私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人

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7話「監察院への一本」

翌日。
オスヴァルドは宣言通り、豪華な馬車にセレナとカイルを乗せ、王都の登記院へと出発した。
晴れやかな顔で手を振る彼らを見送った後、私はすぐに自室へと戻った。

すでに準備は整っている。
私は黒い外套を深く被り、屋敷の裏口から目立たない辻馬車に乗り込んだ。
向かう先は、王都の行政区。その一角にひっそりと佇む、冷たい石造りの建物だ。

『王国監察院』。

財務、軍役、治安の監査権を持つ、王国で最も恐れられる独立機関。
貴族であろうと、不正があれば容赦なく断罪し、失脚させる権力を持っている。

私は受付で実家の侯爵家の紋章が押された紹介状を提示した。
すぐに奥の応接室へと通される。
殺風景な部屋の中央には、黒檀の机が一つだけ置かれていた。

数分後、扉が開き、一人の男が入ってきた。
銀色の髪をきっちりと撫でつけ、氷のように冷たい灰色の瞳を持った男。
王国監察院の監察官、ルーカス・セルジェだった。

「お待たせしました、ルクレール伯爵夫人。私はルーカス・セルジェ。この度の要件を伺います」

彼の声は低く、感情の起伏を一切感じさせない。
私は外套のフードを下ろし、深く一礼した。

「お忙しいところ、時間を割いていただき感謝いたします。本日は、ルクレール伯爵領の財務および軍役に関する『重大な懸念』についてご報告に参りました」

私は革鞄から、夜を徹して書き写した出納帳の写しと、不正な取引証文の束を取り出した。
机の上に並べられた書類を、ルーカスは無言で見下ろす。

「これは……」

「穀税の横流し、および領地資金の私的流用の記録です」

ルーカスは長い指で書類を一枚一枚めくり、その冷たい目で文字と数字を追い始めた。
紙が擦れる微かな音だけが、静寂の部屋に響く。
数分間、息の詰まるような沈黙が続いた。

やがてルーカスは書類から顔を上げ、私を真っ直ぐに見据えた。

「計理術、ですね。侯爵家に伝わるという」

「ご存知でしたか」

「ええ。この写しに記された矛盾の指摘は、極めて正確かつ論理的です。数字の歪みから大元の不正を割り出す手腕、お見事としか言いようがありません」

ルーカスの灰色の瞳に、わずかな感嘆の色が浮かんだ気がした。

「しかし、奥方。これはあなたのご夫君の首を絞めることになりますが、よろしいのですか?」

「私は、領民と私の息子を守るためにここへ来ました。不正を正すのに、身内であるかは関係ありません」

私の迷いのない言葉に、ルーカスは静かに頷いた。

「理解しました。ご提示いただいた証拠は、監査を始めるに十分な要件を満たしています。ただちに調査の手配を進めましょう」

彼は書類を丁寧に束ね直すと、ふと声を潜めた。

「奥方。監査が入れば、伯爵家は立ち行かなくなるでしょう。あなたが手を離せば、あの家は崩れます」

「ええ。崩れるべくして崩れるのです」

「……ご自身の身の安全は、確保できていますか?」

その問いに、私は小さく微笑んだ。
冷徹な監察官が見せた、ほんのわずかな気遣い。

「ご心配には及びません。明朝には、私は息子と共にあの家を出ますから」

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