私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人

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17話「社交界の処刑」

王都の冷たい風が、侯爵家の窓ガラスをカタカタと揺らしている。
暖炉の前で読書をしていた私の耳に、遠くから怒声が聞こえてきた。

「通せ! 私はルクレール伯爵だぞ! 自分の妻に会う権利があるはずだ!」

聞き慣れた、しかしひどく甲高く上ずった声。
オスヴァルドだった。

私は本を閉じ、静かに立ち上がった。
侯爵家の頑丈な鉄格子の門の前で、オスヴァルドが警備の騎士たちに詰め寄っているのだろう。

「お嬢様、いかがなさいますか」

控えていた老執事が、心配そうな顔で問いかけてきた。

「私が対応します。門を開けず、鉄格子越しで構いませんから、彼を少しだけ落ち着かせてください」

私は厚手のショールを羽織り、玄関ホールへと向かった。
冷たい外気の中、門の向こうに立つオスヴァルドの姿が見えた。
いつもは完璧に整えられている金髪は乱れ、目の下には濃い隈ができている。
身につけている夜会用の燕尾服も、どこかヨレヨレに見えた。

「リディア! やっと出てきたか!」

私を見るなり、彼は鉄格子を力任せに掴んで叫んだ。

「ひどいじゃないか! 君が根も葉もない噂を流すから、私は社交界で笑い者にされているんだぞ!」

彼の目には、血走った怒りが浮かんでいた。
聞くところによれば、昨夜開かれた王宮の夜会で、彼は完全に孤立したらしい。
誰も彼に話しかけず、挨拶すら無視され、遠巻きに冷ややかな視線を向けられるだけ。
『正妻を追い出し、国を欺く愚か者』としての、完全な社会的処刑。

「私が噂を流したわけではありません。旦那様とセレナが、自ら招いた結果です」

私は感情を交えず、淡々と事実だけを口にした。

「ふざけるな! そもそも君が家を飛び出さなければ、こんなことにはならなかった! 今すぐ荷物をまとめて戻ってこい。君の印章が必要なんだ!」

彼が求めているのは、やはり私ではなく「印章」と「実務をこなす手」だ。
愛人のドレスを買い、自分の体裁を保つための資金。
それが底をつきかけているからこそ、こうしてなりふり構わず怒鳴り込んできたのだろう。

「持参金契約第12条に基づく別居は合法です。そして、私はすでに王国登記院に対し、正式な離縁の申し立てを行っております」

「……離縁、だと?」

オスヴァルドの顔の筋肉が、ピクッと引きつった。

「ええ。監査の結果が出次第、ルクレール家には持参金の全額返還と違約金の請求が回るはずです。私はもう、あなたとは何の関係もありません」

「ふざけるな! 誰が離縁など認めるものか!」

オスヴァルドは鉄格子をガタガタと揺らし、獣のような唸り声を上げた。

「君は私の妻だ! レオンも私の息子だ! 勝手に出て行くことなど絶対に許さない!」

彼の瞳の奥には、どす黒い支配欲と執着が渦巻いていた。
愛していないくせに、自分の所有物が手元から離れることだけは我慢できない。
それが、オスヴァルド・ルクレールという男の底知れぬ身勝手さだった。

「逃げられると思うな」

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