寝癖一つない完璧なイケメンぶりが憎らしい。
「元気じゃありません! これはプライバシーの侵害です! 人権蹂躙です!」
「何を言うんだ。条項には『互いの名誉を守るため』とある。君が一人で寝ていて、もし悪夢にうなされたらどうする? 私がすぐに駆けつけられるこの距離こそが、君の名誉と安眠を守る最適解だ」
ダメだ。話が通じない。
このままでは、なし崩し的に「事実婚」状態が固定されてしまう。
来月の『白花の儀』を待つまでもなく、外堀どころか内堀まで埋められて、本丸(結婚)が陥落してしまう!
(……落ち着け、私。まだ手はある)
私は深呼吸をした。
距離を取れないなら、精神的に突き放せばいい。
そう、原点回帰だ。
私は悪役令嬢。彼が最も嫌うであろう「わがままで贅沢で、感謝を知らない女」を演じきればいいのだ。
「殿下」
私はツンと顎を上げた。
「朝食ですが、パンとスープなんて貧相なものは食べたくありませんわ。朝からフォアグラとキャビア、それと最高級のシャンパンを持ってきてください」
どうだ。
朝から酒と高級食材を要求する悪女ムーブ。
これにはさすがの彼も「なんて浪費家だ」と眉をひそめるはず。
しかし、レオンハルトは真剣な顔で頷いた。
「……なるほど。君は今の王宮の『食料備蓄』と『流通網』をテストしようとしているんだな?」
「は?」
「突然の無理難題なオーダーに対し、厨房がどれだけ迅速に対応できるか。そして、高級食材の在庫管理が適切に行われているか。……有事の際、王族の食事を守るための抜き打ち検査というわけか」
違います。ただの暴食です。
「すぐに手配させよう。君の厳しいチェックに、料理長も奮起するはずだ」
数十分後。
テーブルには山のような御馳走が並べられ、料理長が「リュシア様のおかげで、賞味期限ギリギリだった高級食材を廃棄せずに済みました!」と涙ながらに感謝してきた。
……なぜだ。なぜ私の悪意は、すべて善行に変換されてしまうのだ。
◇
午後。
執務室での公務中、私は次なる作戦に出た。
「サボタージュ」だ。
王太子の婚約者として、書類の決裁補助などを任されているのだが、私はあえてペンを放り投げた。
「あーあ、つまらない。こんな地味な仕事、やってられませんわ。私、お買い物に行ってきます」
仕事放棄。
これは社会人として、いや王族としてあるまじき行為だ。
さあ、怒れ! 「責任感のない女は出て行け」と!
レオンハルトは書類から顔を上げ、優しく微笑んだ。
「そうか。少し休憩が必要だったな。……君が『つまらない』と言うのは、この程度の事務作業は君の能力に見合っていないという抗議だろう?」
「……え?」
「君のような英才を、単なる書類整理に縛り付けるのは国の損失だ。もっと外に出て、市場の動向や流行を視察し、経済を肌で感じたい……そういうことだね?」
ポジティブ変換機能がバグっているとしか思えない。
「行ってくるといい。君のセンスで選んだ品々は、きっと新たな流行を生み出し、経済効果をもたらすだろう。もちろん、支払いは王家のツケで構わない」
「……」
私は無言でペンを拾い、仕事に戻った。
買い物に行ったら行ったで、「リュシア様が選んだスカーフが大流行!」とかいうニュースになり、さらに評価が上がる未来しか見えなかったからだ。
◇
その日の夕方。
私が執務室で腐っていると、廊下が何やら騒がしくなった。
「大変です! リュシア様のお部屋から、とんでもないものが!」
飛び込んできたのは、侍女のマリーではなく、見知らぬメイドだった。
そしてその後ろから、青ざめた顔(という演技)をしたセレナと、数人の衛兵が入ってきた。
「殿下……! 怖いですぅ……!」
セレナがレオンハルトにすがりつこうとするが、私が(誓約の強制力で)ぴったり横に張り付いているため、近寄れない。
彼女は悔しそうに唇を噛みつつ、ハンカチで涙を拭った。
「リュシア様のお部屋の掃除をしていたら……ベッドの下から、こんなものが……」
衛兵が証拠品を提示する。
それは、藁で作られた人形だった。
胸には「セレナ」と書かれた紙が貼られ、無数の針が突き刺さっている。
さらに、人形のそばには、黒い封筒に入った手紙があった。
『憎きセレナへ。お前さえいなければ、私が王妃になれるのに。呪い殺してやる』
……ベタだ。
あまりにもベタすぎる「呪いのアイテム」セットだ。
昭和のドラマでももう少し捻るだろう。
「リュシア!」
セレナが芝居がかった声で叫んだ。
「まさか、ここまで私を恨んでいたなんて……! 口では綺麗事を言っても、裏ではこんな呪術に手を染めていたんですね!」
周囲の衛兵たちが、疑いの眼差しを私に向ける。
呪術はこの国では重罪だ。
もしこれが私の仕業だと認定されれば、婚約破棄どころか、地下牢行きは免れない。
(やった……!)
私は心の中で歓喜した。
セレナ、ありがとう!
君のその安っぽい陰謀こそが、私が求めていた「決定的な汚点」よ!
これでレオンハルトも私を庇いきれないはず。
「さあ殿下、この恐ろしい女を裁いてください! 私の命が危ないんです!」
セレナが勝ち誇ったように訴える。
レオンハルトは、冷たい目で人形を見つめ、そして私を見た。
「……リュシア」
「はい。申し開きはいたしません。それは私の部屋から見つかったものですから」
私は潔く認めた。
さあ、手錠をかけろ! 私を牢屋へ連れて行け!
「……ふっ」
レオンハルトが笑った。
それは、怒りでも悲しみでもなく、呆れ果てたような嘲笑だった。
「セレナ。君は……バカなのか?」
「へ?」
セレナが素っ頓狂な声を出す。
「この人形がリュシアの部屋のベッドの下にあったと言ったな?」
「は、はい! 間違いありません!」
「リュシアは昨日から一歩も、私の執務室とその隣の仮眠室から出ていない」
「……え?」
「《星冠の誓約》により、彼女は私と片時も離れることができない。食事も、仕事も、睡眠も、すべて私の監視下にあった。トイレに行くときでさえ、ドアの前で私が待機していた」
恥ずかしい事実を暴露された。
「つまり、リュシアが自分の部屋に戻り、ベッドの下に人形を隠すことは物理的に不可能なのだよ。……私という最強のアリバイがある以上、彼女に犯行は不可能だ」
あ。
忘れてた。
そういえば私、軟禁されてたんだった。
セレナの顔色が、みるみるうちに蒼白になっていく。
「そ、それは……魔法か何かで遠隔操作を……!」
「記録石を確認するか?」
レオンハルトが懐に手を伸ばす。
「ひっ……!」
セレナは後ずさった。記録石を出されたら、魔法を使っていないこともバレる。
「それにしても」
レオンハルトの声が、急激に温度を失い、氷点下の怒りを帯びた。
「私の婚約者の部屋に、何者かが侵入し、こんな不気味なものを仕込んだということか? ……王宮の警備はどうなっている!」
ドガァァン!
レオンハルトが拳を机に叩きつけると、机に亀裂が走った。
衛兵たちが直立不動で震え上がる。
「これはリュシアへの嫌がらせであると同時に、王家のセキュリティに対する重大な挑戦だ! 侵入者を徹底的に探せ! 蟻の這い出る隙間もないほど調べ上げろ!」
「は、はいぃぃッ!!」
衛兵たちが蜘蛛の子を散らすように駆け出していく。
セレナも「わ、私も手伝いますぅ!」と言って、逃げるように部屋を出て行った。
残されたのは、私と、怒りに燃えるレオンハルト。
「……すまない、リュシア」
彼は私を抱きしめた。痛いほど強く。
「君の部屋でさえ、安全ではなかったとは……。私が君をここに留め置いていなければ、君は無防備にあの部屋に戻り、犯人と鉢合わせしていたかもしれない」
いや、犯人(セレナの手下)は私がいない時を狙ったんだと思いますけど。
「怖い思いをさせたね。……もう、決めた」
彼が顔を上げた。
その瞳には、狂気的なまでの決意が宿っていた。
「君の私室を廃止する」
「はい?」
「ヴァルモン公爵邸も、王宮内の君の部屋も危険だ。これからは、私の部屋で暮らそう。私の寝室にベッドを二つ並べる。それなら、どんな侵入者が来ても私が斬れる」
「ちょ、待ってください! それはさすがに……!」
「嫌か? ……そうだよな、まだ結婚もしていないのに」
レオンハルトはシュンと項垂れた。
チャンスだ。「嫌です」と言えば、距離が取れるかも――。
「ならば、こうしよう。部屋の壁を取り払って、二つの部屋を一つに繋げる。形式上は別室だが、実質はワンルームだ。これなら世間体も保てるだろう?」
保ててません。
それはもうリフォームという名の同棲です。
ドクン。
【星冠値:80 → 82】
条項がさらに輝く。
『互イヲ遠ザケナイ』
その言葉が、物理的な距離だけでなく、心の距離さえもゼロにしようとしているようだった。
「……もう、君を一人にはしない。絶対にだ」
レオンハルトの腕の中で、私は遠い目をした。
悪役ムーブも、呪いの人形も、すべてがスパイスにしかならなかった。
私の婚約破棄計画は、もはや「脱出不可能な要塞からの脱獄」くらいの難易度になっていた。
(セレナ……次はもっとマシな罠を仕掛けてよ……。私のアリバイを崩せるくらいの、高度なトリックをお願い……)
私は心の中で、敵であるはずのヒロインにエールを送った。
しかし、そのセレナが逃げ込んだ先で、さらなる闇と接触していることを、私はまだ知らなかった。
小鳥のさえずりと共に目覚めた私は、目の前の光景に絶句した。
黄金の髪。
陶器のような肌。
長い睫毛。
至近距離で、レオンハルト殿下がスヤスヤと眠っている。
「……ぎゃああああッ!!」
私は悲鳴を上げて飛び起きた。
そうだ。思い出した。
昨日、《星冠の誓約》がレベル80に到達し、トンデモ条項が追加されたのだった。
『一刻たりとも離れることを禁ず』
この呪いのような一文のせいで、私の寝室は王太子の執務室の隣にある「仮眠室(という名のスイートルーム)」に移され、しかも壁一枚隔てただけの状態で夜を過ごすことになったのだ。
さすがに同じベッドではないが、ドアは常に解放されており、私の寝息が聞こえる距離に彼がいる。
「……おはよう、リュシア。元気な悲鳴だね」
レオンハルトがむくりと起き上がり、爽やかに微笑んだ。寝癖一つない完璧なイケメンぶりが憎らしい。
「元気じゃありません! これはプライバシーの侵害です! 人権蹂躙です!」
「何を言うんだ。条項には『互いの名誉を守るため』とある。君が一人で寝ていて、もし悪夢にうなされたらどうする? 私がすぐに駆けつけられるこの距離こそが、君の名誉と安眠を守る最適解だ」
ダメだ。話が通じない。
このままでは、なし崩し的に「事実婚」状態が固定されてしまう。
来月の『白花の儀』を待つまでもなく、外堀どころか内堀まで埋められて、本丸(結婚)が陥落してしまう!
(……落ち着け、私。まだ手はある)
私は深呼吸をした。
距離を取れないなら、精神的に突き放せばいい。
そう、原点回帰だ。
私は悪役令嬢。彼が最も嫌うであろう「わがままで贅沢で、感謝を知らない女」を演じきればいいのだ。
「殿下」
私はツンと顎を上げた。
「朝食ですが、パンとスープなんて貧相なものは食べたくありませんわ。朝からフォアグラとキャビア、それと最高級のシャンパンを持ってきてください」
どうだ。
朝から酒と高級食材を要求する悪女ムーブ。
これにはさすがの彼も「なんて浪費家だ」と眉をひそめるはず。
しかし、レオンハルトは真剣な顔で頷いた。
「……なるほど。君は今の王宮の『食料備蓄』と『流通網』をテストしようとしているんだな?」
「は?」
「突然の無理難題なオーダーに対し、厨房がどれだけ迅速に対応できるか。そして、高級食材の在庫管理が適切に行われているか。……有事の際、王族の食事を守るための抜き打ち検査というわけか」
違います。ただの暴食です。
「すぐに手配させよう。君の厳しいチェックに、料理長も奮起するはずだ」
数十分後。
テーブルには山のような御馳走が並べられ、料理長が「リュシア様のおかげで、賞味期限ギリギリだった高級食材を廃棄せずに済みました!」と涙ながらに感謝してきた。
……なぜだ。なぜ私の悪意は、すべて善行に変換されてしまうのだ。
◇
午後。
執務室での公務中、私は次なる作戦に出た。
「サボタージュ」だ。
王太子の婚約者として、書類の決裁補助などを任されているのだが、私はあえてペンを放り投げた。
「あーあ、つまらない。こんな地味な仕事、やってられませんわ。私、お買い物に行ってきます」
仕事放棄。
これは社会人として、いや王族としてあるまじき行為だ。
さあ、怒れ! 「責任感のない女は出て行け」と!
レオンハルトは書類から顔を上げ、優しく微笑んだ。
「そうか。少し休憩が必要だったな。……君が『つまらない』と言うのは、この程度の事務作業は君の能力に見合っていないという抗議だろう?」
「……え?」
「君のような英才を、単なる書類整理に縛り付けるのは国の損失だ。もっと外に出て、市場の動向や流行を視察し、経済を肌で感じたい……そういうことだね?」
ポジティブ変換機能がバグっているとしか思えない。
「行ってくるといい。君のセンスで選んだ品々は、きっと新たな流行を生み出し、経済効果をもたらすだろう。もちろん、支払いは王家のツケで構わない」
「……」
私は無言でペンを拾い、仕事に戻った。
買い物に行ったら行ったで、「リュシア様が選んだスカーフが大流行!」とかいうニュースになり、さらに評価が上がる未来しか見えなかったからだ。
◇
その日の夕方。
私が執務室で腐っていると、廊下が何やら騒がしくなった。
「大変です! リュシア様のお部屋から、とんでもないものが!」
飛び込んできたのは、侍女のマリーではなく、見知らぬメイドだった。
そしてその後ろから、青ざめた顔(という演技)をしたセレナと、数人の衛兵が入ってきた。
「殿下……! 怖いですぅ……!」
セレナがレオンハルトにすがりつこうとするが、私が(誓約の強制力で)ぴったり横に張り付いているため、近寄れない。
彼女は悔しそうに唇を噛みつつ、ハンカチで涙を拭った。
「リュシア様のお部屋の掃除をしていたら……ベッドの下から、こんなものが……」
衛兵が証拠品を提示する。
それは、藁で作られた人形だった。
胸には「セレナ」と書かれた紙が貼られ、無数の針が突き刺さっている。
さらに、人形のそばには、黒い封筒に入った手紙があった。
『憎きセレナへ。お前さえいなければ、私が王妃になれるのに。呪い殺してやる』
……ベタだ。
あまりにもベタすぎる「呪いのアイテム」セットだ。
昭和のドラマでももう少し捻るだろう。
「リュシア!」
セレナが芝居がかった声で叫んだ。
「まさか、ここまで私を恨んでいたなんて……! 口では綺麗事を言っても、裏ではこんな呪術に手を染めていたんですね!」
周囲の衛兵たちが、疑いの眼差しを私に向ける。
呪術はこの国では重罪だ。
もしこれが私の仕業だと認定されれば、婚約破棄どころか、地下牢行きは免れない。
(やった……!)
私は心の中で歓喜した。
セレナ、ありがとう!
君のその安っぽい陰謀こそが、私が求めていた「決定的な汚点」よ!
これでレオンハルトも私を庇いきれないはず。
「さあ殿下、この恐ろしい女を裁いてください! 私の命が危ないんです!」
セレナが勝ち誇ったように訴える。
レオンハルトは、冷たい目で人形を見つめ、そして私を見た。
「……リュシア」
「はい。申し開きはいたしません。それは私の部屋から見つかったものですから」
私は潔く認めた。
さあ、手錠をかけろ! 私を牢屋へ連れて行け!
「……ふっ」
レオンハルトが笑った。
それは、怒りでも悲しみでもなく、呆れ果てたような嘲笑だった。
「セレナ。君は……バカなのか?」
「へ?」
セレナが素っ頓狂な声を出す。
「この人形がリュシアの部屋のベッドの下にあったと言ったな?」
「は、はい! 間違いありません!」
「リュシアは昨日から一歩も、私の執務室とその隣の仮眠室から出ていない」
「……え?」
「《星冠の誓約》により、彼女は私と片時も離れることができない。食事も、仕事も、睡眠も、すべて私の監視下にあった。トイレに行くときでさえ、ドアの前で私が待機していた」
恥ずかしい事実を暴露された。
「つまり、リュシアが自分の部屋に戻り、ベッドの下に人形を隠すことは物理的に不可能なのだよ。……私という最強のアリバイがある以上、彼女に犯行は不可能だ」
あ。
忘れてた。
そういえば私、軟禁されてたんだった。
セレナの顔色が、みるみるうちに蒼白になっていく。
「そ、それは……魔法か何かで遠隔操作を……!」
「記録石を確認するか?」
レオンハルトが懐に手を伸ばす。
「ひっ……!」
セレナは後ずさった。記録石を出されたら、魔法を使っていないこともバレる。
「それにしても」
レオンハルトの声が、急激に温度を失い、氷点下の怒りを帯びた。
「私の婚約者の部屋に、何者かが侵入し、こんな不気味なものを仕込んだということか? ……王宮の警備はどうなっている!」
ドガァァン!
レオンハルトが拳を机に叩きつけると、机に亀裂が走った。
衛兵たちが直立不動で震え上がる。
「これはリュシアへの嫌がらせであると同時に、王家のセキュリティに対する重大な挑戦だ! 侵入者を徹底的に探せ! 蟻の這い出る隙間もないほど調べ上げろ!」
「は、はいぃぃッ!!」
衛兵たちが蜘蛛の子を散らすように駆け出していく。
セレナも「わ、私も手伝いますぅ!」と言って、逃げるように部屋を出て行った。
残されたのは、私と、怒りに燃えるレオンハルト。
「……すまない、リュシア」
彼は私を抱きしめた。痛いほど強く。
「君の部屋でさえ、安全ではなかったとは……。私が君をここに留め置いていなければ、君は無防備にあの部屋に戻り、犯人と鉢合わせしていたかもしれない」
いや、犯人(セレナの手下)は私がいない時を狙ったんだと思いますけど。
「怖い思いをさせたね。……もう、決めた」
彼が顔を上げた。
その瞳には、狂気的なまでの決意が宿っていた。
「君の私室を廃止する」
「はい?」
「ヴァルモン公爵邸も、王宮内の君の部屋も危険だ。これからは、私の部屋で暮らそう。私の寝室にベッドを二つ並べる。それなら、どんな侵入者が来ても私が斬れる」
「ちょ、待ってください! それはさすがに……!」
「嫌か? ……そうだよな、まだ結婚もしていないのに」
レオンハルトはシュンと項垂れた。
チャンスだ。「嫌です」と言えば、距離が取れるかも――。
「ならば、こうしよう。部屋の壁を取り払って、二つの部屋を一つに繋げる。形式上は別室だが、実質はワンルームだ。これなら世間体も保てるだろう?」
保ててません。
それはもうリフォームという名の同棲です。
ドクン。
【星冠値:80 → 82】
条項がさらに輝く。
『互イヲ遠ザケナイ』
その言葉が、物理的な距離だけでなく、心の距離さえもゼロにしようとしているようだった。
「……もう、君を一人にはしない。絶対にだ」
レオンハルトの腕の中で、私は遠い目をした。
悪役ムーブも、呪いの人形も、すべてがスパイスにしかならなかった。
私の婚約破棄計画は、もはや「脱出不可能な要塞からの脱獄」くらいの難易度になっていた。
(セレナ……次はもっとマシな罠を仕掛けてよ……。私のアリバイを崩せるくらいの、高度なトリックをお願い……)
私は心の中で、敵であるはずのヒロインにエールを送った。
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