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28話「救うのは誰のため」
「直轄化……」
私は力なく呟き、ソファの背もたれに体を預けた。
王国の直轄地になれば、領民たちはとりあえずの餓死は免れるかもしれない。王家の備蓄が分配されるからだ。
だが、厳しい税の取り立てと、他所から派遣された冷酷な代官による支配が待っている。
私が何年もかけて領民たちと築き上げてきた、信頼と豊かな土壌は完全に破壊されてしまうだろう。
「奥様! どうか、どうか領地をお救いください! あなた様が代わりに戻ってくださるなら、皆で暴動を止めてみせます!」
マティアスが再び床に膝をつき、血の滲むような声で懇願する。
私の心は激しく揺れ動いていた。
助けたい。あの領地は、私が青春のすべてを捧げて立て直した場所だ。領民たちの顔も、名前も、すべて覚えている。
だが、私が手を出せば、それは法的にオスヴァルドの罪を軽減させることになりかねない。
「……マティアス村長。少しだけ、席を外してはくれませんか」
ルーカスが静かに促すと、村長は何度も頭を下げながら部屋を出て行った。
暖炉の火だけが赤々と燃える部屋で、私とルーカスは無言で見つめ合った。
「迷っておられますね」
ルーカスの灰色の瞳が、私の内面をすべて見透かすように光る。
「……領民たちには、何の罪もありません。彼らを見捨てることは、私には……」
「ええ。あなたはそういう方だ。冷徹に契約と法を使いこなす一方で、本質的な部分では誰よりも情に厚い」
ルーカスはゆっくりと歩み寄り、私の目の前に立った。
「ですが、忘れないでください。あなたが今、情に流されて伯爵を助ければ、これまでの苦労がすべて水の泡になります。あの男は再びあなたを『便利な道具』として扱い、同じ過ちを繰り返すでしょう」
「わかっています! だからこそ……どうすればいいのか……」
私は両手で顔を覆い、深く息を吐き出した。
冷たい理性が「見捨てろ」と囁き、温かい感情が「救え」と叫んでいる。
その時、ルーカスが不意に私の肩にそっと手を置いた。
冬の冷気を帯びた彼の手は、しかし不思議なほど確かな温もりを持っていた。
「救うのは領民で、夫ではない。そうでしょう?」
その言葉に、私は顔を上げた。
「監察院の監査責任者として、私から一つ提案があります。これを飲めば、夫を完全に排除しつつ、領民を救うことができます。ただし……あなたにはもう一度、あの泥沼の領地経営に足を踏み入れてもらうことになりますが」
ルーカスの提案。
それは、法の網目を縫うような、極めて冷酷で、かつ完璧な打開策だった。
私は目を閉じ、一度だけ深く深呼吸をした。
オスヴァルドのためではない。私自身の誇りと、私を信じてくれた領民たちのために。
「わかりました」
目を開いた私の瞳には、もう一片の迷いもなかった。
私はマティアスを部屋に呼び戻し、真っ直ぐに彼の目を見て告げた。
「助けます。ただし条件があります」
私は力なく呟き、ソファの背もたれに体を預けた。
王国の直轄地になれば、領民たちはとりあえずの餓死は免れるかもしれない。王家の備蓄が分配されるからだ。
だが、厳しい税の取り立てと、他所から派遣された冷酷な代官による支配が待っている。
私が何年もかけて領民たちと築き上げてきた、信頼と豊かな土壌は完全に破壊されてしまうだろう。
「奥様! どうか、どうか領地をお救いください! あなた様が代わりに戻ってくださるなら、皆で暴動を止めてみせます!」
マティアスが再び床に膝をつき、血の滲むような声で懇願する。
私の心は激しく揺れ動いていた。
助けたい。あの領地は、私が青春のすべてを捧げて立て直した場所だ。領民たちの顔も、名前も、すべて覚えている。
だが、私が手を出せば、それは法的にオスヴァルドの罪を軽減させることになりかねない。
「……マティアス村長。少しだけ、席を外してはくれませんか」
ルーカスが静かに促すと、村長は何度も頭を下げながら部屋を出て行った。
暖炉の火だけが赤々と燃える部屋で、私とルーカスは無言で見つめ合った。
「迷っておられますね」
ルーカスの灰色の瞳が、私の内面をすべて見透かすように光る。
「……領民たちには、何の罪もありません。彼らを見捨てることは、私には……」
「ええ。あなたはそういう方だ。冷徹に契約と法を使いこなす一方で、本質的な部分では誰よりも情に厚い」
ルーカスはゆっくりと歩み寄り、私の目の前に立った。
「ですが、忘れないでください。あなたが今、情に流されて伯爵を助ければ、これまでの苦労がすべて水の泡になります。あの男は再びあなたを『便利な道具』として扱い、同じ過ちを繰り返すでしょう」
「わかっています! だからこそ……どうすればいいのか……」
私は両手で顔を覆い、深く息を吐き出した。
冷たい理性が「見捨てろ」と囁き、温かい感情が「救え」と叫んでいる。
その時、ルーカスが不意に私の肩にそっと手を置いた。
冬の冷気を帯びた彼の手は、しかし不思議なほど確かな温もりを持っていた。
「救うのは領民で、夫ではない。そうでしょう?」
その言葉に、私は顔を上げた。
「監察院の監査責任者として、私から一つ提案があります。これを飲めば、夫を完全に排除しつつ、領民を救うことができます。ただし……あなたにはもう一度、あの泥沼の領地経営に足を踏み入れてもらうことになりますが」
ルーカスの提案。
それは、法の網目を縫うような、極めて冷酷で、かつ完璧な打開策だった。
私は目を閉じ、一度だけ深く深呼吸をした。
オスヴァルドのためではない。私自身の誇りと、私を信じてくれた領民たちのために。
「わかりました」
目を開いた私の瞳には、もう一片の迷いもなかった。
私はマティアスを部屋に呼び戻し、真っ直ぐに彼の目を見て告げた。
「助けます。ただし条件があります」
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