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第16話 体裁の圧
扉の向こうに立っていたのは、辺境伯家の家令グロスと、数名の屈強な護衛だった。
グロスの後ろには、豪奢な毛皮を羽織った老齢の女性――ロルフの伯母であるイルザの姿があった。
辺境伯家の「強硬派」と呼ばれる親族たちだ。
強烈な香水の匂いが、羊毛の香りのする工房に土足で踏み込んでくる。
エリシアはとっさにクララを背中に隠し、後ずさった。
「何用ですか。ここは私の仕事場です」
声を絞り出す。
イルザは汚い物でも見るように、狭い工房をぐるりと見渡した。
「相変わらず、底辺の暮らしがお似合いね。……単刀直入に言います。その子どもを、辺境伯家に引き渡しなさい」
イルザの甲高い声が、エリシアの鼓膜を刺す。
「ロルフは教会の誓約などという馬鹿げたものにサインしたようだけれど、辺境伯家の血を引く子どもを、こんなスラムで育てさせるわけにはいきません。金ならいくらでも出します。さっさと渡しなさい」
血の気が引く。
彼らは、ロルフの意思とは無関係に動いている。家の体裁を守るためなら、強引な手段も辞さない構えだ。
護衛の男たちが、ジリジリと距離を詰めてくる。
奪われる。
その恐怖がピークに達した瞬間、エリシアの心の中で何かが弾けた。
「……帰ってください」
震えていた声が、ピタリと止まる。
エリシアは顔を上げ、イルザを真っ直ぐに睨みつけた。
「クララは私の娘です。あなたたちの家の道具ではありません!」
「生意気な! 誰に向かって口を利いているの!」
イルザが顔を真っ赤にして叫び、護衛に顎でしゃくった。
男たちが手を伸ばしてきたその時。
「そこまでだ」
静かだが、底冷えのするような声が工房に響いた。
いつの間にか、リュシアンがエリシアの前に立ち塞がっていた。
彼の横には、分厚い規定書を抱えたギルドの書記、ヨアヒムの姿もある。
「ここはギルドの保護下にある正規の工房です。不法な侵入と脅迫は、都市評議会への告発対象になりますよ」
ヨアヒムが、眼鏡の奥で鋭く目を光らせた。
理不尽な圧力に対して、法と制度の盾が立ちはだかる
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奪われる。
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「……帰ってください」
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「生意気な! 誰に向かって口を利いているの!」
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「そこまでだ」
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いつの間にか、リュシアンがエリシアの前に立ち塞がっていた。
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