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第4話 旧市街へ
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王都の東側に広がる旧市街。
馬車を降りた瞬間、むせ返るような匂いがエリシアを包み込んだ。
羊毛を煮詰める脂の臭い、染物屋から流れる強い酸味、そして大河の河港から漂う泥と湿気。
貴族街の静けさとは無縁の、泥臭くも圧倒的な生活の熱気がそこにはあった。
行き交う人々は皆、擦り切れた服を着て足早に歩いている。
荷車を引く男たちの怒号と、職人の槌の音が響く中、エリシアは肩をすぼめて路地を歩いた。
「一部屋借りたいのですが……」
河港近くの薄暗い安宿で、エリシアはなけなしの銀貨を数枚、木製のカウンターに置いた。
片目の潰れた宿の主人は、銀貨とエリシアの顔を胡散臭そうに交互に見る。
「前金で十日分だ。お湯は別料金、食事は出ねえぞ」
「構いません」
案内された部屋は、屋根裏の狭く埃っぽい空間だった。
だが、贅沢は言っていられない。手持ちの金が尽きる前に、何としてでも稼ぐ手段を見つけなければならなかった。
エリシアは鞄から木箱の針箱を取り出し、指先でそっと撫でた。
修道院のシスターから教わった、細かな刺繍と縫製の技術。辺境伯領でも、領民の布の修繕を手伝っていた。
これしか、自分には武器がない。
息を整え、エリシアは織物職人が集まるギルドの支部へと足を運んだ。
羊毛と埃が舞う騒がしい建物の中、受付の木机に座る書記の男に声をかける。
「あの、縫製や修繕の仕事はありませんか。針仕事には自信がーー」
「紹介状はあるのか?」
書類から顔を上げた男は、エリシアの衣服を上から下まで値踏みするように見た。
質素だが、仕立ての良い布地。明らかにこの街の住人ではない。
「……ありません」
「なら帰んな。身元も知れねえ、後ろ盾もない没落貴族のお嬢ちゃんに回す仕事なんて、ここには一つもねえよ」
シッシッ、と犬を追い払うように手を振られる。
食い下がろうとしたが、男の冷たい視線はすでに別の書類へと移っていた。
分厚い木製の扉が、エリシアの目の前で乱暴に閉められる。
冷たい冬の風が、旧市街の薄暗い路地に吹き抜けていった。
馬車を降りた瞬間、むせ返るような匂いがエリシアを包み込んだ。
羊毛を煮詰める脂の臭い、染物屋から流れる強い酸味、そして大河の河港から漂う泥と湿気。
貴族街の静けさとは無縁の、泥臭くも圧倒的な生活の熱気がそこにはあった。
行き交う人々は皆、擦り切れた服を着て足早に歩いている。
荷車を引く男たちの怒号と、職人の槌の音が響く中、エリシアは肩をすぼめて路地を歩いた。
「一部屋借りたいのですが……」
河港近くの薄暗い安宿で、エリシアはなけなしの銀貨を数枚、木製のカウンターに置いた。
片目の潰れた宿の主人は、銀貨とエリシアの顔を胡散臭そうに交互に見る。
「前金で十日分だ。お湯は別料金、食事は出ねえぞ」
「構いません」
案内された部屋は、屋根裏の狭く埃っぽい空間だった。
だが、贅沢は言っていられない。手持ちの金が尽きる前に、何としてでも稼ぐ手段を見つけなければならなかった。
エリシアは鞄から木箱の針箱を取り出し、指先でそっと撫でた。
修道院のシスターから教わった、細かな刺繍と縫製の技術。辺境伯領でも、領民の布の修繕を手伝っていた。
これしか、自分には武器がない。
息を整え、エリシアは織物職人が集まるギルドの支部へと足を運んだ。
羊毛と埃が舞う騒がしい建物の中、受付の木机に座る書記の男に声をかける。
「あの、縫製や修繕の仕事はありませんか。針仕事には自信がーー」
「紹介状はあるのか?」
書類から顔を上げた男は、エリシアの衣服を上から下まで値踏みするように見た。
質素だが、仕立ての良い布地。明らかにこの街の住人ではない。
「……ありません」
「なら帰んな。身元も知れねえ、後ろ盾もない没落貴族のお嬢ちゃんに回す仕事なんて、ここには一つもねえよ」
シッシッ、と犬を追い払うように手を振られる。
食い下がろうとしたが、男の冷たい視線はすでに別の書類へと移っていた。
分厚い木製の扉が、エリシアの目の前で乱暴に閉められる。
冷たい冬の風が、旧市街の薄暗い路地に吹き抜けていった。
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