私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人

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40話 正妻ではなく、母であり私

柔らかな春の陽光が、白いレースのカーテンを透かして部屋の中に降り注いでいる。

私が新しい家で目覚めるようになってから、数ヶ月の月日が流れていた。

「お母様! 見て、鳥さんが来てる!」

庭から聞こえるレオンの明るい声に、私はキッチンでパンをこねる手を止めた。
窓越しに外を覗くと、レオンが小さな木剣を片手に、芝生に降り立った小鳥を追いかけて笑っている。
その笑顔には、ルクレール家にいた頃のような、大人の顔色を窺うような影は微塵もない。
年相応の、無邪気で純粋な子供の顔だった。

「走ると転ぶわよ、レオン」

私が窓から声をかけると、レオンは「はーい!」と元気よく手を振り返した。

オーブンから、焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂ってくる。
私はエプロンで手を拭きながら、リビングの壁に掛けられた鏡の前に立った。

鏡に映る自分を見つめる。

そこには、豪華なドレスも、重苦しい宝石も身につけていない、質素なワンピース姿の女性がいた。
侯爵令嬢としての張り詰めた威厳も、伯爵夫人としての完璧な愛想笑いもない。

私はゆっくりと、自分の顔の筋肉を動かしてみた。

口角が自然に上がり、目元が優しく和らぐ。
誰に強いられたわけでもない、心からの穏やかな微笑み。
それが、今の私の本当の顔だった。

週に三日、私は監察院の特別監査室に出向き、ルーカスと共に王国の不正を暴く仕事をしている。
自分の能力が正当に評価され、国のために役立っているという実感は、私に確かな誇りを与えてくれた。
そして残りの日は、こうしてレオンと共に、静かで温かい時間を過ごしている。

誰かの「下」になることを強要される理不尽も、誰かの「可哀想」という嘘に振り回される苦痛も、ここにはない。

トントン、と。
玄関の扉が控えめにノックされた。

「リディア様。監察院より、新しい資料をお持ちしました」

ルーカスの、低く落ち着いた声が聞こえる。
私は鏡の中の自分にもう一度微笑みかけ、玄関へと歩き出した。

冷たい氷の仮面を被り、感情を押し殺して領地を支え続けた日々。
それは確かに苦しい時間だったが、その経験があったからこそ、私は自分の足で立ち、この幸せを手に入れることができたのだ。

扉のドアノブに手をかける。
外から差し込む光が、私の手元を明るく照らした。

正妻の役目は終わった。だから私は、ようやく生きられる。

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