五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人

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第52話 旅の準備

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 ロルフが辺境へ戻るという知らせを聞いた翌日。
 工房にやって来たヨアヒムとリュシアンの顔は、ひどく真剣なものだった。

「エリシア。辺境への物資輸送の目処は立ちましたが、現地からの報告で、重大な問題が発覚しました」

 リュシアンがテーブルに広げたのは、辺境の施療所からの切実な要請書だった。
 そこには、王都から送られる祝布だけでは冬を越すには圧倒的に足りず、現地の職人たちに直接、祝布の製法を指導してほしいという内容が記されていた。

「ギルドとしても、これは見過ごせません。……エリシア殿。指導役として、辺境へ赴いていただけないでしょうか」

 ヨアヒムの言葉に、エリシアは自分の指先を見つめた。
 辺境。五年前、すべてを奪われ、雪の中を一人で追い出されたあの忌まわしい土地。
 だが、胸の奥にあるのは恐怖ではなかった。自分の織る布が、あそこで凍えている人々の命を繋ぐのだという、職人としての強い誇りだった。

「……行きます。現地の職人たちに、私の技術をすべて伝えます」

 エリシアが顔を上げて宣言すると、リュシアンがふわりと微笑み、大きく頷いた。
 その夜から、慌ただしい旅の準備が始まった。
 丈夫な麻袋に、使い慣れた針箱や染料の小瓶を詰め込んでいく。羊毛と防虫剤のツンとした匂いが、部屋いっぱいに広がった。

 ロルフには、ギルドを通じて同行の知らせが届いているはずだ。
 かつての彼なら、「女子供が辺境の厳しい環境に来るなど非合理的だ」と冷たく切り捨てていただろう。
 だが、彼から届いた返書には、たった一言だけが記されていた。

 『街道の安全と、現地の工房は完全に保証する。君の仕事の邪魔はしない』

 それは、彼女を自分の庇護下に閉じ込めるのではなく、一人の自立した職人として尊重し、見守るという彼なりの約束だった。
 自由の中にある、確かな守り。
 エリシアは返書を丁寧に折りたたみ、鞄の奥へとしまった。

 そして、出発の日の朝。
 窓ガラスを叩く、パラパラという冷たい音で目を覚ました。
 外は、王都の景色を白く煙らせるような、細く冷たい雨が降っていた。
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