私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人

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20話「贈り物の毒」

「開けますか?」

執事の問いかけに、私は小さく手を上げて制した。

「待って。むやみに触らないで」

私は木箱から数歩離れた位置に立ち、じっとその表面を見つめた。
目を閉じ、深く息を吸い込む。
そして目を開くと同時に、魔力を瞳に集中させた。

『計理術』。

私の視界がふわりと青く染まる。
数字や契約の歪みを見抜くこの力は、対象に込められた不自然な魔力の流れを可視化することもできる。

青い視界の中で、木箱の底の部分から、赤黒い靄のようなものがモヤモヤと立ち上っているのが見えた。

「……やはり。単なる贈り物ではありませんね」

私は冷や汗が背中を伝うのを感じながら呟いた。

「お嬢様、これは一体……?」

「『追跡紋』です。触れた者の魔力を記憶し、その居場所を術者に教え続ける呪符の一種。おそらく、リボンの裏か箱の底に紋章が刻まれているはずです」

執事が息を呑む音が聞こえた。

オスヴァルドは、この贈り物をレオンに直接触れさせるつもりだったのだ。
レオンがこれを受け取れば、彼が侯爵家のどこにいるのか、どの部屋で寝起きしているのかが完全に筒抜けになる。

「なんという卑劣な……! すぐにこの箱を処分いたします!」

「ええ、お願いします。ただし、屋敷の中で燃やしては駄目。離れた森の中で、痕跡が残らないように完全に灰にしてください」

「承知いたしました」

執事が分厚い革手袋をはめ、慎重に木箱を持ち出して部屋を出て行く。

私はその場にへたり込みそうになるのを必死でこらえた。
もし、私が気づかずにレオンに箱を渡していたら。
息子は自分の居場所を常に監視され、いつ誘拐されるかもわからない恐怖に晒されることになっていた。

「お父様……」

背後から、小さな声がした。
振り返ると、扉の隙間からレオンが不安そうな顔を覗かせていた。

「お母様、今のお父様からのプレゼントだったの?」

彼の翡翠色の瞳が、微かに潤んでいる。
父親からの贈り物を楽しみにする気持ちが、少なからずあったのだろう。

私は胸が締め付けられる思いでレオンに駆け寄り、その小さな体を強く抱きしめた。

「ごめんなさい、レオン。あれは……間違えて届いたものだったの」

嘘をつく私の声が震える。
レオンは賢い子だ。私の嘘に気づいているかもしれない。
それでも、彼は黙って私の背中に腕を回し、小さく頷いた。

その夜。
私はレオンを寝かしつけた後、自室の窓辺に立って外の暗闇を見つめていた。
追跡紋を仕掛けたということは、オスヴァルドは強硬手段に出るつもりだ。

冬の冷たい風が吹き抜ける中、侯爵家の敷地を取り囲む鉄格子の向こう側で、微かな金属音が聞こえた気がした。

目を凝らすと、街灯の薄明かりの中に、数人の黒い影がうごめいている。

「……来たのね」

私は唇を噛み締めた。

影の一つが月明かりに照らされ、その胸元に銀色の鈍い光が反射した。

門の外に、伯爵家の紋章が……!

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