断罪フラグをへし折った悪役令嬢は、なぜか冷徹公爵様に溺愛されています ~スローライフはどこへいった?~

放浪人

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第24話:湖底の呪いと、小さな落とし物

魔物の脅威は去った。
しかし、根本的な問題は、何も解決していない。
アレクシス公爵の言う通り、この湖を汚染し、魔物を生み出した『元凶』が、まだ、どこかに存在するはずだ。

「湖の底か……」

アレクシス公爵は、自らが凍らせた湖面を見下ろし、思案顔で顎に手を当てた。
分厚い氷が、湖全体を覆っている。
これでは、底の様子を窺うことはできない。

「少し、溶かす」

彼は、そう言うと、氷面に片手をかざした。
すると、彼の足元の氷だけが、すーっと、まるで解けるように、円形に穴を開けていく。
その魔力コントロールの精密さに、護衛の騎士たちが、またしても感嘆の声を漏らした。

やがて、直径2メートルほどの、円い穴が開き、その下に、どす黒く濁った水底が見えた。
瘴気の発生源は、明らかに、この湖の中心だ。

「……あったぞ」

アレクシス公爵が、低い声で言った。
彼の視線の先、湖の底で、何かが、ぼんやりと、黒い光を放っていた。
それは、拳ほどの大きさの、黒水晶のような石だった。
不規則に明滅するその光は、邪悪な魔力そのもの。見ているだけで、気分が悪くなってくる。

「魔石……か? いや、違うな」

彼は、厳しい表情で、首を横に振った。

「天然の魔石が放つ光ではない。これは……人工的に、極めて悪質な呪いを込められた、『呪いの石』だ」

「呪いの石……?」

私が聞き返すと、彼は頷いた。

「ああ。これ一つで、森一つを、丸ごと死の土地に変えるほどの代物だ。これを、何者かが、意図的にこの湖に沈めたのだろう」

一体、誰が、そんな恐ろしいことを。
目的は、一体、何……?

「ともかく、これを回収する。放置すれば、また瘴気が溢れ出し、魔物が生まれる」

アレクシス公爵は、そう言うと、懐から、一枚の、白銀に輝く布を取り出した。
聖なる文様が刺繍された、特殊な布だ。

「直接触れるのは危険だ。この、浄化の布で包んで引き上げる」

彼は、布を水中に向かって投げ入れた。
布は、彼の意のままに、まるで生き物のように水中を泳ぎ、湖底の呪いの石を、ふわりと包み込んだ。
そして、ゆっくりと、こちらに上がってくる。

その、一連の作業を、私は、固唾を飲んで見守っていた。
無事に石が回収されようとした、その時だった。

「……あら?」

私の視界の端、湖のほとりの、枯れた草むらに、何か、小さなものが落ちているのが、目に入った。
ピンク色の、小さな何かが、泥の中で、きらりと光っている。

気になって、そっと近づき、それを拾い上げてみた。

「……髪飾り?」

それは、桜の花びらをかたどった、小さな、可愛らしい髪飾りだった。
七宝焼のような、艶やかな作りで、中央には、小さな宝石まで埋め込まれている。
こんな辺境の村の娘が持つには、あまりにも、華美で、高価な品物だ。

「どうした、イザベラ」

呪いの石の回収を終えたアレクシス公爵が、私のところにやってきた。

「いえ、こんなものが、落ちていましたの」

私は、手のひらの上の髪飾りを、彼に見せた。
彼は、それを見て、眉をひそめる。

「……桜、か。こんな華美な装飾品は、この村にはそぐわんな」

「ええ。それに、この辺りで、桜の木は見たことがございませんし……」

誰かの、落とし物?
でも、一体、誰の?
この、魔物が出た、危険な湖のほとりで?

「外部の者の、落とし物と考えるのが自然か」

アレクシス公爵が、呟く。
つまり、この領地に、私たちの知らない誰かが、侵入していた……?
そして、この髪飾りの持ち主が、呪いの石を沈めた犯人……?

様々な憶測が、私の頭の中を駆け巡る。
しかし、確証はない。
ただ、この小さな桜の髪飾りが、何とも言えない、不吉な予感を、私に与えていた。

その時は、まだ、気づかなかった。
この、小さな落とし物が、やがて、この領地を、そして、私と彼の運命を揺るがす、大きな事件へと繋がっていくことになるということを。

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